キスして入れ替わったら、美形部長の秘密の本音は俺への「好き」でいっぱいでした

 そのキスの衝撃で、俺は朝倉になってしまった。

 信じられなくて頬を叩いたりつねったりしてみるが、何度やっても俺は『朝倉』のままだ。

 一体、どういうことだ?!何がどうなったら俺が朝倉になるんだ……?!

「うわぁぁぁーっ!か……、かーわいーっ♡♡」

 いつの間にか、『俺』じゃない『俺』が隣に来て、同じように窓ガラスを見ていた。

 かわいい、って、何…?

 ていうか、こいつ…、俺の姿はしているけれど、、誰…?

 俺は朝倉と話していて、朝倉がつまずいて俺に覆い被さった。

 それで俺が朝倉になってるということは。状況から考えて、コイツは…。

 俺はごくりと生唾を飲み込んだ。

「お前、ひょっとして…、朝倉…?」
「そうだけど」

 そうなのかよ~~!ってことは…、これは、つまり…?

「俺たち、体が入れ替わった……?!」
「そ、そんなぁーーっ!」

 俺の姿の朝倉はがくんと膝を打った。

 確かにイケメンのコイツが平凡を絵に描いたような男の俺になるなんて耐えられない屈辱だろう。

「うわぁぁー!!せっかく黒瀬とキスしたと思ったのに、うっかり自分とキスしちゃったぁー!!超~~っ、残念すぎるんだけど!!!!」
「は……?」

 朝倉は膝から崩れ落ちて、酷くショックを受けている。

 俺とキスしたはずが自分とキスしてしまってショックだったって、何……?まさかとは思うけど、俺とキスしたかったとか…?

 いやまさか、あの朝倉に限ってそんなことはないだろう。

 つまりキスがショックだったってこと…?

「あんなの事故だから、キスしたってことにならねーよ。だからあれはファーストキスとかじゃないからっ!事故、天災…!」

 安心しろ、そう言おうと思ったのだが、朝倉は突然立ち上がると、俺に詰め寄った。

「事故だってキスはキスだろ!おい俺、ちゃんと歴史に刻めよっ!」

『おい俺』って、こいつ、俺のこと分かってないのか…?

「俺は、黒瀬だけど…」
「え……?」

 俺の姿の朝倉は、窓と朝倉の姿の俺を交互に見た。

「俺の妄想じゃなくて…、俺が、黒瀬?」
「そうだよ。それで朝倉が、俺になってる」
「まさか、入れ替わった…!?」
「……そうみたいだ」
「えーーーーー?!じゃやっぱ俺、黒瀬とキスした?!いや、俺が黒瀬になって朝倉になった黒瀬とキスしたってこと?!おっしい~~!!」
「何でそれが惜しいわけ?!」

 普段もっと澄ましてて『スン』ってしてる気がするけど…。朝倉ってこんなキャラだったのか?

 俺が尋ねると、俺の姿の朝倉は一瞬固まった。

「……えっと、ちょっと取り乱しちゃって…」
「ちょっとって感じじゃ無かったけど…。えっと、俺も自分だと思ってて、動揺してたってこと?」
「うん。そう…。そう…」
「でも、信じられないけど、俺、黒瀬だよ。入れ替わってる…」
「…いや信じる。実際に俺、朝倉だし」

 そうだ。

 信じられないけど、俺は黒瀬だ。

 俺の正面には確かに俺がいる。そして、俺の瞳には朝倉が映っている。

「どうしよう、これから…」

 不安で俺が出したイケボはちょっと震えていた。

 すると心なしかキリッとした顔の俺の姿の朝倉が、俺の肩に手を添える。

「大丈夫、なんとかなるよ」
「何とかって…」

 この状況、本当に何とかなるのか…?!

