金賞を取ったあと。
残念ながら続く関東大会では受賞を逃し、俺たちは部活を引退することになった。
でも俺は、あまり落ち込んでいなかった。直前で黒瀬と両思いになり、むしろ練習から解放されて、この後は二人でもっと仲を深められる。そう思っていたのだ。
だって黒瀬に「朝倉が俺の中からいなくなって、ちょっと寂しいなって思ってる」なんて言われたら…。もう一度、はいっちゃおっか…♡今度こそ体液交換♡しちゃお♡♡って、なるだろ、普通…!!!!!!!
「朝倉~。ちょっといい?」
二学期が始まってすぐ、俺は担任に呼び出され、職員室で写真を見せられた。それは、卒業アルバム用で撮影した個人写真だった。
「これなんだけどさ」
「これが、何か…」
「みんな笑顔で撮ったはずだったんだけど、朝倉だけ笑ってないんだよな~。それでちょっと浮いちゃってるっていうか」
「はぁ…」
この多様性の時代に、全員笑ってなくてもいいと思うが…。
「この後、部活の集合写真を撮るんだけど、その時に撮り直しできるらしいんだ。どうする…?」
「このままでいいです」
「そ、そうか~~」
その時機嫌が悪くて、撮り直しは断ってしまった。
なぜなら職員室に、黒瀬がいたからだ。しかも、知らない男子生徒と一緒に…!おい、誰だよそいつ!
黒瀬は吹奏楽部の顧問と話した後、職員室を出て行った。
俺は担任にお辞儀をして、慌てて黒瀬の所へ向かう。
「黒瀬…!」
「朝倉…?どうしたの?」
「黒瀬こそ…」
なんだよそいつ…。イライラしながら黒瀬の隣の男をジロリと見ると、そいつは頭を下げた。
「吹奏楽部に入部希望だっていうから、一緒に顧問のところに行ってきたんだよ。一年の中村くん。楽器はサックスだって!」
今頃、入部希望…?しかも、楽器はサックスなのになんで黒瀬のところへ行ったんだ?
イライラしている俺とは対照的に、黒瀬は上機嫌だ。
「中村くん中学までは吹奏楽部だったらしいんだ。高校ではやらないつもりだったみたいなんだけど、この間の地区大会の演奏聞いてくれて、またやりたくなったんだって!」
「そうなんです。朝倉先輩のソロに憧れて…!」
いやだから、なんで俺のソロに憧れたのに、黒瀬に話しかけたわけ…?
ひょっとしてちょっと黒瀬のことかわいいなとか思ってんの…?
……くそが!!俺の黒瀬に近寄るな…!しっしっ!
「そうなんだ。でも、俺たちもう引退したろ?黒瀬がやること?」
「そうだけど、俺たちの代で男子部員の勧誘をちゃんとやってなかったのが原因だから。はじめくらい付き合おうと思って」
俺たちの代で男子を勧誘しなかったのは、男子は黒瀬と俺だけでいいと思っていたからで…。
それになんでそいつの『はじめて』に黒瀬が付き合うんだ?俺と黒瀬だって『はじめて♡』付き合ったはずなのに。
俺とは「一緒に勉強しよ♡」とかもなければ、「一緒に帰ろ♡」さえない。
しかも、来週は俺の誕生日がある。その日は絶対、黒瀬と一緒にいたい。
それなのに、それなのに……。
「じゃあ、俺、音楽室に行ってくる」
「え…。ちょ、…!」
黒瀬はあっさり行ってしまった。
こんな状態で、俺たち本当に、付き合ってる…といえるのか…?!
