○3話の翌日・日ノ出座の共同住居・朝
やや広めの談話室。
あざみ「はあ~っ!?」
憤慨の表情のあざみ。
※緋埜から3話終盤の出来事を聞いた。
あざみの他に、部屋には澄子、緋埜、鈴代、加代がいる。
あざみ「神森座の座長が……澄子、本当!?」
澄子「は、はい……まあ」
あざみ「はーっ、とんだ悪徳野郎ね!」
ぷりぷりと怒るあざみ。
あざみ「というか座長。聞いてないのだけれど」
鋭い視線で緋埜を見るあざみ。
緋埜「何が」
あざみ「神森座のこと! 澄子が今まで酷い目に遭ってたなんて……」
眉を下げるあざみ。
澄子は気まずそうに愛想笑いをする。
澄子「あの、そんなことより……皆さんにお土産が」
机の上に、焼き菓子の箱が置かれる。
あざみ「『そんなこと』じゃないわよ! ……あら美味しそうなお菓子」
怒りつつも箱の蓋を開け、ころりと機嫌を良くするあざみ。
鈴代「きゃーっ、素敵!」
加代「澄子ちゃんが選んでくれたの?」
目を輝かせて喜ぶ鈴代と加代。
澄子「はい。買ってくださったのは、緋埜さんですが……」
恥ずかしそうに微笑む澄子。
あざみ「ふふ。ありがとうね、2人とも」
笑顔で礼を言うあざみ。
鈴代「あ、待って」
ハッと気付く鈴代。
鈴代「座長が昨日までしばらく居なかったの、神森座に潜り込んでたから?」
緋埜「そうだ。悪い噂が耳に入ったのでな」
平然と答える緋埜。
加代「もー、座長! そういうのは私たちにも言ってよ~!」
あざみ「とにかく、座長。言いたいことはあるけど、事情は把握したわ。私たちも、神森のことは警戒しておくわね」
神妙な表情をするあざみ。
緋埜「ああ、助かる。本当なら俺が四六時中付いていてやりたいが、そうもいかないからな。今日も、昼から商談がある」
『商談』という言葉に、ぴくりと反応する澄子。
澄子「サアカス以外にもお仕事を?」
目を丸くする澄子。
※サーカスだけを仕事にしていると思っていた。
緋埜「少しな」
あざみ「何が『少し』よ。めちゃくちゃ稼いでるくせに」
からかうように言うあざみ。
澄子「め、めちゃくちゃ、ですか」
あざみ「そうよ。月に大体――円」
ひそ、と澄子に耳打ちするあざみ。
※金額のところだけ声を落としている。
澄子「!?」
更に目をまんまるにする澄子。
緋埜「運と取引先に恵まれているだけだ」
淡々と言う緋埜。
あざみ「はいはい」
肩をすくめるあざみ。
澄子(す、すごい金額……。それだけで3代は裕福に暮らせそう)
驚きの余韻で心臓がどきどきしている澄子。
澄子(でも、実際にはそれだけじゃなくて……日ノ出座も運営してる)
ふと考える澄子。
澄子(緋埜さん、サアカスが好きなんだろうな……)
少し嬉しそうに微笑む澄子。
○日ノ出座のテント・昼
あざみ「さて! それじゃあ、記念すべき初練習を始めましょうか」
ニコニコ笑顔で手を叩くあざみ。
澄子「はいっ!」
ぴしりと背を伸ばす澄子。
澄子(あれ? そういえば……)
ふと昨日のことを思い出す澄子。
イメージ図:自分が澄子と練習するのだと言い争う鈴代&加代と六太。
あざみ「ああ、鈴代加代と六太は、延々言い争ってキリがないから両成敗になったわ」
澄子の疑問を察し、答えるあざみ。
澄子「そ、そうだったんですね」
苦笑いをする澄子。
あざみ「私も一応、基本的な心得はあるから安心してね」
ウインクをするあざみ。
あざみ「というわけで、まずは基礎を見てみようかしら」
テント内の、開けた中央に移動するあざみと澄子。
あざみ「私の真似をしてみて」
