「まあ、何言ってるか俺にはさっぱり分かんねぇけどさ。無視するのは無理だな」
「……どうして?」
「人として、無視は良くないだろ」
「そんなヤンキーみたいな外見しておいて『無視は良くない』? ふだんから人なんて無視してそうなのに?」
私の容赦ない言葉に、彼はハッと息を漏らして笑うと、余計にムキになったように眉を寄せた。
「うわ、出た。見た目だけで人を決めつけるやつ。失礼極まりないなお前」
「そんなだらしのない格好をしてるんだから、悪く言われても仕方ないんじゃない?」
「……これは、個性ですー」
「はい出た。何でも『個性』って言って校則違反を正当化する人」
私の容赦ない追撃に、彼はぐうの音も出なくなったのか、急に押し黙った。
……どうやら、私の勝ちのようだ。
——けれど、ふと正気に戻ってハッとした。
私は一体、何をこんなしょうもない言い合いに熱くなっているんだろう。
関わりたくないのなら、最初から私の方こそ相手を無視すればいいだけの話なのに。
そのとき、暗闇の奥からブオン、と低く響く車の走行音が近づいてきた。
私は反射的に肩をすくめると、黒崎くんの後ろへ滑り込むようにして体を隠し、深く顔を伏せた。
夜道に白く伸びる車のリフレクターライトに顔を照らされないよう、すれ違う車の動きに合わせて、くるりと背中の向きを変えていく。
……転校早々、夜の田舎道で男子生徒と二人で歩いているところなんて、誰にも見られたくない。
遠ざかっていくエンジン音が完全に夜の静寂の中に消え去った頃、私はそっと彼の背中から離れ、再び歩みを進めた。
静まり返った夜の空気の中、どこか遠くの草むらから、気の早い春の虫たちがささやかに鳴く声が聞こえてくる。
冷たい夜風が吹き抜けるたび、新芽を吹き始めた街路樹の葉がサワサワと微かな音を立てて揺れた。
「ねぇ、だからさ。お前何にそんな怒ってるわけ?」
「…………」
「理由も分かんないままそんな態度取られると、正直イラッとするんだけど」
——そう。
それでいい。
そのまま私に苛立って、愛想を尽かして、「関わりたくない」と思ってくれればそれでいいの。
あなたのその感情は何も間違っていない。
どうか私にイライラして、明日からの学校でも、私を透明人間みたいに無視してくれれば……。