 どうするのか、朝倉に尋ねようとすると、廊下を走る足音が聞こえてきた。

「おーい!誰かいるか~!」
「あっ、はい!」

 朝倉が返事をすると、音楽準備室の扉があいた。やって来たのは吹奏楽部の顧問だった。

「お前たち、帰ってなかったのかよ…!今すごい雷と雨で、停電もしてるし歩いて帰るのは無理だぞ!」
「「え……っ?!」」
「まったく、こんな時間までなにやってたんだ?残ってるのお前たちだけだよ…。仕方ないから、車で送ってやる。ほら、行くぞー」

 着いてこいと先生に言われて仕方なく、帰ることにした。

 不自然ではないように俺は朝倉のリュックとサックスケースを背負い、俺のリュックを朝倉に手渡す。

 この後どうするか話せないまま、二人で先生の車に乗り込むと、先生は後部座席の俺たちに振り向いて尋ねた。

「家の住所教えてくれ、ここから近い方はどっちだ?」
「俺です」

 俺の姿の朝倉は間髪容れずに答えた。

 ん…?

 俺はその答えにやや違和感があった。

「あずきの市、新東川一丁目…」

 それ、俺の住所じゃない。朝倉の住所だ。実際、俺の家よりは近いけど…。こいつ、入れ替わったこと忘れてるな……?!

 先生は何の疑いもなく、ナビに住所を入れると走り出した。

 そして15分ほどで目的地に到着する。

「ありがとうございました~!」

 俺の姿の朝倉は、お礼を言うと車を降りようとした。俺は慌てて朝倉を引き止める。

 こいつ、俺の姿で朝倉の家に入れると思っているのか…?!俺だって嫌だけど、朝倉になってるし、今日はお互いの家に帰るしかないだろう。

 なぜか少し急いでいる朝倉を捕まえて座らせると、俺は先生に声をかけた。

「先生、ここ俺の家です」
「え…?でも、さっき…」

 先生は不思議そうな顔をした。

 まずい…。

 お前のせいで、変に思われた…。そう朝倉を睨むと、察したらしく、バツの悪そうな顔で目を伏せる。

「あの、送っていただいてありがとうございました…!」

 先生に不審がられないよう、こっそり朝倉に俺の住所を教えてやらないと…!一旦降りて家に入り、スマートフォンからメッセージを送ろう。

 外は雷雨だ。俺はさっと降りて『朝倉』と表札の出ている家の玄関へ向かって走った。

 しかし、リュックの中のどの辺に鍵を入れているのか聞き忘れた…!雨が強いので探している暇がない。仕方なく、チャイムを押す。

「はーい」

 インターフォンから女性の高い声が聞こえた。母親だろうか…?

 心の準備をする間もなく、がちゃっとドアが開いた。出て来たのは中年の、しかし綺麗な女性だった。

 たぶん、朝倉の母親…?

「あら?玲央じゃない!鍵はどうしたの?」
「今日、忘れちゃって」
「そうだったの。さ、早く入って!」

 俺は全く怪しまれずに家の中に入ることに成功した。

「雷すごかったけど、濡れなかった?」
「うん、吹奏楽部の顧問が送ってくれたから、大丈夫…!」
「そう、よかった。じゃあ着替えて来なさい。夕飯にしましょ」
「うん…」

 着替えて来いといわれたものの、朝倉の部屋がどこかわからない。

 リビングに母親が戻ったのを確認した後、俺は朝倉のリュックを開けスマートフォンを探した。

 スマートフォンはすぐに見つかったので、さっそく電話番号で送信できるメールアプリをタップする。朝倉はSNSをやっていないとかで、部活の連絡はいつもショートメッセージだった。

『今日はこの姿だし、お互いの家にいよう。俺の住所は青葉台333-9』

 送った途端、返信が来た。やっぱり、住所分からなくて困っていたのか…?

『住所は知ってたから大丈夫。黒瀬の家、お母様はいるの?家、入れる?』

 …ん?

 何で俺の住所知ってるんだ…?部活の連絡網持ってたとか…?あと、お母様って、なに…?ひょっとして朝倉っていいとこの子…?朝倉のお母さん、すごい美人だったし、あり得なくもない。

『鍵がリュックの外ポケットに入ってる。俺の部屋は2階の角。朝倉の部屋はどこ?』
『2階の真ん中』

 部屋の場所を聞いたので、玄関横の階段を上り、黒瀬の部屋のドアを開ける。

 そこは見慣れない部屋だ。でも疲れてしまい制服を着たままベッドに倒れ込む。

「ふー…」

 本当に疲れた…。

 一体どうしてこんなことになったんだ?

