ええええ。
そうなの……?!
俺、朝倉のこと…。
意識したらキスはおろか…、朝倉の顔を見ることさえ恥ずかしくなってしまい、体液交換はすっぱり諦めることにした。
「わかった。えっちは諦める……」
「え……っ?!諦めるの、早くない?!」
「だって、朝倉が恋人でもないのにできないって…」
「俺、『できない』とはいってなくない?!」
「朝倉は今、俺の体だから。俺、分かっちゃうんだ。悲しそうな顔してるな、とか。朝倉を悲しませたくない」
「いや、おれはその…。悲しんではないっていうか……」
「だから、他の方法考えてみる!朝倉も考えてくれよ!」
「う゛……っ。う、ん゛…」
他の方法は…。俺が怪我して出血して、朝倉の血を輸血してもらうとか…?
怪我&体液交換で入れ替われそうではあるが、輸血するほど怪我したら、そもそもコンクール出場が危うい…。
かといって、俺の体で朝倉がサックスを吹くのは限界があるだろう。
考えながら掃除を終わらせて、昼食を挟んで午後。
結局俺たちは午後も練習に復帰できず、今度は学校の掃除に駆り出されてしまった。
職員室の近くの掃除をしていると、朝倉の担任に遭遇した。
「朝倉ぁー、いいところで会った。お前、進路調査票出してないだろ!」
「「あっ…!」」
「ちょっとこっち来い!」
朝倉の担任は俺たち2人を空き教室に連れて行った。机に座ると、担任はジュースの缶を俺たちの机の上に置く。
「暑いのにお疲れ様。まあ飲めよ…!あ、朝倉は先にそれ書け!」
朝倉の担任は俺の前の席に座り、じっと俺の手を見ている。朝倉の担任は大柄で強面なので、酷い圧迫感…。
「朝倉~、別に、本当に自分の行きたいところ書いていいんだぞ?」
「は、はぁ…」
朝倉の本当に行きたい大学か…。本当に俺と同じところでいいんだろうか?
俺が恐る恐る、自分の志望校を書くと、隣の朝倉は笑顔になった。
「あー、ここ吹奏楽部有名だもんな~」
朝倉の成績ならもっと上を目指せると思うが、担任は納得したようで、紙を持って立ち上がる。
立ち上がった担任も笑顔だった。
「お前らに塩飴やる。熱中症予防!」
「え、かわい~」
渡された塩飴は担任の見た目には似つかわしくない。かわいい白くまの絵が描かれていた。
「先生がこんなかわいいのくれるって、意外~」
「お前たちが掃除してるって聞いたから、さっきコンビニで買ってきたんだよ…!悪かったな、かわいくない先生で…!」
言われてみれば、担任は汗をかいている。コンビニは駅の近くにしかない。わざわざそこまで行って買ってきてくれたんだ。
「先生、ありがとう。意外とかいってすみません…」
「はは、いいよ。いいよ。合宿明日までだろ?がんばれよ!」
担任が去ったあと、2人で塩飴を舐めた。しょっぱくて甘い。朝倉の担任みたいだ…。
「朝倉の担任の先生、大っきくて見た目怖いのにけっこういいとこあるよな」
「うん。見た目怖いけど、優しいよ」
見た目は怖いけど。朝倉の担任は優しい先生だ。それに塩飴はしょっぱくて甘い…。
それって俺と似てる。俺も見た目は朝倉だけど、中身は黒瀬。
「なぁ、朝倉……」
元に戻らないとお互いの楽器は演奏できないと思っていた。特に俺の体じゃ、サックスの適性がないって。
でも……。
「朝倉ーー!」
「急になんだよ?!」
俺は朝倉に真剣に訴えた。
「信じてもらえるか分からないけど、入れ替わりのこと正直にみんなに言おう」
「え……?」
「天気予報を見てもこのまま、コンクールまで何も起こらない可能性の方が高い。それならもう、みんなに言おう!」
俺の提案に、朝倉は目を丸くして戸惑っているようだった。
「だって先生もさ、見た目怖いけど先生だろ?俺も見た目朝倉だけど黒瀬なんだよ!」
「そ、それは、そうだろうけど…」
「見た目はどうでもよくて、自分がどうありたいかじゃないか?俺は黒瀬だ。だから、マリンバ叩いていいんじゃないか?!」
朝倉は見た目クールな美形部長だけど。実際は違う。俺はそんな朝倉が好きだ。
だから、それでよくないか…?