澄子「はい」
足を上げ、ステップを踏むあざみ。
続いて、澄子はそれを真似てみせる。
更に、腕を上げたり、くるりと回ったりと、次々基本的な動きをする澄子。
澄子の様子を、あざみは笑顔で見守る。
そうしている間に、時計の針が進んでいく。
※長時間、練習が続いていくことを示す。
あざみ「うん、良いわね。ちょっと粗はあるけれど、しっかりしてるわ」
上機嫌に頷くあざみ。
澄子「あ、ありがとうございます」
恐縮する澄子。
あざみ「次は、そうねえ……何か覚えている踊りはある?」
澄子「神森座の方がやっていらしたものなら、少し」
あざみ「じゃあそれを」
期待のこもった表情で言うあざみ。
息を吸い、ゆっくりと踊り出す澄子。
回想:神森座に居た頃。舞台上で煌びやかに踊る女性団員たちと、テントの隅で寂しく踊る澄子。
澄子(ら、たらら……)
心の中で音楽を思い出しながら踊る澄子。
しかしその表情は、どこか不安げ。
※いまだに自己肯定感が低く、劣等感を抱えている。
やがて澄子は踊り終え、ぴたりと足を止める。
澄子「……ど、どうでしょうか」
姿勢を元に戻し、おっかなびっくり尋ねる澄子。
あざみ「うーん……」
口元に手を添えるあざみ。
あざみ「全体的に、良く動けてるわ。自分なりに練習をしてきたのね。自己流が癖になってるけど、これはまあ、後々直せるでしょう。見た感じ、飲み込みも早そうだし」
真面目な表情で、澄子の踊りを評価するあざみ。
あざみ「ただ」
びく、と肩を撥ねさせる澄子。
あざみ「あなた、自信がないでしょう」
ずばりと言うあざみ。
澄子「!」
図星を突かれ、目を見開く澄子。
あざみ「せっかく綺麗なのに、いまひとつ花が開ききってない感じがするの。すごく勿体ないわ」
澄子「自信……」
胸に手を当て、うつむく澄子。
あざみ「いきなり自信を持て……っていうのも、難しいでしょうから。こうしましょう」
人差し指を立てるあざみ。
あざみ「好きな人を思い浮かべるの。その人に贈るつもりで、踊ってみなさい」
不敵に笑うあざみ。
あざみ「そしたら自然と、堂々とした良い動きになるわ。なんせ好きな人に贈るんですもの。中途半端じゃいられないって、無意識にでも胸を張れるわよ」
澄子「好きな人、ですか?」
きょとんとする澄子。
澄子「でも……私に、そんな人は……」
視線を泳がせる澄子。
澄子の脳裏に、緋埜の姿がおぼろげに浮かぶ。
あざみ「座長?」
澄子「っ!? い、いえ、そんなことは!!」
ぶんぶんと首を横に振る澄子。
澄子「あんなに素晴らしい方を、私なんかが恋い慕うなんて……おこがましいです」
すぐにまたうつむく澄子。
あざみ「……道のりは、まだ長いわね」
苦笑しつつ、澄子に聞こえないくらいの小声で呟くあざみ。
あざみ「まあ、いったん休憩にしましょう。練習は地道に、無理せず、長くやるのが大事よ」
パッと明るく笑い、澄子の肩を叩くあざみ。
澄子「は、はい」
遠慮がちに笑う澄子。
○日ノ出座の共同住居前・夕方
日が暮れる頃合い。
しとしとと雨が降り出している。
澄子が共同住居の玄関先に立っている。
隣にはあざみもいる。
※緋埜の迎えを待っている。
あざみ「降ってきちゃったわねえ」
澄子「はい……」
澄子(緋埜さん……)
ぼーっと考え込む澄子。
澄子(瀧上家のご子息で、ご自分でも事業を営み、資産を築いている。本当なら、私なんて出会うことすらできない、雲の上の人だ)
きゅ、と手を握る澄子。
