キスして入れ替わったら、Face IDをつかって鍵垢が見れて、朝倉の秘密の本音を知った。俺の体にいれば、表情で何を考えてるのかも手に取るようにわかった。
でも今は何もなかったかのように、アイツはスンとしている。すんどころか、ツンとして、今日もさっさと帰ってしまった。
俺たち、あんなに一緒にいたのに。あんなに……。
「一緒にいたよな?まさか、俺の勘違いで、何もなかった、とか…?!」
まさかの『夢オチ』……?!
あの時俺達が入れ替わっていたことは、何の証拠もない。だから「夢だった」って言われたら、信じてしまうかもしれない。
それとも朝倉のやつ、俺とのこと無かったことにするつもりか…?俺のことをその気にさせておいて、黒歴史として葬り去るつもりじゃないだろうな…?
夏のコンクールだけ上手くいけばいいや、とか思ってたりして?!
「いや、ちょっとまて…。証拠、ある…!」
朝倉が俺の寝顔やキス顔を『宝物にする』とか言ってSNSにアップしていたのだ。それが俺たち入れ替わりの証拠だ…!
家に帰ると、俺は急いでSNSを検索した。朝倉のIDは記憶済みなので、プロフィール画面はすぐに見ることができた。
しかし…。
「パスワード、わかんねぇ…!!」
基本、パスワードはFace IDで自動入力していたので、それ自体は見ていない。
「くっそー!!」
しかも、よく見るとプロフィール画面の投稿数が増えている。
「何投稿してんだ、あいつ…!」
でも、確認することが出来なくてもどかしい。もどかしい通り越して、段々イライラしてきた。
『音楽は魂の言葉であり、言葉よりも雄弁である』~フリードリヒ・ニーチェ(哲学者)~
さすがニーチェ、よくわかってる。本当にそうなんだ。音楽って精神状態がすごく出てしまう…。
「ストップ!パーカッション、走り過ぎ…!」
「は、はい…!」
あと数日でコンクールだ。ずっと目標にしてきた、高校最後のコンクール。それなのに、昨日からのイライラが演奏に出てしまい、何度も練習を止めてしまっている。
このままじゃダメだ…っ!
俺はまたスンとしてる朝倉の後ろ姿を睨みながら、決心した。
そして昼休み。俺は視聴覚室に乗り込んだ。
ばーんとドアを開けたかったが、防音仕様のドアは重く、ゆっくりと開いた。ちょっとお腹も痛い。
緊張しながら中を覗いたが、朝倉の姿はなかった。
に、逃げやがった…!くそおー!
呆気なく昼休みは終わり、その後も、話しかけようとしたがかわされて、その日は解散になった。
朝倉の影響でしぶしぶ自転車通学をしている俺は、ペダルを漕いで自宅へ向かう。
自転車を漕いでいるうちに、朝倉と河川敷で会ったことを思い出した。朝倉はまた、そこにいる気がして俺は自転車を走らせる。
夢中で走って、住宅街をぬけるとコンクリートに囲まれた河川敷が見えてきた。さらに近づくと、学生服の人影を見つけた。
やっぱりいた。朝倉だ……!
俺は自転車を歩道にとめて、走って河川敷へ駆け降りる。
「おいっ!朝倉っ!」
「黒瀬…?」
俺に気がついた朝倉は、ただならぬ雰囲気を察したらしい。逆光だが、少し眉を寄せたのが分かった。
「朝倉、俺とSNS交換しようぜ!」
「突然なんでだよ?」
「なんでも!」
「俺、SNSやってない」
嘘つけ、やってんだろ…!そう喉から出かかって、グッと抑える。
「本当に?」
「本当に」
「嘘だろ…!」
「嘘じゃない」
しかしすぐ限界が来て、俺は朝倉にぶちまけた。
「この大嘘つき!知ってんだぞ…!」
そしてスマートフォンを取り出すと、SNSのプロフィール画面を印籠のように見せる。
それは鍵垢、フォロワーゼロの朝倉のアカウントだ。
朝倉はそれを見るなり顔をこわばらせる。
「ななな、なんだよこのアカウント…。知らねーよ!」
「なななとか言ってめちゃくちゃ動揺してんじゃねえか!アカウント名leoだし、明らかにお前じゃん!」
「レオなんていっぱいいるだろ!」
「いねーよ、鍵垢フォロワーゼロでSNSやってないって嘘ついてるレオはお前だけだよ!しかもこれ、投稿数増えてるし、何投稿してんだよ!みせてみろよっ!」
「なんで投稿数まで知ってんだよ?!」
「 あ?!『投稿数まで知ってる』って反応するってことは、やっぱりこれお前のアカウントってことじゃねーか!おい、鍵外せよ!」
「黒瀬に見せるなんて、絶対嫌だ!」
「なんで嫌なんだよ?!」
そんなに拒否られて、だんだん悲しくなってきた。なんで、俺のこと好きってバレるのがそんなに嫌なんだよ…?!