「俺、俺の体じゃ朝倉がサックス吹けないって思ってた。けど、朝倉はサックスが好きだろ?どんな身体でも…!」
「……」
「俺もマリンバが好きだ!」
俺の場合、朝倉の体の方が上手く演奏できちゃうかもしれないけど…。
不安なまま、朝倉を見つめる。すると少しの間の後、朝倉は笑顔になった。
「俺も黒瀬にマリンバを演奏してもらいたい!」
「ああ!まかせろ。それで、金賞獲ろうぜ…!」
先生に貰ったジュースを2人で一気飲みして、教室を飛び出した。
午後の練習が終わり、夕食を食べ終えると俺と朝倉は誰よりも先に合宿所を飛び出して音楽室へ向かった。
この後、ほぼ全員が自主練のため音楽室にくる。俺たちはそこで、吹奏楽部の部員たちに正直に告白しようと決めたのだ。
俺はマリンバの前に立ち、朝倉はサックスを構える。
「朝倉、準備は…?」
「バッチリ…!」
部員たちが来たら、実際に演奏してみせようと俺たちは準備をした。
「ちょっと緊張してきた…」
「俺も。一回練習する…?」
朝倉はまず、ぷるるるとリップロールを始めた。
「リップロールすると落ち着くんだ?」
「うん、ルーティンみたいな感じ。黒瀬は何かないの?」
「ないけど、俺もやろうかな…」
朝倉の真似をして、リップロールをしてみた。2人で一緒にすると、1人じゃないって気がして、緊張が和らぐ。
「じゃあ一回合わせてみよう!」
「オッケー…!」
俺たちは自由曲でサックスソロもある『マードックからの最後の手紙』の演奏を始めた。
朝倉は、俺の体が原因だろう。息が続かず、フレーズの途中で音が途切れがちになる。一方、朝倉の体もまだマリンバに不慣れで、俺も手探りの状態。ところどころ音を外しながら、それでも必死にサックスへついていく。
不揃いで、決して上手くはないけれど。重なった二つの音は、俺たちの心と同じように、どこか弾むように響いた。
楽しい……!
やっぱり俺、マリンバが好きだ。
入れ替わってから、いや、去年メンバー落ちしてからずっと、楽器を演奏する楽しさを忘れていたのかもしれない。
それをまさか、朝倉の体で思い出すなんて…!
俺が久しぶりのマリンバに感動していると、突然、教室の電気が消えた。
「きゃーーっ!」
「え、なんでぇー?!」
ちょうどその時、他の部員たちがやって来たようだ。明かりが突然消えたことで、教室の外から悲鳴が上がった。
今日はあいにく厚い雲がかかり、月明かりもない。電気が消えたことで、音楽室は真っ暗になってしまった。
「朝倉部長~、暗い中で肝試し的に演奏しようって言う趣向ですか……?」
「じゃあ顧問が来たら一斉に弾いて驚かせちゃおうよ!」
「確かに、面白そう!」
そういった趣向ではなかったのだが、他の部員たちも次々に入って来て暗がりの中、楽器の準備をする。
少し目は慣れてきたが、みんな興奮していて、俺たちの役割が入れ替わっていることに気がつく者はいない。
準備が終わった頃、音楽室の外から足音が聞こえてきた。多分、顧問がやってきたのだ。
「せーの!」
俺の体の朝倉の合図で、演奏が始まる。
五十人の音がひとつに重なり、音楽室に響いた。
やがてサックスのソロが前に出る。その旋律はどこか頼りなく儚げだ。俺のマリンバも完璧ではないけど、必死に音を重ねる。
不器用な演奏だったけれど、今までで一番、みんなの音がひとつになった気がした。
「よかったよね、今…?!」
「うん。息ぴったりだったよね、みんな!」
「息だけね?ちょっと下手でもあったよね?」
「でも、さっきの感じ好き…!」
「うんうん。いけるんじゃない、私たち…!」
演奏が終わると、みんな各々感想を口にし始めた。どうやら全員、手応えを感じていたらしい。
ーー確かに、技術面ではまだまだ。でも、これでいいのかもしれない。
演奏を終えて少しして、顧問が音楽室に飛び込んで来た。
「おい、お前たち急いで合宿所へ戻れ!雷が来るぞ!」
「えーーっ?!」
「隣町の送電線に落ちて大規模停電してるらしい。次は、この辺りに……」
顧問が言い終わるより先に、窓の外に稲光が走った。
そして若干遅れて、雷鳴が轟く。
「きゃーー!」
「急げ!楽器は危ないから置いていくこと…!」
みんな慌てて教室を出て行く。
俺は、その流れに逆らって朝倉を探した。
「黒瀬…!」
「朝倉…っ!」
俺たちは手を取り、2人だけで隣の音楽準備室へ移動する。
そして、顧問が最後に音楽室の鍵を閉めるのを息を潜めて待った。
その間も、雷鳴はどんどん大きくなっていく。
俺たちは、あの日と同じ、窓の前に立った。
「もし、元に戻れなくても、サックスは朝倉に吹いてほしいって、俺、思ってる」
「うん、俺も。俺は、一年前から、いやもっと前から、うちのマリンバは、黒瀬が演奏するべきって思ってた」
「ありがとう。あとごめん。俺ずっと誤解してた。お前がパーカッションを下に見てるって思ってた」
「俺こそごめん。ずっと黒瀬につらい思いさせてた。言葉足らずの部長なのに、支えようって言ってくれて、嬉しかった」
俺たちは矢継ぎ早に感謝の気持ちを伝え合った。
今いるお互いの体に、精一杯の感謝を込めて。
もっと、もっと伝えたいことは沢山ある。
しかし雷の音はより一層、大きくなった。かなり近づいて来ているようだ。
きっともう、時間だ…!