澄子(そんな方に救ってもらえたからと、思い上がってはいけない。彼はきっと、誰にだって優しいのだから)
空を見上げる澄子。
烏が2羽、並んで飛んでいる。
澄子(でも……)
緋埜「澄子」
ハッと前を見る澄子。
緋埜「待たせてしまったな」
傘をさし、澄子の前に立つ緋埜。
後方には自動車が停まっている。
澄子「い、いえ!」
慌てて緋埜の隣まで歩み出る澄子。
あざみ「また明日」
手を振るあざみ。
澄子「はい。また明日、よろしくお願いします」
お辞儀をする澄子。
あざみは温かい目で微笑んでいる。
緋埜「手を」
澄子「えっ?」
緋埜に手を差し伸べられ、目を丸くする澄子。
緋埜「転ぶといけない」
優しく微笑む緋埜。
澄子「あ……ありがとうございます」
そっと緋埜の手を取る澄子。
2人は相合傘で、自動車に向かって歩き出す。
澄子は遠慮して緋埜と少し距離を取っており、肩が傘からはみ出ている。
それに気付いた緋埜が、澄子を抱き寄せる。
澄子「ひっ、緋埜さん!?」
顔を真っ赤にする澄子。
緋埜「傘から出ては濡れてしまうだろう。もっと近寄れ」
澄子「は……はい……すみません」
緋埜「謝る必要は無い」
ふわりと澄子の頭を撫でる緋埜。
緋埜「君が思うより、君の居場所は広い。もっと図々しく振る舞ってくれ」
澄子「ず、図々しく、ですか……?」
緋埜「遠慮がちな君には、それくらいが丁度良いさ」
微笑む緋埜。
澄子はなおも遠慮したような表情を見せつつ、少しだけ、自ら緋埜に身を寄せる。
澄子「こう、でしょうか……」
緋埜「ああ。良い調子だ」
照れ笑いをする澄子。
愛おしそうに目を細めて笑う緋埜。
玄関の方では、あざみがうんうんと嬉しそうに頷いている。
○数日後・日ノ出座の共同住居・朝
緋埜「次の興行の日程が決まった」
黒板の前に立つ緋埜。
わっと沸く団員たち。
会議室のような部屋で、口の字型に並べた机や、その周辺に団員たちが座っていたり立っていたりしている。
その中には、澄子もいる。
緋埜「来月の20日から1週間。場所はこの本拠地だ」
黒板に要点を書く緋埜。
六太「いつもより短めだね?」
首を傾げる六太。
緋埜「ああ。神森座の興行がその次の週から始まるからな。被らないよう設定した」
澄子「神森座……」
不安げな表情をする澄子。
辰峯「なーるほど? この興行は、神森座への牽制も兼ねてるってわけです?」
にやっと笑って言う辰峯。
緋埜は彼に頷いて応える。
緋埜「澄子は日ノ出座の一員だと客に知らしめ、客の耳目を以て奴らへの監視とする」
澄子に団員たちの視線が集まる。
澄子は身を固くし、緊張した面持ち。
緋埜「余所のサアカス団員に手を出すなどという蛮行を、客に知られたらどうなるか……。奴らもその辺りはよくわかっているだろう」
鈴代「えーっと、つまり?」
加代「澄子ちゃんはうちの子だ! って自慢するのよ」
鈴代「なるほど!」
きゃいきゃいと言葉を交わす鈴代と加代。
あざみ「あなたたちねえ……」
鈴代と加代に呆れ半分で苦笑するあざみ。
緋埜「とにかく、心配は要らない。水面下で何か仕掛けてくる可能性はあるが、そこは俺が対処する」
優しげな瞳で澄子を見つめる緋埜。
あざみ「私たちもね」
ウインクをし、ぽんと澄子の肩を叩くあざみ。
澄子「すみません、私なんかのせいで余計な労力を……」
うつむく澄子。
あざみ「こら、謝らないの。悪いのはどう考えたってあっちなんだから」
つんと澄子の額をつつき、顔を上げさせるあざみ。
澄子「は、はい」
遠慮がちに頷く澄子。
あざみはニコッと笑い、手を叩く。
