蛍の季節に、キミはまた会いに来る


「古川! おはよ!」

まさかとは思ったけれど、教室の扉を開けた瞬間に大きな声で名前を呼ばれ、全身に冷たい不安の波が覆いかぶさってきた。
朝のホームルーム前の騒がしい教室内を、彼の声は恐ろしいほどあっさりと通り抜けて私のもとへ届く。
……こんな声量で呼ばれて、周りのみんなが反応しないわけがない。

私は心臓を嫌な音で跳ねさせながら、聞こえないフリをして自分の席へとまっすぐ歩き、鞄を下ろした。

「昨日あのあと、ちゃんと家帰れた?」

ドキリと心臓が跳ね上がったときには、もう手遅れだった。

「なになに? 昨日ってなに!? え、お前俺に黙って二人で会ってたの!?」

黒崎くんの隣にいた好奇心旺盛な瀬戸くんが、面白がるように大きな声を張り上げる。
……案の定、クラス中の視線が一斉に私へ突き刺さった。

「お前には関係ねぇだろ」
「うっわ、冷た! 俺に隠し事すんの? 俺たち親友じゃん!」
「いちいち報告する必要がどこにあるんだよ」

二人が言い争っている間にも、刺さる視線の数はどんどん増えていく。

刺々しい視線の中に混ざる、あからさまな嫉妬の熱。
……たぶん、冷たい目を向けてきている女子たちは、黒崎くんに好意を寄せているのだろう。
無数の鋭い眼差しが体に突き刺さり、服の下からボタボタと血が流れてしまいそうな錯覚さえ覚える。

「ねぇ、黒崎くん。なんの話をしてるの?」

ほら、来た——。
声の主が浮かべる愛想の良い笑顔の裏には、私に対するねっとりとした不快感と憎しみがたっぷりと込められていた。