キスして入れ替わったら、美形部長の秘密の本音は俺への「好き」でいっぱいでした

 こいつに俺を呼びに行かせて、黒瀬のやつ、どういうつもりだ?

 まさか、こいつが好きになったから、俺とは別れてくれ、とか…二人で俺に言うつもり……?!

 そんなことを言われたら……。俺は……!


「俺、帰る」
「だ、ダメですよ!!俺、朝倉先輩を音楽室に連れて来いって、黒瀬先輩に頼まれてるんで!」
「……」

俺はまだ、黒瀬に『お願い♡』と頼みごとをされたことがない。このやろう、俺が何度、黒瀬の『お願い♡』を想像して来たと思ってるんだ?!

 焦らして焦らして『朝倉、もう…、お願いぃっ♡』って言われようと思って、ずっと楽しみにしてたんだぞ……?!

 俺たち、まだ何もしてない。何も、始まってない。そんな状態で絶対、別れてやらない…。最悪また、入れ替わってもいい…!

「くそぉ!」

 嫉妬で頭に血が上った俺は、音楽室へ向かって走った。
 
「朝倉先輩、待ってください!色々、準備が…!」
「知るか!」

 何の準備だ…!まさか…っ!?

 当然、俺は待たなかった。後輩の中村を振り切り、音楽室へ到着した。

 しかしいざ、音楽室の前に着くと、扉を開ける前に、手が震える…。

 ……本当に別れようって言われたりしたら…。

 そう思うと、扉の前でぴたりと動けなくなる。

 扉の前で固まっていると、追いついて来た中村が叫んだ。

「朝倉部長!到着しました~…!」

 すると、引き戸のはずの音楽室の扉が、勝手に開く。

 と、同時に、パーンとクラッカーが目の前で弾けて、色付きのテープが俺に向かって降ってきた。

「え……?」
「朝倉部長!今までありがとうございました!」
「ささやかですが、三年生の引退式を用意しました!」
「あと、誕生日おめでとうございます!」

 クラッカーを発射した吹奏楽部の後輩女子二人の後ろには、顧問をはじめ、引退したはずの3年も含めた吹奏楽部全員が集まっていた。

 音楽室は引退式らしく紙テープで装飾され、黒板には『お疲れさまでした&ありがとうございました』と書いてある。
 
 そう言えば去年、俺も3年の引退式をやったことを思い出した。

 辺りを見回して状況を把握した途端、マリンバの軽快な演奏が始まる。

 黒瀬だ……!

「朝倉部長、リトルマーメイドのアンダーザシー、分かりますか?サックスソロありますから、お願いしますね…!」

 同じアルトサックスの後輩の三浦さんが駆け寄ってきて、俺を演奏席まで引っ張っていく。アンダーザシー、曲は知ってるけど、楽譜は初見……!

 斜め後ろの、パーカッションの方を見ると、笑顔の黒瀬と目が合う。

 そして早く、って口が動いた。

 黒瀬は跳ねるように明るく、マリンバを叩いている。俺は用意されていた、学校備品のサックスを手に取ると、演奏に加わった。

 アンダーザシーは打楽器、金管、木管楽器が一体になれる曲だ。トランペットやサックスが打楽器と絡み楽譜をめくるごとに盛り上がっていく。

 俺は斜め後ろの、黒瀬に向かって演奏した。

 明るい海の中で、マリンバとサックスの音が軽やかに重なる。

 やっぱり、黒瀬と演奏するのは楽しい……!

 終わってほしくない。ずっと、ずっと、黒瀬と演奏していたい。

 しかし、楽譜はついに最後の小節に入った。

 全員で最後の一音を鳴らし、ぴたりと演奏を終える。

「部長、3年生の先輩方、お疲れ様でした!今までありがとうございました!」

 秋から部長になった後輩が挨拶すると、一斉に拍手が上がった。

 引退の3年も、全員で拍手する。

 気がつくと黒瀬はいつの間にか、俺の隣に来ていた。

「朝倉以外は、みんなで放課後少し練習してたんだよ!」
「なんで俺を呼んでくれないわけ…?」
「みんなで朝倉の表情筋壊してやろうって話になって。だから朝倉にはサプライズ!誕生日だったしちょうど良かっただろ?」

 ちょうど良かった……?

 よくない。全然よくない。

 サプライズのために勇気を出してデートに誘ったのに、断られて。こそこそされて、連絡も取れなくて。

 不安で絶望した。とても良かったとは言えなかった。

 もう少し、考えて欲しかった。そう言おうとしたのだが、言うより先に後輩たちが俺のところへきて、花束と色紙を手渡した。

「みんなで書きました!寄せ書きです!」
「黒瀬先輩からのリクエストで、中央のでっかい字は先輩が書いてます!」

 色紙の中央には『朝倉部長フォーエバー!愛してるよ!』と、その下に小さくk.kanadeと書いてある。

 永遠に、愛してる…ってこと?

 それに…。

 黒瀬の字で書かれたkanadeの『e』が目に飛び込んできた。
  
 ずっとずっと、閉じ込めていたのに。

 封印が、解かれてしまった。

 こんなの、、気持ちが溢れてしまう……!

「これ、黒瀬先輩に渡す色紙です。中央、朝倉部長が書いてください!」

 今度は黒瀬への色紙を渡された。中央は、俺がメッセージを書くために開けてある。

 さっきまで恨み言を言おうと思っていた。けど、もうそんなこと、どうでも良かった。

『これからもずっと一緒にいてください』

 俺がそう書くのを、隣で黒瀬はじっと見ていた。そして俺から色紙を受け取ると、ニコリと微笑む。

 黒瀬って、俺と違って表情豊かだと思う。そう言うところがずっと好きだった。これからも、ずっと。

「朝倉部長がすっごい笑顔、超レア~!」
「本当だ!珍しいー!また近くに雷落ちるんじゃない?帰り大丈夫?」
「みんな、このまま部活写真撮ろう!早く、早く!三年生集合ーっ!」

 そうして俺は卒業アルバム用の部活写真と個人写真を撮り直した。

 後々ずっといじられるくらい、その写真の俺は笑顔だった。

 ーーだって…。

 溢れ出した気持ちが、大好きな人の体を通して笑顔で戻ってきた。

 こんなに嬉しいことって、他にあるのか…?

 いや、ない。

 表情筋も、壊れるはずだ!