告白はした。キスもした。けど…。そのあと、何もない。
俺は悶々としながら帰宅した。
「玲央、お帰りー。ねえ、ちょっといい?」
「…なに?」
帰ると母さんに呼ばれた。リビングに行くと珍しく父さんまでいる。
「玲央、志望校のことなんだけど。この間のテストの結果が悪かったから、ランクをさげたのか?」
違う。あれはただ、俺が黒瀬と同じ大学に進学したいからだ。今でもこんなにすれ違っているのに、別々の学校に進学したりしたら…。怖すぎる。
俺が黙っていると、父さんはため息をついた。
「玲央は将来、何をしたいんだ?大学はそれを見据えて選ぶべきだと父さんは思う」
「そんなこと、分かってる…!」
言われなくても分かってる。
俺が将来したいこと…。それは、俺一人ではどうしようもないことだ。
家を飛び出して、いつもの河川敷へ向かった。以前何度か、約束していなかったけどここで黒瀬と会えた。けど、コンクールの後からは一度も二人で会っていない。
コンクリートに囲まれた河川敷に降りて少し待っていたが、やはり黒瀬の姿は見えなかった。
「あんな偶然、何回も続かないよな…」
もう俺たちは体を共有していない。言葉で伝えなければ、会えるわけがない。
俺は勇気を出して、黒瀬に連絡することにした。スマートフォンを開いて、SNSからDMを送る。
『来週の金曜日、用事ある?行きたいところあって。一緒に行ってほしいんだけど』
来週の金曜日は俺の誕生日だ。だから二人で会いたかった。
ドキドキしながら返信を待っていると、比較的すぐにDMの通知が来た。
返事が早かったから、きっと大丈夫。
そう思って、DMを開いた。
『来週の金曜日は、ごめん。用事がある。別の日じゃだめ?』
別の日は、俺の誕生日じゃない。用事って、何の?俺の18歳の誕生日より、大切な用事って、何だよ…?!
俺は絶望した。
だって。ずっと、この恋は叶わないと思っていた。だから俺は自分の気持ちを封印してきた。それなのに、黒瀬に好きだと言われて、キスして、俺がどれだけ喜んだか……。黒瀬は知らない。
だから俺が、どれだけ黒瀬と誕生日を過ごしたいのかも、きっと黒瀬は知らない。
それから1週間。その間、黒瀬から特に連絡はなかった。俺はますます絶望して、誕生日当日、学校を休んだ。
しかし、その日の昼過ぎ。
「玲央!」
勝手に休んで学校に連絡をしていなかったから、担任から母さんに連絡がいってしまったらしい。驚いた母さんが仕事場から家に戻って来てしまった。
「玲央、なんで家にいるわけ?!」
母さんはベッドでゴロゴロしている俺を見ただけで、風邪ではないと分かったようだ。
「学校行きたくなくて…」
「はぁ?突然、なんでよ?」
「……」
「玲央、いじめられてるの?」
母さんは心配そうに俺の顔を覗き込む。
「いじめじゃないけど」
「じゃ、なに?友達と喧嘩した?」
「……ちがう」
「去年誕生日に学校いったら女子に誕生日プレゼントたくさんもらって、今年もそうなったら面倒とか?」
「ちげーよ!」
「じゃあなんなのよー!まぁ、休んでもいいけど。休むなら今日の誕生日会に黒瀬くんは呼べないわよ?」
「は?何だよそれ?」
「え?黒瀬くんこないの?また遊びに来るって言ってたのに!」
ていうか、俺の誕生日会をうちでやって、その上、黒瀬が来るって、なんでそんなこと思ってた……?また遊びに来るって約束したのは、俺であって黒瀬じゃないし。
それに…。
「黒瀬に俺の誕生日が今日だって言ってねえし!」
「え、そうなの?」
そうだよ。いってない。
……。
……。
……。
……あ?!
俺は、午後から学校へ行った。
そう言えば、今日が俺の誕生日だと黒瀬に言っていなかったことを思い出したのだ。黒瀬は俺の誕生日を探ったりはしないだろう。だからきっと、知らないはず…!
午後から学校に来たのに、いつもより放課後になるのが百倍くらい遅い気がした。
ホームルームが終わり、急いで黒瀬のところに行こうとすると、教室を出たところで呼び止められた。
「朝倉先輩!」
俺を呼んだのは、吹奏楽部に新しく入った後輩男子だった。
何だこいつ…。
今一番会いたくない種類の人間に呼び止められて、眉間に皺がよるのを感じた。
「何?急いでるんだけど?」
「あ、あのぉ…。黒瀬先輩に朝倉先輩を呼んでくるように言われて…」
「黒瀬に……?」
俺はまた絶望した。
残念ながら続く関東大会では受賞を逃し、俺たちは部活を引退することになった。
でも俺は、あまり落ち込んでいなかった。直前で黒瀬と両思いになり、むしろ練習から解放されて、この後は二人でもっと仲を深められる。そう思っていたのだ。
だって黒瀬に「朝倉が俺の中からいなくなって、ちょっと寂しいなって思ってる」なんて言われたら…。もう一度、はいっちゃおっか…♡今度こそ体液交換♡しちゃお♡♡って、なるだろ、普通…!!!!!!!