 本当に俺、完全に朝倉だ。お母さんにもバレないレベルの、完璧な入れ替わり。

 それはそうと……。

 ちょっと待て……?!

「俺、なんで朝倉のスマホ、使えてるんだ…?!」

 俺はさっきメッセージを送ったスマホをつかんでガバッと起き上がった。今時、画面ロックをかけないやつなんていない。実際このスマートフォンを見てみると、きちんと画面ロックがかかっている。

 しかし、画面を覗き込んだ瞬間……!

 マナーモードになっているからか音もなく、笑顔のマークが画面に表示された。

「うわぁーーーー!」

 フェイスアイディーーッ!!

 まるでロックなどかけていないみたいに、画面が開いた。便利ー!超、便利だけど~~!

 入れ替わって、お互いの顔をしている今、ロックの意味をなさない。むしろこれ、超絶危険なシステムじゃねえか……っ!

「あいつもメールしたってことは、これに気が付いた…?」

 俺は、ぞっとした。

 スマートフォンは秘密の倉庫だ。

 しかも昨夜、ちょっとえっちな動画を見てしまった事を思い出した。若い男なんだから、えっちな動画くらい見るだろう。けど、履歴を見られたりしたら…!昨日見ていたのが『淫乱女教師がイジワルに調教!』というタイトルのAVで、なんか俺の性癖がモロバレしそうで、いやだぁーーっ!

 慌てて、俺のスマートフォンを持っている朝倉にメッセージを送る。

『スマホいじるの禁止な!!』
『わかってるって!お前もだぞ!』

 わかってるって、本当か…?

 そんなこと言ってこっそり見て後でニヤニヤしたりしないだろうか。

 俺はすごく不安になった。

 ーーそれなら俺も、朝倉のスマホを見てやろう。それでおあいこのはず。

 さっそく、WEBブラウザを立ち上げようとしたのだが、俺のいつもの場所に、写真アプリがあり誤ってタップしてしまった。

「写真かぁ…」

 写真なんて別に、面白いものはないだろうと思ったのだが……。

「ん……?」

 カメラロールには吹奏楽部の練習風景の写真ではなく動画がたくさん収められていた。しかしその動画はなぜか、パーカッションばかり。

「何で、パーカッションばっかり…?」

 俺は撮られている事を知らなかった。この動画はどこかにスマートフォンを固定して置かれ撮られた、いわば隠し撮りのようだ。

 そう言えばさっき朝倉は『いつもパーカッションの練習を聞いている』と言っていた。それって、練習をそれとなく確認していたということ…?

 何のために……?

 パーカッションの練習風景で埋まるカメラロール…。これは一体…?その理由が気になり、導かれるように画面下にあった『コレクション』というアイコンをタップする。

「え…?!」

 その先には「メモリー」と言う項目があり、『黒瀬奏』とタイトルが付けられていた。

「俺…?!」

 自分の名前のファイルを反射的に開くと、なんだかハッピーな音楽と共に、俺のスライドショーがはじまった。

 演奏が上手くいってにこっとしているところ、逆に失敗して苦虫を嚙み潰したような顔をしているところ、緊張して深呼吸しているところ…。いつのまに撮っていたのか、様々な俺が流れてくる。

「俺って案外表情豊かだな~」

 だから俺になった朝倉は、突然色んなことを言うようになったのか…?

 ……って、考察してる場合じゃないっ!

 なぜならそのメモリーは一つではなかったからだ。

「めっちゃ沢山あるけど…!?」

 よく見たら部活以外にもある。

 修学旅行、文化祭、体育祭。それに学校行事だけじゃない。昼休み、委員会活動、登下校…。

「なんだこの隠し撮りは!?」

 っていうか、朝倉…。あいつ、何でこんなことしてるんだ…?!