「お〜、聖菜ちゃん。こんばんは」
またすぐ後ろから、のんびりとした声がかかった。
もうパンク寸前の私の頭からは、きっと今ごろ目に見えるレベルで白い煙が立ち上っていると思う。
「こんな夜に、女の子ひとりでどうかしたかい?」
心配そうに目を細める豊田さんのすぐ隣に、当たり前みたいな顔をして立つ黒崎くん。
私は豊田さんの質問に答えるのも忘れて、豊田さんと黒崎くんを、交互にまじまじと見比べてしまった。
……うん、あまり似ていない。
本当に、この二人がおじいちゃんと孫なんだろうか。
私がフリーズしたまま答えないでいると、豊田さんが不思議そうに首を傾げた。
「あ……あ、あの! これ、お父さんが作って……! よかったらどうぞ!」
私は我に返ると、必死に手を伸ばして筑前煮の入った袋を差し出した。
両手でしっかりと受け取った豊田さんは、途端に目元を和ませて表情を明るくする。
「うわぁ、これは嬉しいなぁ。女房に先立たれてからは一人だからね、こういう温かい手料理は本当に身に染みるよ」
「あ、ありがとうございます……」
豊田さんの穏やかで優しい口調に毒気を抜かれ、私はぎこちなく口角を上げた。
「せっかく来てくれたんだ。まあ、上がってお茶でも飲んでいきなさい」
「あ、いえ! 私はこれで失礼します! お父さんと残りの家事をやらなきゃいけないので……っ」
とっさに、嘘をついてしまった。
家事は全部、お父さんがやってくれている。
手伝おうとしても「お前は勉強や学校のことに集中しなさい」と言って、あまり私の手を借りようとしないのだ。
けれど、今はどんな嘘をついてでも、一刻も早くこの場から立ち去りたかった。
学校の外でまでクラスメイトと遭遇するなんて、今の私には刺激が強すぎる。
ただでさえ『目立たず、関わらず』を目標に掲げているのに。
「そうかい? ……それじゃあ達也、聖菜ちゃんを送っていってやりなさい。いくら田舎でも、夜道に女の子一人じゃ物騒だからね」
「えっ……!?」
豊田さんの唐突な提案に、私は思いきりブンブンと両手を横に振って猛拒否した。