「朝倉~。ちょっといい?」
二学期が始まってすぐ、俺は担任に呼び出され、職員室で写真を見せられた。それは、卒業アルバム用で撮影した個人写真だった。
「これなんだけどさ」
「これが、何か…」
「みんな笑顔で撮ったはずだったんだけど、朝倉だけ笑ってないんだよな~。それでちょっと浮いちゃってるっていうか」
「はぁ…」
この多様性の時代に、全員笑ってなくてもいいと思うが…。
「この後、部活の集合写真を撮るんだけど、その時に撮り直しできるらしいんだ。どうする…?」
「このままでいいです」
「そ、そうか~~」
その時機嫌が悪くて、撮り直しは断ってしまった。
なぜなら職員室に、黒瀬がいたからだ。しかも、知らない男子生徒と一緒に…!おい、誰だよそいつ!
黒瀬は吹奏楽部の顧問と話した後、職員室を出て行った。
俺は担任にお辞儀をして、慌てて黒瀬の所へ向かう。
「黒瀬…!」
「朝倉…?どうしたの?」
「黒瀬こそ…」
なんだよそいつ…。イライラしながら黒瀬の隣の男をジロリと見ると、そいつは頭を下げた。
「吹奏楽部に入部希望だっていうから、一緒に顧問のところに行ってきたんだよ。一年の中村くん。楽器はサックスだって!」
今頃、入部希望…?しかも、楽器はサックスなのになんで黒瀬のところへ行ったんだ?
イライラしている俺とは対照的に、黒瀬は上機嫌だ。
「中村くん中学までは吹奏楽部だったらしいんだ。高校ではやらないつもりだったみたいなんだけど、この間の地区大会の演奏聞いてくれて、またやりたくなったんだって!」
「そうなんです。朝倉先輩のソロに憧れて…!」
いやだから、なんで俺のソロに憧れたのに、黒瀬に話しかけたわけ…?
ひょっとしてちょっと黒瀬のことかわいいなとか思ってんの…?
……くそが!!俺の黒瀬に近寄るな…!しっしっ!
「そうなんだ。でも、俺たちもう引退したろ?黒瀬がやること?」
「そうだけど、俺たちの代で男子部員の勧誘をちゃんとやってなかったのが原因だから。はじめくらい付き合おうと思って」
俺たちの代で男子を勧誘しなかったのは、男子は黒瀬と俺だけでいいと思っていたからで…。
それになんでそいつの『はじめて』に黒瀬が付き合うんだ?俺と黒瀬だって『はじめて♡』付き合ったはずなのに。
俺とは「一緒に勉強しよ♡」とかもなければ、「一緒に帰ろ♡」さえない。
しかも、来週は俺の誕生日がある。その日は絶対、黒瀬と一緒にいたい。
それなのに、それなのに……。
「じゃあ、俺、音楽室に行ってくる」
「え…。ちょ、…!」
黒瀬はあっさり行ってしまった。
こんな状態で、俺たち本当に、付き合ってる…といえるのか…?!