「なんで見せられないんだよ。あんなに一緒にいて、仲良くなったと思ったのに…。そう思ってたの、俺だけかよ…」
「黒瀬…」
怒っていたのに急に、悲しくなってきた。涙が出るのって感情の振り幅が原因だ。怒りからの急降下で、涙腺がまずいことに…。
ちょっと鼻を啜って耐えると、朝倉はぽつりとつぶやいた。
「黒瀬って、すぐ顔にでるな。俺、そんなところが…」
「そんなところが…?」
「……」
「なんだよ、言えよ~!言わなきゃ分かんないだろ!もう、自分の体に戻ったんだから!」
自分で言って、ハッとする。
そうだ、言わなきゃ伝わらない……。
SNSの鍵垢を開けたとして、聞きたいことが書いてあるとは限らない。
聞きたいことは聞いて、言いたいことは言わないと。
「信じてもらえるか分かんないけど、俺は、絶対朝倉がソロに選ばれるって思ってた」
「今度はなんだよ…」
「でもそれって、周りの人には分かんないだろ?」
「……昨日の、三浦さんとのこと?」
朝倉に聞かれて、素直に頷く。
「部長だから、3年だから朝倉がソロに選ばれたって思われるのは嫌だったんだ。俺も2年の時、そう言われて納得できなかったし。だから…、あれはみんなを納得させるためで、三浦さんにチャンスをやってくれって言いたかったわけじゃない」
「黒瀬…」
「なのに、昨日、朝倉に無視されて…」
「ごめん…」
朝倉の表情を見ると、もう怒っていないのは分かった。前は分かりにくかったけど、俺がいた名残だろう。ちょっとだけ、分かる。「ごめん」の言い方にも、棘がなかった。
もう、俺たちは元に戻ってしまった。Face IDも使えないし、SNSも見れない。だけど、こうやって話せば、朝倉を理解できる、気がする。
「単純に嫉妬した。黒瀬が、三浦さんの肩持ったと思った…」
「俺もごめん。事前に朝倉にこう思ってるんだけど、って相談してから先生に言えばよかったんだ」
「……たしかに」
「そこは『そんなことないよ』じゃねーの?」
入れ替わっていた時と同じ感覚で、俺たち言葉足らずだったんだ。
お互い顔を見合わせると、おかしくなって吹き出してしまった。
「しかもさ、黒瀬が自慢するみたいに女子にもらったお菓子と手紙渡してきて」
「あ、あれは…。間違えたんだよ!それにさ、あれ告白されたのほぼ朝倉だよ?」
「俺…?」
「だってきっかけ、合宿の時、朝倉がシンバルそのままでいくって言ったからだし」
「そうかな…?」
「そうだよ!」
俺たちは無事、話し合って解決できた。よかった…。
安心して、俺はスマートフォンをもう一度差し出す。
「じゃあこれ、俺のアカウント」
「え…?」
「朝倉のと交換しようぜ!」
「……」
「その方が便利だろ?俺たまに投稿してるんだ。空の写真とか~。あと、練習上手く行った時とか…」
「でも、これは、その……」
朝倉はなんだかもにょもにょし始めた。俺とSNSを交換することが、嫌なのか…?
まあ、あの投稿見られたら恥ずかしいか。でも心配いらないんだぞ…?
「大丈夫だよ!俺、朝倉の投稿知ってるし!」
「………は……?」
朝倉は目をまんまるにして、固まってしまった。顔色もみるみる青くなっていく。
どうやら朝倉は、俺が投稿を見ているとは思いもよらなかったらしい。
「な、なんで…?!ログアウト、したはずなのに…!」
「Face IDでIDとパスワード、入力できちゃって」
「できちゃって、じゃねーよ!鍵垢勝手に見るなんてありえないだろ!」
「え、でもお前も俺のwebの検索履歴見てたじゃん?」
「それとこれとは訳が違うだろっ!!!!」
朝倉の顔色は真っ青で、握った拳はぶるぶると震えている。今にも、泣き出しそうな顔で。そして朝倉は立ち上がると、走って行ってしまった。
俺は、その後ろ姿を見送ることしかできない。
俺、朝倉を泣かせてしまった……!
