キスして入れ替わったら、美形部長の秘密の本音は俺への「好き」でいっぱいでした

 朝倉の家に帰った俺は、いけないと思いながらもつい朝倉のSNSを見てしまった。

 朝倉の投稿は高校入学後、吹奏楽部に入った時から始まっていた。

『吹奏楽部の一年、男子は俺ともう1人だけ。そいつはマリンバ志望で「珍しいね」って言ったら、パーカッションを馬鹿にしたと思われて睨まれた。そんなつもりはなかったから謝りたかったけど、それ以上話せなかった』

 そう言えば、俺はその時のことがきっかけで、朝倉がパーカッションを下に見てると思い始めたんだ。

『今日も黒瀬に睨まれた。でも、このままでいい。もし、謝って仲良くなったとしても、しんどくなるのは俺だから』

 仲良くなると、しんどくなる?それって、どういうこと……?

 その後、しばらく更新は途絶えていたが、去年俺がコンクールメンバーから外れたあと、久しぶりに更新されていた。

『メンバー発表のあと、黒瀬が外れるのはおかしいだろって先生に言いにいった。でも、ダメだった…』

 先生も言ってたけど、本当だったんだ。しかもこの時は、かなD呼びじゃない。好きだからとかじゃなく、俺が出た方が金賞がとれると思って、言ってくれたんだ。

 嬉しくてじんわりと、胸があたたかくなる…。

 それで朝倉のことがもっと知りたくなって、続けて次の投稿も開いた。
 
『今日は正式メンバーで全体練習をした。練習がはじまると黒瀬はすぐ音楽室を出て行った』

 正式メンバーが音楽室に集まると、控えの部員は譜面台を持って空き教室へ向かう。窓を開けると流れてくるコンクールメンバーの演奏を聞きながら、代役に備えて練習をするのだ。

『練習が終わると、黒瀬は譜面台を戻しに音楽室に来た。片付けが終わったら帰るのだろうと、特に気にもとめず俺もみんなと一緒に音楽室を出た。けど、昇降口に着くと、音楽室の方からかすかにマリンバの音が聞こえてきて、俺は反射的に走って戻った』

 正式メンバーに選ばれなかった俺は、部活中、楽器にさわれなくなり、許可を取って居残り練習をしていた。

 まさかそれを、朝倉に聞かれていたとは。

『黒瀬は練習しながら泣いていた。悔しかったんだと思う』

 そう言えば、メンバーから外された直後は悔しくて泣いてしまったんだ。

 あの時、誰かに見られているとは思わず、思いっきり泣いていた…。見ていたなら言ってくれれば良かったのに、恥ずかしい…!

 最近の投稿はふざけた内容ばかりだったのに、この時の投稿は、至極真面目なものだった。

『黒瀬は、メンバーが決まる前も一生懸命練習してたし、実力だってあった。納得できなくて、悔しいと思うのは当然だ。慰めたかったけど、メンバーの俺に何か言われても癪に触るだろう。それなら来年、黒瀬がメンバーの時、今年の分までたくさん演奏しよう。だから金賞とって全国に行くんだ。絶対…!』

 吹奏楽部長の朝倉が、俺と同じ、金賞を目指してる…。

 朝倉と俺って目標同じだったんだ。入れ替わるまで、全然知らなかった。

 そんな風に思っててくれて、嬉しい。

 嬉しくて泣きそうな気分だったが、朝倉の体だと涙は出ない。

 その時、スマートフォンに通知がきた。

『新しいログインがあります』

「朝倉……?!」

 通知をタップして、すぐに投稿を確認する。

『今日、俺の第一志望がかなDと同じ大学だってバレた。けど、かなDも先生もまさか俺がかなDを好きだからそう書いたとは思わなかったらしい。たぶん、男が恋愛対象じゃないんだ…』

 朝倉の言う通り俺は男を恋愛対象として見たことがない。だから正直、朝倉の気持ちにはずっと戸惑っている。

 朝倉はその事実にショックを受けたようだ。今日帰る時も、朝倉は落ち込んでいた。

 一年の時「仲良くなってもつらい思いをする」って、つまり、こういうこと…?だからずっと、俺に話しかけなかったのか…?

『今、こうしていられるのは期間限定だ。もし元に戻らなかったら、俺たちは秘密を共有してずっと一緒にいられる。けど元に戻ったら普通の男同士、ただの吹奏楽部長と部員に戻ってしまう。だからこのままで良いって気持ちもある。でも…』

 でも…?

 俺はドキドキしながら、次の文章を読んだ。

『頑張ってる黒瀬が、報われてほしい。そのためには早く元に戻って、コンクールで金賞とらないと…!』

 俺と朝倉の目標は同じ、コンクールで金賞を取ること。

 体が入れ替わったままでは満足に楽器が弾けないのだから、一刻も早く、元に戻らなければ。

 それは俺も朝倉と同じ考えだ。

 でもどうしてだろう。今は胸が、苦しくなる…。

 俺はじっとしていられず、サックスケースを持って朝倉の家を飛び出した。

 そして先日、朝倉と一緒に行った河川敷まで走る。

 夏の日の夕方は18時を過ぎたのにまだ明るい。人がまばらな河原に降りるとマウスピースを取り出し、思いっきり吹いた。

「プッ、プスっ!」
「おいっ!ぴー!だっていったろ!」

 聞き覚えのある声に振り向くと、自転車に乗った俺の姿の朝倉がこちらに向かってきていた。

「朝倉……!」

 朝倉の姿を見つけた俺は、今出来うる最高の笑顔で、笑いかけてみる。

 だって、朝倉の顔は表情が乏しいから、このくらいやらないと…!今、約束もしていないのにここで会えて、俺が感動している事が伝わらない。

「お前の教え方が悪いんだよ!」
「どこが…?!」

 だから今のうちに、表情筋を俺が鍛えておいてやる。

 元に戻ったあとのために。