蛍の季節に、キミはまた会いに来る


「い、いえっ! いいんです! 私、本当に大丈夫ですので! ひとりで全然平気ですから……っ!」

私はそれだけ早口で捲し立てると、ふたりの顔も見ずに、逃げるように黒崎くんの横をすり抜けようとした。

——けれど。

「っ……!」

ガシッと左腕を力強く掴まれ、自分の意思とは裏腹に足がピタリと停止する。
驚いて視線を落とすと、黒崎くんの大きな手が私のスウェット越しに腕を掴んでいた。

「送ってってやるから、ちょっと待ってろ」
「えっ、いや、あの……っ」
「じいちゃん、こいつ逃げないように見張ってて。スマホ取ってくるから」

黒崎くんはそう言い捨てると、隣にある少し新しい方の平屋の中へ小走りで消えていった。
そして1分もしないうちに、ポケットにスマホを突っ込んで戻ってきた。

「お、逃げずにちゃんと待ってたな」

逃げるも何も、黒崎くんが消えている間、豊田さんにしっかりと腕を掴まれていたのだから逃げられるはずがない。

……一体どうして、こんなことになっているんだろう。
一番関わりたくなかった相手と、月明かりしかない暗い夜道を二人きりで歩いているなんて。
本当に、一人で帰れたのに。
……結局、最後までキッパリと拒否しきれなかった私が悪いのだけれど。

「ねぇ、そんなに離れて歩かなくても良くないか?」

車一台がやっと通れるくらいの狭い農道の、右端と左端を極端に離れて歩き続ける私に向かって、彼が呆れたように深い溜息を吐いた。

「……私は一人で大丈夫ですので、どうぞお気になさらず帰ってください」

私は反対側の端を歩く彼の方を一度も振り向くことなく、前だけを見つめたまま声だけを返した。