あざみ「さて! それじゃ、興行に向けてもっと技を磨かないとね」
鈴代・加代・六太「おー!」
賑やかに返事をする団員たち。
緋埜は穏やかな表情でそれを見る。
澄子は、両手をきゅっと握りしめ、興行に向けての決意を新たにする。
以下、ダイジェスト。
○日ノ出座のテント・昼
踊りの練習をする澄子。
周りにあざみ、鈴代、加代、六太がいる。
○日ノ出座の共同住居・夜
全員で賑やかに食事をする団員たち。
澄子と、緋埜もその場にいる。
※緋埜は時々団員とも食事をする。
○緋埜の家・朝
家を発つ澄子と緋埜。
緋埜は笑顔で、澄子も緊張のほぐれた表情。
○日ノ出座のテント・朝
芸を披露する辰峯と六太。
澄子は目を輝かせて拍手をしている。
○日ノ出座のテント・夜
音楽隊の演奏に合わせて踊りの練習をする澄子。
真剣な眼差しで澄子を見、演奏と踊りの調整するため指示を出す緋埜。
以上、ダイジェスト。
○緋埜の家・夜
月が昇る夜空の下、緋埜の家には灯りがついている。
緋埜「いよいよ、明日からだな」
廊下にて、窓の外を眺める澄子と緋埜。
二人とも寝衣に着替えている。
緋埜「緊張しているか?」
澄子「は……はい」
ぎこちなく頷く澄子。
澄子「でも、必ず……必ず成功させてみせます」
緋埜「そう肩肘張らなくても良い。練習通りにやれば、きっと上手くいく」
ふっと優しく微笑む緋埜。
緋埜「俺は君の努力を知っている。積み重ねてきたものは、決して君を裏切らない」
緋埜が澄子の手をそっと握る。
そのまま、緋埜は澄子の手を撫でる。
※澄子の努力を認め、労るイメージ。
緋埜「おやすみ、澄子」
澄子を抱き寄せ、ぽんぽんと背を叩く緋埜。
澄子「はい。おやすみなさい、緋埜さん」
緋埜を控えめに抱き返す澄子。
やや広めの談話室。
あざみ「はあ~っ!?」
憤慨の表情のあざみ。
※緋埜から3話終盤の出来事を聞いた。
あざみの他に、部屋には澄子、緋埜、鈴代、加代がいる。
あざみ「神森座の座長が……澄子、本当!?」
澄子「は、はい……まあ」
あざみ「はーっ、とんだ悪徳野郎ね!」
ぷりぷりと怒るあざみ。
あざみ「というか座長。聞いてないのだけれど」
鋭い視線で緋埜を見るあざみ。
緋埜「何が」
あざみ「神森座のこと! 澄子が今まで酷い目に遭ってたなんて……」
眉を下げるあざみ。
澄子は気まずそうに愛想笑いをする。
澄子「あの、そんなことより……皆さんにお土産が」
机の上に、焼き菓子の箱が置かれる。
あざみ「『そんなこと』じゃないわよ! ……あら美味しそうなお菓子」
怒りつつも箱の蓋を開け、ころりと機嫌を良くするあざみ。
鈴代「きゃーっ、素敵!」
加代「澄子ちゃんが選んでくれたの?」
目を輝かせて喜ぶ鈴代と加代。
澄子「はい。買ってくださったのは、緋埜さんですが……」
恥ずかしそうに微笑む澄子。
あざみ「ふふ。ありがとうね、2人とも」
笑顔で礼を言うあざみ。
鈴代「あ、待って」
ハッと気付く鈴代。
鈴代「座長が昨日までしばらく居なかったの、神森座に潜り込んでたから?」
緋埜「そうだ。悪い噂が耳に入ったのでな」
平然と答える緋埜。
加代「もー、座長! そういうのは私たちにも言ってよ~!」
あざみ「とにかく、座長。言いたいことはあるけど、事情は把握したわ。私たちも、神森のことは警戒しておくわね」
神妙な表情をするあざみ。
緋埜「ああ、助かる。本当なら俺が四六時中付いていてやりたいが、そうもいかないからな。今日も、昼から商談がある」