あの朝倉が泣くなんて。
やっぱり俺が、朝倉の表情筋を鍛えすぎたせいだろうか……?
でも今は何もなかったかのように、アイツはスンとしている。すんどころか、ツンとして、今日もさっさと帰ってしまった。
俺たち、あんなに一緒にいたのに。あんなに……。
「一緒にいたよな?まさか、俺の勘違いで、何もなかった、とか…?!」
まさかの『夢オチ』……?!
あの時俺達が入れ替わっていたことは、何の証拠もない。だから「夢だった」って言われたら、信じてしまうかもしれない。
それとも朝倉のやつ、俺とのこと無かったことにするつもりか…?俺のことをその気にさせておいて、黒歴史として葬り去るつもりじゃないだろうな…?
夏のコンクールだけ上手くいけばいいや、とか思ってたりして?!
「いや、ちょっとまて…。証拠、ある…!」
朝倉が俺の寝顔やキス顔を『宝物にする』とか言ってSNSにアップしていたのだ。それが俺たち入れ替わりの証拠だ…!
家に帰ると、俺は急いでSNSを検索した。朝倉のIDは記憶済みなので、プロフィール画面はすぐに見ることができた。
しかし…。
「パスワード、わかんねぇ…!!」
基本、パスワードはFace IDで自動入力していたので、それ自体は見ていない。
「くっそー!!」
しかも、よく見るとプロフィール画面の投稿数が増えている。
「何投稿してんだ、あいつ…!」
でも、確認することが出来なくてもどかしい。もどかしい通り越して、段々イライラしてきた。
『音楽は魂の言葉であり、言葉よりも雄弁である』~フリードリヒ・ニーチェ(哲学者)~
さすがニーチェ、よくわかってる。本当にそうなんだ。音楽って精神状態がすごく出てしまう…。
「ストップ!パーカッション、走り過ぎ…!」
「は、はい…!」
あと数日でコンクールだ。ずっと目標にしてきた、高校最後のコンクール。それなのに、昨日からのイライラが演奏に出てしまい、何度も練習を止めてしまっている。
このままじゃダメだ…っ!
俺はまたスンとしてる朝倉の後ろ姿を睨みながら、決心した。
そして昼休み。俺は視聴覚室に乗り込んだ。
ばーんとドアを開けたかったが、防音仕様のドアは重く、ゆっくりと開いた。ちょっとお腹も痛い。
緊張しながら中を覗いたが、朝倉の姿はなかった。
に、逃げやがった…!くそおー!
呆気なく昼休みは終わり、その後も、話しかけようとしたがかわされて、その日は解散になった。
朝倉の影響でしぶしぶ自転車通学をしている俺は、ペダルを漕いで自宅へ向かう。
自転車を漕いでいるうちに、朝倉と河川敷で会ったことを思い出した。朝倉はまた、そこにいる気がして俺は自転車を走らせる。
夢中で走って、住宅街をぬけるとコンクリートに囲まれた河川敷が見えてきた。さらに近づくと、学生服の人影を見つけた。
やっぱりいた。朝倉だ……!
俺は自転車を歩道にとめて、走って河川敷へ駆け降りる。
「おいっ!朝倉っ!」
「黒瀬…?」
俺に気がついた朝倉は、ただならぬ雰囲気を察したらしい。逆光だが、少し眉を寄せたのが分かった。
「朝倉、俺とSNS交換しようぜ!」
「突然なんでだよ?」
「なんでも!」
「俺、SNSやってない」
嘘つけ、やってんだろ…!そう喉から出かかって、グッと抑える。
「本当に?」
「本当に」
「嘘だろ…!」
「嘘じゃない」
しかしすぐ限界が来て、俺は朝倉にぶちまけた。
「この大嘘つき!知ってんだぞ…!」
そしてスマートフォンを取り出すと、SNSのプロフィール画面を印籠のように見せる。
それは鍵垢、フォロワーゼロの朝倉のアカウントだ。
朝倉はそれを見るなり顔をこわばらせる。
「ななな、なんだよこのアカウント…。知らねーよ!」
「なななとか言ってめちゃくちゃ動揺してんじゃねえか!アカウント名leoだし、明らかにお前じゃん!」
「レオなんていっぱいいるだろ!」
「いねーよ、鍵垢フォロワーゼロでSNSやってないって嘘ついてるレオはお前だけだよ!しかもこれ、投稿数増えてるし、何投稿してんだよ!みせてみろよっ!」
「なんで投稿数まで知ってんだよ?!」
「 あ?!『投稿数まで知ってる』って反応するってことは、やっぱりこれお前のアカウントってことじゃねーか!おい、鍵外せよ!」
「黒瀬に見せるなんて、絶対嫌だ!」
「なんで嫌なんだよ?!」
そんなに拒否られて、だんだん悲しくなってきた。なんで、俺のこと好きってバレるのがそんなに嫌なんだよ…?!
