キスして入れ替わったら、美形部長の秘密の本音は俺への「好き」でいっぱいでした

 
 傷つけて嫌われたかもと心配していたけど、河川敷で別れたその日の深夜、朝倉からDMが来た。無事相互フォローし、朝倉の鍵垢と繋がった。

 しかし朝倉の過去の投稿は全て削除してあり、あの入れ替わりの証拠が、俺には見えない。

 朝倉は鍵垢の投稿を俺に見せたくないようだ。

 投稿は見られなくなったけど、色々会話ができるようになった。

『ちゃんとマウスピースもった?』
『持った』
『楽器ケースにしまった?』
『しまった』
『明日お昼一緒に食べよ』
『わかった』
『金賞とるぞー!』
『おお!』

メッセージのやりとりが、以前より頻繁になった気がする。

『黒瀬さ、この間告白されてたじゃん?あの返事ってしたの…?』
『うん。まあ』
『なんて返事した?』
『断ったよ』
『そっか…』

俺は朝倉が好きだから、彼女とは付き合えない。だから後輩女子の告白は丁重に断った。

 朝倉のやつ、こんなことを聞いてくるくせに、俺に告白はしない。

 あのSNSを見て俺が拒絶反応を示していないってことは、それなりに好意があるってことだろう。だから俺は実質告白したも同然なのに。

 朝倉って超鈍感なんだろうか。

 ……でも、もうすぐコンクールの地区予選だ。一旦、コンクールに集中しなければ……!

****


コンクール当日は熱中症警戒アラートが発令されていた。とにかく暑い…。いつもならそれだけで体力を削られるのだが、朝倉が俺の体を鍛えてくれていたおかげか、今日は元気だった。

 チューニング室で見る限り、朝倉も調子は良さそうだ。

 その後、メンバー全員で準備を終え、チューニング室をでる。

 ついに本番…。

 舞台袖に入ると、もう会話はできない。ステージの待機場所で、朝倉が部員たちに声をかける。

「一年間、今日を目標に練習してきました…。ついに本番!金賞、獲るぞ…!」
「おおー!」

全員で気合を入れた後、舞台袖に移動する。朝倉は後ろの方にいた俺を待って、みんなの一番後ろをふたりで歩く。

「朝倉、緊張してる?」
「うん、まあ」
「じゃ、あれやろ!」

 俺たちは歩きながら一緒に深呼吸をして、小さめにリップロールをする。
 
「黒瀬…」
「ん…?」
「ありがとう」
「まだ始まってないのに…?」
「今言っておきたかった。頼りない部長だけど、支えてくれて、ありがとう」
「頼りない部長って、俺の時じゃなくて?」
「それも含めて……!」

 そんなの、俺も思ってる。

 入れ替わらなかったら、朝倉の努力も、部長の大変さも、たまに暴走する実は熱いやつだってこと、朝倉の良いところ、知らないままだった。

「俺もありがとう。朝倉のおかげで体も軽いし、感謝してる。あと俺、朝倉のこと好きだよ」
「俺も……。……っ、て、、え……?!」

 俺も…?
 やっぱり、朝倉も俺を好き…?

 ようやく、言ったな…!


 その時ちょうど前の学校の演奏が終わった。

「部長、黒瀬くん、はやく!」
「そろそろ舞台転換だよ!急いで!」

先を歩いていた部員に呼ばれて、俺たちは走った。

 朝倉は何度も俺をチラチラと見ている。

 ーー言うタイミング、間違えた?間違えてるよな、多分…。

 まあ、いっか。

 これから自分の気持ちは、言葉で伝えるって決めたから。タイミングを逃してしまうよりは、絶対に良かったはず。


 

 その日、俺たちは最高の演奏をして、金賞を受賞した。

 受賞が決まった瞬間、みんな喜びを爆発させ、歓声を上げた。

 朝倉とは席が遠くて、視線だけで「やったな!」と伝え合う。
  
 そして余韻に浸るまもなく、俺たちは楽器の片付けのため一旦学校に戻った。ミーティング後は保護者が迎えに来ることになっている。せっかく金賞をとったのに朝倉とろくに話せないまま、解散になってしまった。

 帰宅中、朝倉のSNSには金賞のトロフィーの写真がアップされた。

 俺はすぐ、この投稿にいいねを押す。

 でも、これだけじゃ足りない。全然足りない。会って話したい。

『いつものところで会える?』

 帰宅してメッセージを送った後、自転車に飛び乗り、河川敷へ向かう。

 返事は確認していなかったけど、朝倉はもう来ていた。

「黒瀬…!」
「朝倉…!」

勢いよく自転車から降りて、歩道にとめた。急ぎすぎて、自転車はがしゃんと音を立てて倒れてしまう。けれど待ちきれなくてそのまま、朝倉の元へ走った。

 出会い頭に、ぶつかるみたいに俺たちは抱き合った。

「よかったー、金賞とれて!」
「本当によかった!」

 2人で抱き合ってホッとした。でも、まだ何か足りない気がする。もっと、もっと朝倉に近づきたい。

朝倉は静かに俺を抱きしめていて、それ以上動く様子がない。

 俺は、すこし顔を上げて、朝倉を見つめる。

「朝倉、あのさ…」
「黒瀬…?」
「朝倉と、また入れ替わりたいかもしれない」
「は…?」
「だってさ、あの時…」

 たくさんキスした。

 今も、抱き合うだけじゃ足りない。もっと近づきたい。

 言葉にしようって決めたのに、そこまでは言えなかった。でも、何となく伝わったのかもしれない。

「じゃあ、また入れ替わる…?」
「うん…」
「本当に、いいの…?」
「ああ。だって俺、朝倉が俺の中からいなくなって、ちょっと寂しいなって思ってるんだ」

 朝倉が俺の中に、好きって気持ちを残してった。きっとそのせいだ。こんなに、朝倉を求めてしまうのは。

「黒瀬…。じゃあもう一回キスしよ…」
「うん…」

俺たちはもう一度キスした。


 すごく甘くて心も体も溶けて、一つになりそうなキスだった。