キスして入れ替わったら、美形部長の秘密の本音は俺への「好き」でいっぱいでした

 その日の全体練習終わり、片付けをして帰ろうとするとスマートフォンに着信が来ていることに気がついた。

「え…、マウスピースが、見つかった……?!」

それは、念のため電話した駅の遺失物取扱所からの連絡だった。

「そうです。黒い袋のなかにケースが…。それで間違いないと思います…!ありがとうございます!」

なんと…、マウスピースが見つかった。

 完全に、三浦さんが盗んだと思ってたのに…。まさかの、ただ朝倉が落としてただけだったぁー!

 うわぁー、まじかぁー!!

 ごめん三浦さん……!俺、完っ全に、疑ってた!でも、朝倉も思わせぶりで「犯人を探すなっ!」みたいな顔してたから、つい……。

 だいたい、アイツが大切なマウスピース落としたりするからいけない。あのお騒がせヤロウ…っ!

 俺は嬉々として、お騒がせ野郎のところへ走った。

「朝倉っ!マウスピース見つかったって!いま駅から電話きたよ!」
「え……?」

 やっぱり朝倉も驚いてる。お前も三浦さん疑ってたな…?まったく、困ったやつだ。朝倉っていまだにSNS隠せてると思ってるし、すこし、抜けてるところあるんだよな。

「昼に確認の電話入れててよかったー!今から取りに行こうぜ…!」

一緒に行こう、というニュアンスで言ったのに、朝倉はリュックを背負って黙って出て行こうとする。

「待てよ、一緒にいこ…!」
「いいよ、1人で行く!」
「でも問い合わせしたの俺だし 」
「事情話すから大丈夫」

 朝倉はどうしても一人で行くつもりらしい。まるで俺を避けているようだ。

 ま…、まさか、こいつ……!

 俺が三浦さんの肩を持ったと思って、ムカついてるんじゃないだろうな?!

 俺は、ソロは朝倉だと確信していた。

 だから、正々堂々とテストを受けて、三浦さん含め全員に認められた上でソロを演奏して欲しいと思ったんだ。

 むしろ朝倉の実力を信じていたからこそ、なのに。

 そんな俺を敵認定して怒って拒否るなんて、浅はかなやつ……!

 呼び止める間もなく朝倉は行ってしまい、俺はポツンと取り残された。

「あのお、黒瀬先輩」

 ぼんやりしている俺を呼び止めたのは、三浦さんだった。三浦さんは泣いたのか、すこし目が赤い。

「今日、ありがとうございました!黒瀬先輩の言ってくれたこと、すごく嬉しかったです…!」
「あ、いや…。俺は、なにも…」

三浦さんにお礼を言われて、気まずすぎて目を逸らした。だって俺は三浦さんを完っ全に、マウスピースを盗んだ犯人だと思っていたのだ。

「私、ずっとモヤモヤしてて。でも、先輩のおかげでスッキリしました!」
「そっか。それはよかった…!」

過程はどうあれ、これで良かった。よな…?!

 三浦さんの笑顔を見て、そう思ったものの、やはりさっきの朝倉の態度が引っかかる。

「でも、部長は大丈夫ですかね…?テストのこと、怒ってる感じですか?」
「朝倉はそんなことで怒るやつじゃないから、大丈夫だよ!」
「そうだといいんですけど…」
「大丈夫、大丈夫!」

俺は心の中でもう一度三浦さんに謝罪すると、音楽室を飛び出した。

 急いで、駅まで走って向かう。

 朝倉が俺を鍛えてくれていたおかげで、いつもより早く着いた。

辺りを探したけど、朝倉の姿はない。

 なあ、朝倉。お前そんなことで怒るやつじゃないよな…?

 しかし、駅で会うことはできず、仕方なくその日は帰宅した。

 
 

 翌日、朝倉は前みたいにスンとしてるクール美形部長に戻っていた。

 やっぱり。あいつ、完全に俺の意図を誤解してるな…?