『商談』という言葉に、ぴくりと反応する澄子。
澄子「サアカス以外にもお仕事を?」
目を丸くする澄子。
※サーカスだけを仕事にしていると思っていた。
緋埜「少しな」
あざみ「何が『少し』よ。めちゃくちゃ稼いでるくせに」
からかうように言うあざみ。
澄子「め、めちゃくちゃ、ですか」
あざみ「そうよ。月に大体――円」
ひそ、と澄子に耳打ちするあざみ。
※金額のところだけ声を落としている。
澄子「!?」
更に目をまんまるにする澄子。
緋埜「運と取引先に恵まれているだけだ」
淡々と言う緋埜。
あざみ「はいはい」
肩をすくめるあざみ。
澄子(す、すごい金額……。それだけで3代は裕福に暮らせそう)
驚きの余韻で心臓がどきどきしている澄子。
澄子(でも、実際にはそれだけじゃなくて……日ノ出座も運営してる)
ふと考える澄子。
澄子(緋埜さん、サアカスが好きなんだろうな……)
少し嬉しそうに微笑む澄子。
○日ノ出座のテント・昼
あざみ「さて! それじゃあ、記念すべき初練習を始めましょうか」
ニコニコ笑顔で手を叩くあざみ。
澄子「はいっ!」
ぴしりと背を伸ばす澄子。
澄子(あれ? そういえば……)
ふと昨日のことを思い出す澄子。
イメージ図:自分が澄子と練習するのだと言い争う鈴代&加代と六太。
あざみ「ああ、鈴代加代と六太は、延々言い争ってキリがないから両成敗になったわ」
澄子の疑問を察し、答えるあざみ。
澄子「そ、そうだったんですね」
苦笑いをする澄子。
あざみ「私も一応、基本的な心得はあるから安心してね」
ウインクをするあざみ。
あざみ「というわけで、まずは基礎を見てみようかしら」
テント内の、開けた中央に移動するあざみと澄子。
あざみ「私の真似をしてみて」
澄子「はい」
足を上げ、ステップを踏むあざみ。
続いて、澄子はそれを真似てみせる。
更に、腕を上げたり、くるりと回ったりと、次々基本的な動きをする澄子。
澄子の様子を、あざみは笑顔で見守る。
そうしている間に、時計の針が進んでいく。
※長時間、練習が続いていくことを示す。
あざみ「うん、良いわね。ちょっと粗はあるけれど、しっかりしてるわ」
上機嫌に頷くあざみ。
澄子「あ、ありがとうございます」
恐縮する澄子。
あざみ「次は、そうねえ……何か覚えている踊りはある?」
澄子「神森座の方がやっていらしたものなら、少し」
あざみ「じゃあそれを」
期待のこもった表情で言うあざみ。
息を吸い、ゆっくりと踊り出す澄子。
回想:神森座に居た頃。舞台上で煌びやかに踊る女性団員たちと、テントの隅で寂しく踊る澄子。
澄子(ら、たらら……)
心の中で音楽を思い出しながら踊る澄子。
しかしその表情は、どこか不安げ。
※いまだに自己肯定感が低く、劣等感を抱えている。
やがて澄子は踊り終え、ぴたりと足を止める。
澄子「……ど、どうでしょうか」
姿勢を元に戻し、おっかなびっくり尋ねる澄子。
あざみ「うーん……」
口元に手を添えるあざみ。
あざみ「全体的に、良く動けてるわ。自分なりに練習をしてきたのね。自己流が癖になってるけど、これはまあ、後々直せるでしょう。見た感じ、飲み込みも早そうだし」
真面目な表情で、澄子の踊りを評価するあざみ。
あざみ「ただ」
びく、と肩を撥ねさせる澄子。
あざみ「あなた、自信がないでしょう」
ずばりと言うあざみ。
澄子「!」
図星を突かれ、目を見開く澄子。
あざみ「せっかく綺麗なのに、いまひとつ花が開ききってない感じがするの。すごく勿体ないわ」
澄子「自信……」
