蛍の季節に、キミはまた会いに来る


豊田さんの家の敷地に入る直前で足を止め、暗闇の中にひっそりと沈む畑を見渡した。
……やっぱりどこか気味が悪くて、思わず小さく身震いしてしまう。

私は筑前煮の入ったビニール袋の持ち手をギュッと強く握りしめると、逃げるように豊田さんの家の玄関へ向かって小走りした。

豊田さんは、娘さん夫婦の家族と同じ敷地内に住んでいる。
広い敷地の中には、平屋の立派な家がふたつ並んでいた。
ひとつは築50年ほどの趣がある古びた平屋。
そしてもうひとつは、それよりも少しだけ新しい現代的な平屋だった。

私は築50年ほどの和風の平屋に向かうと、木枠の引き戸をトントン、と叩いた。
けれど、中からの反応はない。
すりガラスの向こうには淡いオレンジ色の灯りが漏れているから、留守というわけではなさそうなのけれど……。

もう一度、今度は少し強めにノックしてみる。
けれど、返ってくるのはやっぱり静まり返った空気だけだった。

もしかして、お隣の娘さん夫婦の家に行っているのかな?
諦めて隣の家に移動しようと踵を返しかけた、そのとき……。

「あ、古川」

背後から突然、低く静かな声が降ってきた。

「っっっっ!?」

あまりの恐怖に飛び上がり、一瞬で背中に嫌な汗が噴き出す。

「く、黒崎くん……!?」

勢いよく振り返ると、手に下げていたビニール袋がガサガサッと大袈裟な音を立てて揺れた。

「……び、ビビった。なんだよ、そんなに驚かなくてもいいだろ」

黒崎くんは少し肩をすくめると、呆れたように手で耳をさすった。

……ど、どうして。
どうして黒崎くんが、こんな夜の豊田さんの家にいるの……!?