俺と朝倉はぎゅっと抱きしめあった。そして顔を寄せ見つめ合うと、そっと唇を重ねる。
人間の体って不思議だ。
心が一つになると、じんわりと胸が温かくなる。
ーーその瞬間、窓の外にピカっと稲妻が走った。そしてその後すぐ、雷が落ちるズドォンという轟音が響く。
すごい衝撃だった。けれど俺は目を閉じなかった。頭はガンガンするし、視界もぐらぐらと揺れている。
それでも俺は目を閉じずに、朝倉の顔を、じっと見ていた。
朝倉の唇がゆっくり離れて行く、その様子も、ずっと。
そして唇が離れて二人が別々になっても、俺は確かに、朝倉を見ていた。
……ということは。つまり…。
「「元に戻った…!!」」
つ、ついに……!
「朝倉…っ!」
「黒瀬!」
俺たちは抱き合って、もう一度キスした。
そうなの……?!
俺、朝倉のこと…。
意識したらキスはおろか…、朝倉の顔を見ることさえ恥ずかしくなってしまい、体液交換はすっぱり諦めることにした。
「わかった。えっちは諦める……」
「え……っ?!諦めるの、早くない?!」
「だって、朝倉が恋人でもないのにできないって…」
「俺、『できない』とはいってなくない?!」
「朝倉は今、俺の体だから。俺、分かっちゃうんだ。悲しそうな顔してるな、とか。朝倉を悲しませたくない」
「いや、おれはその…。悲しんではないっていうか……」
「だから、他の方法考えてみる!朝倉も考えてくれよ!」
「う゛……っ。う、ん゛…」
他の方法は…。俺が怪我して出血して、朝倉の血を輸血してもらうとか…?
怪我&体液交換で入れ替われそうではあるが、輸血するほど怪我したら、そもそもコンクール出場が危うい…。
かといって、俺の体で朝倉がサックスを吹くのは限界があるだろう。
考えながら掃除を終わらせて、昼食を挟んで午後。
結局俺たちは午後も練習に復帰できず、今度は学校の掃除に駆り出されてしまった。
職員室の近くの掃除をしていると、朝倉の担任に遭遇した。
「朝倉ぁー、いいところで会った。お前、進路調査票出してないだろ!」
「「あっ…!」」
「ちょっとこっち来い!」
朝倉の担任は俺たち2人を空き教室に連れて行った。机に座ると、担任はジュースの缶を俺たちの机の上に置く。
「暑いのにお疲れ様。まあ飲めよ…!あ、朝倉は先にそれ書け!」
朝倉の担任は俺の前の席に座り、じっと俺の手を見ている。朝倉の担任は大柄で強面なので、酷い圧迫感…。
「朝倉~、別に、本当に自分の行きたいところ書いていいんだぞ?」
「は、はぁ…」
朝倉の本当に行きたい大学か…。本当に俺と同じところでいいんだろうか?
