怪異だって、現代社会では生きづらい。 ~元OL、怪異専門の相談所「KGB」を始めます~

「ワラワを封印するとはあやつらは......」

ポーチから櫛が話しかけてくる、

なんでこんな事になっているの?

自分の今の状況を冷静に見ると我ながら信じられないほどシュールで笑っちゃう。

おかーさんは釈放された私を真っ先に会社に連れて行った。

「皆さんにご迷惑をかけたんだから、ちゃんと謝ってきなさいよ!」

「どんな結果になっても文句言うんじゃないのよ!」

わかってる、留置所で死神ちゃんにも言われたし。

「まあきっとクビだろうね、これで死神業にも専念できるね。」

覚悟はできてるわよ。

それにしても、変なことに首を突っ込んでしまった。

あ〜あこれからどうしよう。

「――というわけでね、イツキくん。こちらも断腸の思いなのだが……」

応接室でパイプ椅子に腰掛けた私に、センスの悪いネクタイを締めた課長が、書類を差し出してきた。

解雇通告

予想どうりです。

理由は三つ。

第一に、

いくら不起訴になったとはいえ、現行犯で警察にブタ箱に入れられたこと。

第二に、

そのせいで二週間も無断欠勤に近い長期の休みを取った事。

そして第三に、

「ロシア大使館との二重雇用契約。これは明確な就業規則違反だ。うちの会社、一応『副業禁止』だからね」

「ですよね〜……」

ぐうの音も出ない。
本当は神様からお仕置き業務も任命されて三重契約なんです。
とか説明したところで
「頭のおかしいやつ」
と思われるだけなので、私は大人しく首を縦に振った。
「色々ご迷惑をおかけしました、すいませんでした」

ちゃんと謝ったよ!
おかーさん!

トボトボと私物が入った段ボールを抱えて会社を出ると、手押し車の陰から経理の女子社員が小走りで近寄ってきた。

「イツキちゃん!……ごめんね、力になれなくて」

「ううん、私が悪いんだから。今までありがとうね」

私は悪くないんだけど、説明するのもめんどくさいので、お茶を濁した。

「そんなことないよ!……これ、内緒ね? イツキちゃんのクビが決まったとき課長、真っ先に役員室に抗議に行ったって」

「え……課長が?」

「うん。それに、いつもイツキちゃんが無理な配車を泣きついていたベテランドライバーのおじさんたちや外注さんも、みんなで『解雇を取り消してくれ』って嘆願書、会社に出してたの。結局、上層部が頑固でダメだったんだけど……」

胸の奥が、じわっと熱くなった。

課長...あんたもわかりづらくてめんどくさいやつだったんですね

でも自分が少しずつ変わろうとして作った笑顔や挨拶は、ちゃんと届いていたんだなと思うと、段ボールを持つ手にぎゅっと力が入った。

「みんな、ありがとう……」

ちょっと鼻の奥が刺激されてしまった。

ほっこりとした気持ちになったけどやっぱ無職決定の事実の方がデカい。

あ〜あこれからどうしよう〜

いつものコンビニの喫煙所にたどり着くと、そこにはあまりにも見慣れた、
だけど一般人が見たら警察に通報しかねないメンツが揃っていた。
うだつの上がらないおじさんの姿をした死神ちゃんがタバコを吹かし、売れないホストの様な金髪悪魔チャラ男が、半透明のノアルと仲良く缶ジュースを分け合っている。
そして、その傍らには、コムデギャルソンのスーツを完璧に着こなした超絶美女悪魔エカテリーナがポルシェに寄りかかっていた。


「おかえり、イツキ。やっぱりクビだったろ?」


死神ちゃんがニヤニヤしながら聞いてくる。


神様のくせに本当にデリカシーがない。


「当たり前でしょ! 誰のせいでこうなったと思ってるのよ」

「でもありがとうエカテリーナ、色々動いてくれて
本の差し入れも....」

「別に感謝される事してないわよ、ただちょっとあんたが可哀想になって....私は鉄格子が大っ嫌いなの
あんたがそんなところにいると思うと私まで嫌な記憶が蘇ってくるのが耐えられなかっただけよ!
調子に乗らないでね」

でたでた、ツンデレ悪魔

「なんか昔に嫌な事あったの?悪魔の過去ってちょっと気になる」

エカテリーナは少し寂しげなそれでいて懐かしそうな目をして頭だけ見えてるスカイツリーを見ていただけで答えてくれなかった。

怒ってる私を皆ニヤニヤして囲んでる。
なんか嫌な予感がしてきた。

「と、言うわけでこれから就職活動に専念します、それじゃっ」

さっさと退散しようとした時エカテリーナに肩を引っ張られた。

嫌な予感的中!

数十分後私は青山のオフィスビルの前にいた、
ポルシェでの移動は覚えていない.....
荒波の渦に巻き込まれていた感覚しか残っていない。

エカテリーナがドヤ顔で。

「あんたせっかくクビになったんだからビジネス始めるチャンスよっ!」

とか言ってポルシェに乗せられたまでは覚えている。


「ちょっと聞いてるのイツキ
またなんか違うこと考えてるでしょ〜」

「何?なんか言ってたの?」

「だから〜怪異とか霊障とか結構ビジネス街でも起きてるって事」

「うんうんあるだろうね、私だってこんな感じだし」


「もう全く聞いてないじゃない!!
それを解決する仕事を始めるのよ」

「エカテリーナすごい!頑張ってね
私も応援するから、手伝いぐらいなら..,,」

「何言ってんの?
あんたがやるに決まってるでしょう!そんな力を持っていて何普通のOLに戻ろうとしてるのよ
それにあんたと契約した世界征服はまだ有効なんだから、しっかりしてよ」

「へっ!?あれ、、まだ継続中なんですか...」

「私を誰だと思ってるの?上位悪魔よ!悪魔は契約に対して結構うるさいのよ、契約は契約!」

「ああああ〜あの時適当なことを言った事がっ!」

「あんたの適当ってスケールでかいわよ!」

エカテリーナは大爆笑している。

私はそれどころじゃない世界征服とか...死神の配車係とか...神様から押し付けられたお仕置き係とか...

あ〜あ、本当にこれからどうしよう〜

自分の軽率さにほとほと呆れた。

青山のオフィスは速攻で却下した家賃が国家予算レベル!!
失業中のOL舐めるなよ!

ブツブツ文句を言ってるエカテリーナをなだめてコンビニに戻ると死神ちゃんだけが待っていた。

「エカテリーナの提案には僕も賛成、もう君は普通じゃない、スサノオ様の実質下請け業務を依頼されてる事をしっかりと受け止めてほしい」

何よ、二人して。

「ハイハイもうしょうがないからやりますよ!やってやりますともよ!」

私は半分ヤケクソになって二人にそう答えた。

でもあの青山のオフィスはないでしょう?

ふとコンビニの二階を見た、貸店舗の看板。

「ねえ、あそこでよくない?」

居抜きの古いバーだった使い込まれたカウンター
奥には結構ちゃんとした厨房設備。
ボックス席が2つ。
広くは無いけど皆が入っても十分な広さがある。
なんと言ってもツヤツヤした木材をふんだんに使った内装がカッコいい。

チャラ男が掃除を手伝ってくれている。
と言うか手伝わせてる。

死神ちゃんは営業に行ってくるとか言って逃げてしまった。
エカテリーナは開業届とか役所関係を回ってる。

私はここのお店で使っていた電飾看板のBAR響と言う文字の上にガムテープを貼ってから

怪異事件ビジネスコンサルタント(KGB)

とマジックの太文字側で書いた。