胸に手を当て、うつむく澄子。
あざみ「いきなり自信を持て……っていうのも、難しいでしょうから。こうしましょう」
人差し指を立てるあざみ。
あざみ「好きな人を思い浮かべるの。その人に贈るつもりで、踊ってみなさい」
不敵に笑うあざみ。
あざみ「そしたら自然と、堂々とした良い動きになるわ。なんせ好きな人に贈るんですもの。中途半端じゃいられないって、無意識にでも胸を張れるわよ」
澄子「好きな人、ですか?」
きょとんとする澄子。
澄子「でも……私に、そんな人は……」
視線を泳がせる澄子。
澄子の脳裏に、緋埜の姿がおぼろげに浮かぶ。
あざみ「座長?」
澄子「っ!? い、いえ、そんなことは!!」
ぶんぶんと首を横に振る澄子。
澄子「あんなに素晴らしい方を、私なんかが恋い慕うなんて……おこがましいです」
すぐにまたうつむく澄子。
あざみ「……道のりは、まだ長いわね」
苦笑しつつ、澄子に聞こえないくらいの小声で呟くあざみ。
あざみ「まあ、いったん休憩にしましょう。練習は地道に、無理せず、長くやるのが大事よ」
パッと明るく笑い、澄子の肩を叩くあざみ。
澄子「は、はい」
遠慮がちに笑う澄子。
○日ノ出座の共同住居前・夕方
日が暮れる頃合い。
しとしとと雨が降り出している。
澄子が共同住居の玄関先に立っている。
隣にはあざみもいる。
※緋埜の迎えを待っている。
あざみ「降ってきちゃったわねえ」
澄子「はい……」
澄子(緋埜さん……)
ぼーっと考え込む澄子。
澄子(瀧上家のご子息で、ご自分でも事業を営み、資産を築いている。本当なら、私なんて出会うことすらできない、雲の上の人だ)
きゅ、と手を握る澄子。
澄子(そんな方に救ってもらえたからと、思い上がってはいけない。彼はきっと、誰にだって優しいのだから)
空を見上げる澄子。
烏が2羽、並んで飛んでいる。
澄子(でも……)
緋埜「澄子」
ハッと前を見る澄子。
緋埜「待たせてしまったな」
傘をさし、澄子の前に立つ緋埜。
後方には自動車が停まっている。
澄子「い、いえ!」
慌てて緋埜の隣まで歩み出る澄子。
あざみ「また明日」
手を振るあざみ。
澄子「はい。また明日、よろしくお願いします」
お辞儀をする澄子。
あざみは温かい目で微笑んでいる。
緋埜「手を」
澄子「えっ?」
緋埜に手を差し伸べられ、目を丸くする澄子。
緋埜「転ぶといけない」
優しく微笑む緋埜。
澄子「あ……ありがとうございます」
そっと緋埜の手を取る澄子。
2人は相合傘で、自動車に向かって歩き出す。
澄子は遠慮して緋埜と少し距離を取っており、肩が傘からはみ出ている。
それに気付いた緋埜が、澄子を抱き寄せる。
澄子「ひっ、緋埜さん!?」
顔を真っ赤にする澄子。
緋埜「傘から出ては濡れてしまうだろう。もっと近寄れ」
澄子「は……はい……すみません」
緋埜「謝る必要は無い」
ふわりと澄子の頭を撫でる緋埜。
緋埜「君が思うより、君の居場所は広い。もっと図々しく振る舞ってくれ」
澄子「ず、図々しく、ですか……?」
緋埜「遠慮がちな君には、それくらいが丁度良いさ」
微笑む緋埜。
澄子はなおも遠慮したような表情を見せつつ、少しだけ、自ら緋埜に身を寄せる。
澄子「こう、でしょうか……」
緋埜「ああ。良い調子だ」
照れ笑いをする澄子。
愛おしそうに目を細めて笑う緋埜。
玄関の方では、あざみがうんうんと嬉しそうに頷いている。
○数日後・日ノ出座の共同住居・朝
緋埜「次の興行の日程が決まった」
黒板の前に立つ緋埜。