俺が恐る恐る、自分の志望校を書くと、隣の朝倉は笑顔になった。
「あー、ここ吹奏楽部有名だもんな~」
朝倉の成績ならもっと上を目指せると思うが、担任は納得したようで、紙を持って立ち上がる。
立ち上がった担任も笑顔だった。
「お前らに塩飴やる。熱中症予防!」
「え、かわい~」
渡された塩飴は担任の見た目には似つかわしくない。かわいい白くまの絵が描かれていた。
「先生がこんなかわいいのくれるって、意外~」
「お前たちが掃除してるって聞いたから、さっきコンビニで買ってきたんだよ…!悪かったな、かわいくない先生で…!」
言われてみれば、担任は汗をかいている。コンビニは駅の近くにしかない。わざわざそこまで行って買ってきてくれたんだ。
「先生、ありがとう。意外とかいってすみません…」
「はは、いいよ。いいよ。合宿明日までだろ?がんばれよ!」
担任が去ったあと、2人で塩飴を舐めた。しょっぱくて甘い。朝倉の担任みたいだ…。
「朝倉の担任の先生、大っきくて見た目怖いのにけっこういいとこあるよな」
「うん。見た目怖いけど、優しいよ」
見た目は怖いけど。朝倉の担任は優しい先生だ。それに塩飴はしょっぱくて甘い…。
それって俺と似てる。俺も見た目は朝倉だけど、中身は黒瀬。
「なぁ、朝倉……」
元に戻らないとお互いの楽器は演奏できないと思っていた。特に俺の体じゃ、サックスの適性がないって。
でも……。
「朝倉ーー!」
「急になんだよ?!」
俺は朝倉に真剣に訴えた。
「信じてもらえるか分からないけど、入れ替わりのこと正直にみんなに言おう」
「え……?」
「天気予報を見てもこのまま、コンクールまで何も起こらない可能性の方が高い。それならもう、みんなに言おう!」
俺の提案に、朝倉は目を丸くして戸惑っているようだった。
「だって先生もさ、見た目怖いけど先生だろ?俺も見た目朝倉だけど黒瀬なんだよ!」
「そ、それは、そうだろうけど…」
「見た目はどうでもよくて、自分がどうありたいかじゃないか?俺は黒瀬だ。だから、マリンバ叩いていいんじゃないか?!」
朝倉は見た目クールな美形部長だけど。実際は違う。俺はそんな朝倉が好きだ。
だから、それでよくないか…?
「俺、俺の体じゃ朝倉がサックス吹けないって思ってた。けど、朝倉はサックスが好きだろ?どんな身体でも…!」
「……」
「俺もマリンバが好きだ!」
俺の場合、朝倉の体の方が上手く演奏できちゃうかもしれないけど…。
不安なまま、朝倉を見つめる。すると少しの間の後、朝倉は笑顔になった。
「俺も黒瀬にマリンバを演奏してもらいたい!」
「ああ!まかせろ。それで、金賞獲ろうぜ…!」
先生に貰ったジュースを2人で一気飲みして、教室を飛び出した。
午後の練習が終わり、夕食を食べ終えると俺と朝倉は誰よりも先に合宿所を飛び出して音楽室へ向かった。
この後、ほぼ全員が自主練のため音楽室にくる。俺たちはそこで、吹奏楽部の部員たちに正直に告白しようと決めたのだ。
俺はマリンバの前に立ち、朝倉はサックスを構える。
「朝倉、準備は…?」
「バッチリ…!」
部員たちが来たら、実際に演奏してみせようと俺たちは準備をした。
「ちょっと緊張してきた…」
「俺も。一回練習する…?」
朝倉はまず、ぷるるるとリップロールを始めた。
「リップロールすると落ち着くんだ?」
「うん、ルーティンみたいな感じ。黒瀬は何かないの?」
「ないけど、俺もやろうかな…」
朝倉の真似をして、リップロールをしてみた。2人で一緒にすると、1人じゃないって気がして、緊張が和らぐ。
「じゃあ一回合わせてみよう!」
「オッケー…!」
俺たちは自由曲でサックスソロもある『マードックからの最後の手紙』の演奏を始めた。
朝倉は、俺の体が原因だろう。息が続かず、フレーズの途中で音が途切れがちになる。一方、朝倉の体もまだマリンバに不慣れで、俺も手探りの状態。ところどころ音を外しながら、それでも必死にサックスへついていく。
不揃いで、決して上手くはないけれど。重なった二つの音は、俺たちの心と同じように、どこか弾むように響いた。
楽しい……!
やっぱり俺、マリンバが好きだ。
入れ替わってから、いや、去年メンバー落ちしてからずっと、楽器を演奏する楽しさを忘れていたのかもしれない。
それをまさか、朝倉の体で思い出すなんて…!