 そんなことだろうと思ってた。

 だから今日はこっそりお菓子を持ってきた。近所のお菓子屋さんの、有名なあんどーなつ。すごく美味しいらしいから、昼休みに一緒に食べて仲直りしよう…。最悪、「あーん」してやってもいい。

 午前中の練習が終わり、昼休憩になると一目散に朝倉のところへ向かう。けどその途中で、同じパーカッションのシンバル担当の女子に呼び止められてしまった。

「黒瀬先輩!ちょっといいですか…?」
「え…っ、と…、なに?」

呼び止められた間に、朝倉は出ていってしまった。

 し、し、しまったーっ!

朝倉を追いかけたかったのだが、女子にこっちに来てくれと言われて、廊下の隅に連れ出されてしまった。

「黒瀬先輩!あの、合宿のとき庇ってもらってありがとうございました!これお礼です…!」

後輩はそう言ってクラフト紙の茶色い袋を俺に手渡した。

「これ…?」
「お菓子です」
「そうなんだ…。ありがとう…」

俺がお菓子を受け取ると、彼女はぺこっと頭を下げて行ってしまった。

 合宿で彼女を庇ったのは朝倉なんだが…。でも今更そんなことを言っても信じてもらえないだろう。

 俺はもらったお菓子をリュックに突っ込むと、急いで昨日と同じ視聴覚室へ向かった。

 予想通り、朝倉は視聴覚室にいた。

「朝倉~…」
「黒瀬…?」

昨日と違い朝倉は弁当を食べていた。食べ終わったら練習するつもりなのか、隣に楽器ケースが置いてある。

「なに…?」

なにって、何だよ!

 入れ替わる前のようなスンとした朝倉の態度に、俺は少し怯んだ。美形のこの冷たい態度…。けっこう精神的にくるな。こいつに告白できる女子、心強いなー。尊敬する…!

 でも俺はこの間までこいつの中にいたんだ!特別な関係だから、大丈夫なはず…。

 俺は勇気を振り絞って、朝倉の隣に座る。

「マウスピース見つかった?」
「見つかった。ありがとう」

いや、それ朝イチいえよ?もしくはメッセージしてこい。

 ちょっと不満に思いながらリュックのなかからあんドーナツの包みを取り出して朝倉に手渡す。

「これ、うちの近所でおいしいって有名なあんドーナツ!」
「へーー」

感動うっっっっす。

 これ、なかなか買えないんだぞ?!某チェーン店の柔らかもちもちドーナツ以上にレアなんだぞ…?!

 俺はちょっと頭に来たが、とりあえず弁当を取り出す。すると隣で袋を開けるカサカサと言う音がした。感動は薄かったが、食べるつもりらしい。

「……黒瀬先輩へ。合宿の時、庇ってくれてありがとうございました!それに昨日もかっこよかったです!後輩のために先生に意見するなんて、なかなかできないと思います。それで、黒瀬先輩のこと好きになっちゃいました。付き合ってください♡」
「……へ…?!」
「なんだよこれ?こんなの渡してきて、自慢?あともらったもの人にあげるとか最低なんだけど…」
「え……。あっ?!」

俺はうっかり、さっき後輩に貰った包みの方を朝倉に渡してしまったようだ。包みが同じ、クラフト紙だったから間違えてしまった…!

「ごめん。そっちじゃなくてこっちだった!」
「……」

朝倉は受け取らずに立ち上がると、黙って楽器を吹き、練習を始めた。
 
 全然、話せる空気じゃない。

 そういや前も、俺と朝倉は仲良くはなかった。アイツはいつもクールでスンとしてて、話しかけられなくて。

 でも呼び出して話したら、印象は違った。入れ替わったらもっと、近くなって…。俺の顔のアイツはすごく分かりやすかったんだけど。

 元に戻ったら、朝倉の気持ちが全然分からなくなってしまった。