わっと沸く団員たち。
会議室のような部屋で、口の字型に並べた机や、その周辺に団員たちが座っていたり立っていたりしている。
その中には、澄子もいる。
緋埜「来月の20日から1週間。場所はこの本拠地だ」
黒板に要点を書く緋埜。
六太「いつもより短めだね?」
首を傾げる六太。
緋埜「ああ。神森座の興行がその次の週から始まるからな。被らないよう設定した」
澄子「神森座……」
不安げな表情をする澄子。
辰峯「なーるほど? この興行は、神森座への牽制も兼ねてるってわけです?」
にやっと笑って言う辰峯。
緋埜は彼に頷いて応える。
緋埜「澄子は日ノ出座の一員だと客に知らしめ、客の耳目を以て奴らへの監視とする」
澄子に団員たちの視線が集まる。
澄子は身を固くし、緊張した面持ち。
緋埜「余所のサアカス団員に手を出すなどという蛮行を、客に知られたらどうなるか……。奴らもその辺りはよくわかっているだろう」
鈴代「えーっと、つまり?」
加代「澄子ちゃんはうちの子だ! って自慢するのよ」
鈴代「なるほど!」
きゃいきゃいと言葉を交わす鈴代と加代。
あざみ「あなたたちねえ……」
鈴代と加代に呆れ半分で苦笑するあざみ。
緋埜「とにかく、心配は要らない。水面下で何か仕掛けてくる可能性はあるが、そこは俺が対処する」
優しげな瞳で澄子を見つめる緋埜。
あざみ「私たちもね」
ウインクをし、ぽんと澄子の肩を叩くあざみ。
澄子「すみません、私なんかのせいで余計な労力を……」
うつむく澄子。
あざみ「こら、謝らないの。悪いのはどう考えたってあっちなんだから」
つんと澄子の額をつつき、顔を上げさせるあざみ。
澄子「は、はい」
遠慮がちに頷く澄子。
あざみはニコッと笑い、手を叩く。
あざみ「さて! それじゃ、興行に向けてもっと技を磨かないとね」
鈴代・加代・六太「おー!」
賑やかに返事をする団員たち。
緋埜は穏やかな表情でそれを見る。
澄子は、両手をきゅっと握りしめ、興行に向けての決意を新たにする。
以下、ダイジェスト。
○日ノ出座のテント・昼
踊りの練習をする澄子。
周りにあざみ、鈴代、加代、六太がいる。
○日ノ出座の共同住居・夜
全員で賑やかに食事をする団員たち。
澄子と、緋埜もその場にいる。
※緋埜は時々団員とも食事をする。
○緋埜の家・朝
家を発つ澄子と緋埜。
緋埜は笑顔で、澄子も緊張のほぐれた表情。
○日ノ出座のテント・朝
芸を披露する辰峯と六太。
澄子は目を輝かせて拍手をしている。
○日ノ出座のテント・夜
音楽隊の演奏に合わせて踊りの練習をする澄子。
真剣な眼差しで澄子を見、演奏と踊りの調整するため指示を出す緋埜。
以上、ダイジェスト。
○緋埜の家・夜
月が昇る夜空の下、緋埜の家には灯りがついている。
緋埜「いよいよ、明日からだな」
廊下にて、窓の外を眺める澄子と緋埜。
二人とも寝衣に着替えている。
緋埜「緊張しているか?」
澄子「は……はい」
ぎこちなく頷く澄子。
澄子「でも、必ず……必ず成功させてみせます」
緋埜「そう肩肘張らなくても良い。練習通りにやれば、きっと上手くいく」
ふっと優しく微笑む緋埜。
緋埜「俺は君の努力を知っている。積み重ねてきたものは、決して君を裏切らない」
緋埜が澄子の手をそっと握る。
そのまま、緋埜は澄子の手を撫でる。
※澄子の努力を認め、労るイメージ。
緋埜「おやすみ、澄子」
澄子を抱き寄せ、ぽんぽんと背を叩く緋埜。
澄子「はい。おやすみなさい、緋埜さん」
緋埜を控えめに抱き返す澄子。