「なんで見せられないんだよ。あんなに一緒にいて、仲良くなったと思ったのに…。そう思ってたの、俺だけかよ…」
「黒瀬…」
怒っていたのに急に、悲しくなってきた。涙が出るのって感情の振り幅が原因だ。怒りからの急降下で、涙腺がまずいことに…。
ちょっと鼻を啜って耐えると、朝倉はぽつりとつぶやいた。
「黒瀬って、すぐ顔にでるな。俺、そんなところが…」
「そんなところが…?」
「……」
「なんだよ、言えよ~!言わなきゃ分かんないだろ!もう、自分の体に戻ったんだから!」
自分で言って、ハッとする。
そうだ、言わなきゃ伝わらない……。
SNSの鍵垢を開けたとして、聞きたいことが書いてあるとは限らない。
聞きたいことは聞いて、言いたいことは言わないと。
「信じてもらえるか分かんないけど、俺は、絶対朝倉がソロに選ばれるって思ってた」
「今度はなんだよ…」
「でもそれって、周りの人には分かんないだろ?」
「……昨日の、三浦さんとのこと?」
朝倉に聞かれて、素直に頷く。
「部長だから、3年だから朝倉がソロに選ばれたって思われるのは嫌だったんだ。俺も2年の時、そう言われて納得できなかったし。だから…、あれはみんなを納得させるためで、三浦さんにチャンスをやってくれって言いたかったわけじゃない」
「黒瀬…」
「なのに、昨日、朝倉に無視されて…」
「ごめん…」
朝倉の表情を見ると、もう怒っていないのは分かった。前は分かりにくかったけど、俺がいた名残だろう。ちょっとだけ、分かる。「ごめん」の言い方にも、棘がなかった。
もう、俺たちは元に戻ってしまった。Face IDも使えないし、SNSも見れない。だけど、こうやって話せば、朝倉を理解できる、気がする。
「単純に嫉妬した。黒瀬が、三浦さんの肩持ったと思った…」
「俺もごめん。事前に朝倉にこう思ってるんだけど、って相談してから先生に言えばよかったんだ」
「……たしかに」
「そこは『そんなことないよ』じゃねーの?」
入れ替わっていた時と同じ感覚で、俺たち言葉足らずだったんだ。
お互い顔を見合わせると、おかしくなって吹き出してしまった。
「しかもさ、黒瀬が自慢するみたいに女子にもらったお菓子と手紙渡してきて」
「あ、あれは…。間違えたんだよ!それにさ、あれ告白されたのほぼ朝倉だよ?」
「俺…?」
「だってきっかけ、合宿の時、朝倉がシンバルそのままでいくって言ったからだし」
「そうかな…?」
「そうだよ!」
俺たちは無事、話し合って解決できた。よかった…。
安心して、俺はスマートフォンをもう一度差し出す。
「じゃあこれ、俺のアカウント」
「え…?」
「朝倉のと交換しようぜ!」
「……」
「その方が便利だろ?俺たまに投稿してるんだ。空の写真とか~。あと、練習上手く行った時とか…」
「でも、これは、その……」
朝倉はなんだかもにょもにょし始めた。俺とSNSを交換することが、嫌なのか…?
まあ、あの投稿見られたら恥ずかしいか。でも心配いらないんだぞ…?
「大丈夫だよ!俺、朝倉の投稿知ってるし!」
「………は……?」
朝倉は目をまんまるにして、固まってしまった。顔色もみるみる青くなっていく。
どうやら朝倉は、俺が投稿を見ているとは思いもよらなかったらしい。
「な、なんで…?!ログアウト、したはずなのに…!」
「Face IDでIDとパスワード、入力できちゃって」
「できちゃって、じゃねーよ!鍵垢勝手に見るなんてありえないだろ!」
「え、でもお前も俺のwebの検索履歴見てたじゃん?」
「それとこれとは訳が違うだろっ!!!!」
朝倉の顔色は真っ青で、握った拳はぶるぶると震えている。今にも、泣き出しそうな顔で。そして朝倉は立ち上がると、走って行ってしまった。
俺は、その後ろ姿を見送ることしかできない。
俺、朝倉を泣かせてしまった……!
あの朝倉が泣くなんて。
やっぱり俺が、朝倉の表情筋を鍛えすぎたせいだろうか……?

