蛍の季節に、キミはまた会いに来る


先に言っておくけれど、彼のことが気になっているなんてことは微塵もない。

私はただ、ホームルーム前の態度や、さっき彼が残した言葉が引っかかっているだけだ。

知り合いなんてひとりもいないはずの、この見知らぬ街。
それなのに「知っている」だなんて、一体どういうことなんだろう。

それに、親から頼まれていることって……?

転校初日は結局、その疑問だけで頭がいっぱいになってしまっていた。

けれど、それ以上の波風が立つこともなく無事に初日を終えることができて、私は胸をなでおろした。

放課後、どこにも寄ることなく真っ直ぐ家に帰ると、お父さんがキッチンで夕食の準備をしていた。

お父さんはこれまで、料理なんて一度もしたことがなかった人だ。
それなのに今は、スマホの料理アプリを器用に操作しながら、不器用な手つきで包丁を握っている。

お母さんが亡くなったばかりの頃は、コンビニのお弁当やスーパーのお惣菜ばかりだった。
けれど、さすがに毎日それでは体を壊してしまうと心配したのだろう。

出来上がった料理の見た目は、画面の中で紹介されている完成写真とは程遠いけれど、味はまあまあ、悪くはなかった。