俺が久しぶりのマリンバに感動していると、突然、教室の電気が消えた。
「きゃーーっ!」
「え、なんでぇー?!」
ちょうどその時、他の部員たちがやって来たようだ。明かりが突然消えたことで、教室の外から悲鳴が上がった。
今日はあいにく厚い雲がかかり、月明かりもない。電気が消えたことで、音楽室は真っ暗になってしまった。
「朝倉部長~、暗い中で肝試し的に演奏しようって言う趣向ですか……?」
「じゃあ顧問が来たら一斉に弾いて驚かせちゃおうよ!」
「確かに、面白そう!」
そういった趣向ではなかったのだが、他の部員たちも次々に入って来て暗がりの中、楽器の準備をする。
少し目は慣れてきたが、みんな興奮していて、俺たちの役割が入れ替わっていることに気がつく者はいない。
準備が終わった頃、音楽室の外から足音が聞こえてきた。多分、顧問がやってきたのだ。
「せーの!」
俺の体の朝倉の合図で、演奏が始まる。
五十人の音がひとつに重なり、音楽室に響いた。
やがてサックスのソロが前に出る。その旋律はどこか頼りなく儚げだ。俺のマリンバも完璧ではないけど、必死に音を重ねる。
不器用な演奏だったけれど、今までで一番、みんなの音がひとつになった気がした。
「よかったよね、今…?!」
「うん。息ぴったりだったよね、みんな!」
「息だけね?ちょっと下手でもあったよね?」
「でも、さっきの感じ好き…!」
「うんうん。いけるんじゃない、私たち…!」
演奏が終わると、みんな各々感想を口にし始めた。どうやら全員、手応えを感じていたらしい。
ーー確かに、技術面ではまだまだ。でも、これでいいのかもしれない。
演奏を終えて少しして、顧問が音楽室に飛び込んで来た。
「おい、お前たち急いで合宿所へ戻れ!雷が来るぞ!」
「えーーっ?!」
「隣町の送電線に落ちて大規模停電してるらしい。次は、この辺りに……」
顧問が言い終わるより先に、窓の外に稲光が走った。
そして若干遅れて、雷鳴が轟く。
「きゃーー!」
「急げ!楽器は危ないから置いていくこと…!」
みんな慌てて教室を出て行く。
俺は、その流れに逆らって朝倉を探した。
「黒瀬…!」
「朝倉…っ!」
俺たちは手を取り、2人だけで隣の音楽準備室へ移動する。
そして、顧問が最後に音楽室の鍵を閉めるのを息を潜めて待った。
その間も、雷鳴はどんどん大きくなっていく。
俺たちは、あの日と同じ、窓の前に立った。
「もし、元に戻れなくても、サックスは朝倉に吹いてほしいって、俺、思ってる」
「うん、俺も。俺は、一年前から、いやもっと前から、うちのマリンバは、黒瀬が演奏するべきって思ってた」
「ありがとう。あとごめん。俺ずっと誤解してた。お前がパーカッションを下に見てるって思ってた」
「俺こそごめん。ずっと黒瀬につらい思いさせてた。言葉足らずの部長なのに、支えようって言ってくれて、嬉しかった」
俺たちは矢継ぎ早に感謝の気持ちを伝え合った。
今いるお互いの体に、精一杯の感謝を込めて。
もっと、もっと伝えたいことは沢山ある。
しかし雷の音はより一層、大きくなった。かなり近づいて来ているようだ。
きっともう、時間だ…!
俺と朝倉はぎゅっと抱きしめあった。そして顔を寄せ見つめ合うと、そっと唇を重ねる。
人間の体って不思議だ。
心が一つになると、じんわりと胸が温かくなる。
ーーその瞬間、窓の外にピカっと稲妻が走った。そしてその後すぐ、雷が落ちるズドォンという轟音が響く。
すごい衝撃だった。けれど俺は目を閉じなかった。頭はガンガンするし、視界もぐらぐらと揺れている。
それでも俺は目を閉じずに、朝倉の顔を、じっと見ていた。
朝倉の唇がゆっくり離れて行く、その様子も、ずっと。
そして唇が離れて二人が別々になっても、俺は確かに、朝倉を見ていた。
……ということは。つまり…。
「「元に戻った…!!」」
つ、ついに……!
「朝倉…っ!」
「黒瀬!」
俺たちは抱き合って、もう一度キスした。

