傷つけて嫌われたかもと心配していたけど、河川敷で別れたその日の深夜、朝倉からDMが来た。無事相互フォローし、朝倉の鍵垢と繋がった。
しかし朝倉の過去の投稿は全て削除してあり、あの入れ替わりの証拠が、俺には見えない。
朝倉は鍵垢の投稿を俺に見せたくないようだ。
投稿は見られなくなったけど、色々会話ができるようになった。
『ちゃんとマウスピースもった?』
『持った』
『楽器ケースにしまった?』
『しまった』
『明日お昼一緒に食べよ』
『わかった』
『金賞とるぞー!』
『おお!』
メッセージのやりとりが、以前より頻繁になった気がする。
『黒瀬さ、この間告白されてたじゃん?あの返事ってしたの…?』
『うん。まあ』
『なんて返事した?』
『断ったよ』
『そっか…』
俺は朝倉が好きだから、彼女とは付き合えない。だから後輩女子の告白は丁重に断った。
朝倉のやつ、こんなことを聞いてくるくせに、俺に告白はしない。
あのSNSを見て俺が拒絶反応を示していないってことは、それなりに好意があるってことだろう。だから俺は実質告白したも同然なのに。
朝倉って超鈍感なんだろうか。
……でも、もうすぐコンクールの地区予選だ。一旦、コンクールに集中しなければ……!
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コンクール当日は熱中症警戒アラートが発令されていた。とにかく暑い…。いつもならそれだけで体力を削られるのだが、朝倉が俺の体を鍛えてくれていたおかげか、今日は元気だった。
チューニング室で見る限り、朝倉も調子は良さそうだ。
その後、メンバー全員で準備を終え、チューニング室をでる。
ついに本番…。
舞台袖に入ると、もう会話はできない。ステージの待機場所で、朝倉が部員たちに声をかける。
「一年間、今日を目標に練習してきました…。ついに本番!金賞、獲るぞ…!」
「おおー!」
全員で気合を入れた後、舞台袖に移動する。朝倉は後ろの方にいた俺を待って、みんなの一番後ろをふたりで歩く。
「朝倉、緊張してる?」
「うん、まあ」
「じゃ、あれやろ!」
俺たちは歩きながら一緒に深呼吸をして、小さめにリップロールをする。
「黒瀬…」
「ん…?」
「ありがとう」
「まだ始まってないのに…?」
「今言っておきたかった。頼りない部長だけど、支えてくれて、ありがとう」
「頼りない部長って、俺の時じゃなくて?」
「それも含めて……!」
そんなの、俺も思ってる。
入れ替わらなかったら、朝倉の努力も、部長の大変さも、たまに暴走する実は熱いやつだってこと、朝倉の良いところ、知らないままだった。
「俺もありがとう。朝倉のおかげで体も軽いし、感謝してる。あと俺、朝倉のこと好きだよ」
「俺も……。……っ、て、、え……?!」
俺も…?
やっぱり、朝倉も俺を好き…?
ようやく、言ったな…!
その時ちょうど前の学校の演奏が終わった。
「部長、黒瀬くん、はやく!」
「そろそろ舞台転換だよ!急いで!」
先を歩いていた部員に呼ばれて、俺たちは走った。
朝倉は何度も俺をチラチラと見ている。
ーー言うタイミング、間違えた?間違えてるよな、多分…。
まあ、いっか。
これから自分の気持ちは、言葉で伝えるって決めたから。タイミングを逃してしまうよりは、絶対に良かったはず。
その日、俺たちは最高の演奏をして、金賞を受賞した。
受賞が決まった瞬間、みんな喜びを爆発させ、歓声を上げた。
朝倉とは席が遠くて、視線だけで「やったな!」と伝え合う。
そして余韻に浸るまもなく、俺たちは楽器の片付けのため一旦学校に戻った。ミーティング後は保護者が迎えに来ることになっている。せっかく金賞をとったのに朝倉とろくに話せないまま、解散になってしまった。
帰宅中、朝倉のSNSには金賞のトロフィーの写真がアップされた。
俺はすぐ、この投稿にいいねを押す。
でも、これだけじゃ足りない。全然足りない。会って話したい。
『いつものところで会える?』
帰宅してメッセージを送った後、自転車に飛び乗り、河川敷へ向かう。
返事は確認していなかったけど、朝倉はもう来ていた。
「黒瀬…!」
「朝倉…!」
勢いよく自転車から降りて、歩道にとめた。急ぎすぎて、自転車はがしゃんと音を立てて倒れてしまう。けれど待ちきれなくてそのまま、朝倉の元へ走った。
出会い頭に、ぶつかるみたいに俺たちは抱き合った。
「よかったー、金賞とれて!」
「本当によかった!」
2人で抱き合ってホッとした。でも、まだ何か足りない気がする。もっと、もっと朝倉に近づきたい。
朝倉は静かに俺を抱きしめていて、それ以上動く様子がない。
俺は、すこし顔を上げて、朝倉を見つめる。
「朝倉、あのさ…」
「黒瀬…?」
「朝倉と、また入れ替わりたいかもしれない」
「は…?」
「だってさ、あの時…」
たくさんキスした。
今も、抱き合うだけじゃ足りない。もっと近づきたい。
言葉にしようって決めたのに、そこまでは言えなかった。でも、何となく伝わったのかもしれない。
「じゃあ、また入れ替わる…?」
「うん…」
「本当に、いいの…?」
「ああ。だって俺、朝倉が俺の中からいなくなって、ちょっと寂しいなって思ってるんだ」
朝倉が俺の中に、好きって気持ちを残してった。きっとそのせいだ。こんなに、朝倉を求めてしまうのは。
「黒瀬…。じゃあもう一回キスしよ…」
「うん…」
俺たちはもう一度キスした。
すごく甘くて心も体も溶けて、一つになりそうなキスだった。