告白はした。キスもした。けど…。そのあと、何もない。
俺は悶々としながら帰宅した。
「玲央、お帰りー。ねえ、ちょっといい?」
「…なに?」
帰ると母さんに呼ばれた。リビングに行くと珍しく父さんまでいる。
「玲央、志望校のことなんだけど。この間のテストの結果が悪かったから、ランクをさげたのか?」
違う。あれはただ、俺が黒瀬と同じ大学に進学したいからだ。今でもこんなにすれ違っているのに、別々の学校に進学したりしたら…。怖すぎる。
俺が黙っていると、父さんはため息をついた。
「玲央は将来、何をしたいんだ?大学はそれを見据えて選ぶべきだと父さんは思う」
「そんなこと、分かってる…!」
言われなくても分かってる。
俺が将来したいこと…。それは、俺一人ではどうしようもないことだ。
家を飛び出して、いつもの河川敷へ向かった。以前何度か、約束していなかったけどここで黒瀬と会えた。けど、コンクールの後からは一度も二人で会っていない。
コンクリートに囲まれた河川敷に降りて少し待っていたが、やはり黒瀬の姿は見えなかった。
「あんな偶然、何回も続かないよな…」
もう俺たちは体を共有していない。言葉で伝えなければ、会えるわけがない。
俺は勇気を出して、黒瀬に連絡することにした。スマートフォンを開いて、SNSからDMを送る。
『来週の金曜日、用事ある?行きたいところあって。一緒に行ってほしいんだけど』
来週の金曜日は俺の誕生日だ。だから二人で会いたかった。
ドキドキしながら返信を待っていると、比較的すぐにDMの通知が来た。
返事が早かったから、きっと大丈夫。
そう思って、DMを開いた。
『来週の金曜日は、ごめん。用事がある。別の日じゃだめ?』
別の日は、俺の誕生日じゃない。用事って、何の?俺の18歳の誕生日より、大切な用事って、何だよ…?!
俺は絶望した。
だって。ずっと、この恋は叶わないと思っていた。だから俺は自分の気持ちを封印してきた。それなのに、黒瀬に好きだと言われて、キスして、俺がどれだけ喜んだか……。黒瀬は知らない。
だから俺が、どれだけ黒瀬と誕生日を過ごしたいのかも、きっと黒瀬は知らない。
それから1週間。その間、黒瀬から特に連絡はなかった。俺はますます絶望して、誕生日当日、学校を休んだ。
しかし、その日の昼過ぎ。
「玲央!」
勝手に休んで学校に連絡をしていなかったから、担任から母さんに連絡がいってしまったらしい。驚いた母さんが仕事場から家に戻って来てしまった。
「玲央、なんで家にいるわけ?!」
母さんはベッドでゴロゴロしている俺を見ただけで、風邪ではないと分かったようだ。
「学校行きたくなくて…」
「はぁ?突然、なんでよ?」
「……」
「玲央、いじめられてるの?」
母さんは心配そうに俺の顔を覗き込む。
「いじめじゃないけど」
「じゃ、なに?友達と喧嘩した?」
「……ちがう」
「去年誕生日に学校いったら女子に誕生日プレゼントたくさんもらって、今年もそうなったら面倒とか?」
「ちげーよ!」
「じゃあなんなのよー!まぁ、休んでもいいけど。休むなら今日の誕生日会に黒瀬くんは呼べないわよ?」
「は?何だよそれ?」
「え?黒瀬くんこないの?また遊びに来るって言ってたのに!」
ていうか、俺の誕生日会をうちでやって、その上、黒瀬が来るって、なんでそんなこと思ってた……?また遊びに来るって約束したのは、俺であって黒瀬じゃないし。
それに…。
「黒瀬に俺の誕生日が今日だって言ってねえし!」
「え、そうなの?」
そうだよ。いってない。
……。
……。
……。
……あ?!
俺は、午後から学校へ行った。
そう言えば、今日が俺の誕生日だと黒瀬に言っていなかったことを思い出したのだ。黒瀬は俺の誕生日を探ったりはしないだろう。だからきっと、知らないはず…!
午後から学校に来たのに、いつもより放課後になるのが百倍くらい遅い気がした。
ホームルームが終わり、急いで黒瀬のところに行こうとすると、教室を出たところで呼び止められた。
「朝倉先輩!」
俺を呼んだのは、吹奏楽部に新しく入った後輩男子だった。
何だこいつ…。
今一番会いたくない種類の人間に呼び止められて、眉間に皺がよるのを感じた。
「何?急いでるんだけど?」
「あ、あのぉ…。黒瀬先輩に朝倉先輩を呼んでくるように言われて…」
「黒瀬に……?」
俺はまた絶望した。

