これにて、恋を卒業します。

「じゃあ、放課後な」
彼はそう言って、購買のパンにかぶりついた。

私は隣で買ったばかりのメロンパンを見つめていた。

メロンパンって食べにくい。
表面の砂糖がぼろぼろ落ちるから袋を開けた瞬間から手が汚れる。

「ねえ」
「ん?」

「どこに行くの?」
「え?」

「放課後。付き合ってほしいところがあるんでしょ」
「ああ、それ?」
彼は口の中のパンを飲み込んだ。

「進路指導室」
「……は?」

「え、何?」

そうですか。
進路指導室ですか。

私はメロンパンを一口かじった。
さっきまで心臓が忙しかったのが馬鹿みたいだ。

「お前、顔やばいよ」
「元からこういう顔です」

「いや、今のは違うだろ」
「うるさいなぁ……」

彼は声を出して笑った。
……私もちょっとだけ笑った。

悔しい。

*

5時間目の数学は、人生で3番目くらいにつまらなかった。

1番目は中学のときの校長先生の話。
2番目は、去年の夏休み前に受けた進路講演会。
そして数学が3番目。

ちなみに、2番目の進路講演会では、講師の人が「夢を持つことが大切です」と3回言った。
夢があったら、こんなに困っていない。

私はノートの端に小さく丸を描いた。
その中に顔を描く。

目を2つ。鼻を1つ。口を1つ。
完成。
彼に似ていた。
……最悪。

私はシャーペンでその顔を塗りつぶした。

「じゃあ、この問題。分かる人」
先生の声がした。

教室が静かになる。
私は顔を上げた。

誰も手を挙げない。
先生が困ったように笑う。

「じゃあ、出席番号で……」

やめて。
お願いだから。

数学で当てられるくらいなら、まだ進路希望調査のほうがましだ。

「18番」

私の番号だった。

「はい、解いてみて」

私は黒板を見た。
本当に分からない。

隣の席の友達が、小さく口を動かした。
「ルート」

ありがとう。
でも、その先が分からない。
結局、途中まで書いて席に戻った。

「惜しいな」

先生が言った。
全然惜しくないわ。

私は椅子に座りノートを開いた。
さっき描いた顔は、まだ薄く残っていた。
消しゴムで消した。
跡形もなく。

……消しゴムって、便利だな。
人間関係にも、こういうものがあればいいのに。

いや、あったらあったで、私はきっと何度も使う。
それで最後には、何も残らなくなるんだろう。