「はいそうですか分かりました、なんて引き返せるわけないだろ。じいちゃんに頼まれたし……それに、うちの母さんからだって言われてんだから。古川が困ってたら、助けてやれって」
「だったら明日、私から豊田さんとあなたとのお母さんにきちんとお話ししておきます。『今後、送っていただく必要はありません』って」
私は前を見つめたまま答え、足を速めた。
少しでも彼との物理的な距離を開けておけば、万が一誰かに目撃されたとしても、二人で歩いているなんて誰も思わないはずだから。
「……ちょっと待てって!」
グイッと右腕を強めに引っ張られ、私の足が強制的に止められる。
数メートル先には、ぽつんと立つ古びた街灯。
夜の暗闇に押し潰されそうなその淡い光はひどく弱々しくて、今にもフッと消えてしまいそうだった。
「なんでそんなに俺のこと避けるんだよ。俺、お前に何かしたか?」
私は一度固く目を閉じると、この状況に対する心底面倒くさそうな感情を隠そうともせず、深く、長めの溜息を吐き出した。
「そう。あなたは何もしてない。だから、何もしなくていいの。今も、これから先もずっと」
「……は?」
「私に関わらないで。うちが豊田さんとか、あなたのお母さんたちにお世話になってるのは事実だけど、あなた個人には何の関係もないことなんだから。これから私が豊田さんの家に行くことがあったとしても、あなたは私のことなんて無視してくれて構わないから」
田舎の夜は、恐ろしいくらいに静かだ。
静寂に溶けていくはずの私の冷たい言葉が、夜道にどこまでも高く響き渡っていく。
きっと今はこの街灯の儚い光よりも、私の拒絶の声の方がずっと強い力を持っている。
この大声の振動のせいで、あの頼りない灯りが本当に消えてしまうんじゃないかと思えるくらいに。



