キスして入れ替わったら、美形部長の秘密の本音は俺への「好き」でいっぱいでした

 午前中の練習が始まる前に顧問に呼び出されたのだが、音楽準備室に入り、顔を見ただけでいい話でないことを察した。

「昨日、勝手にプールに入ったものがいる…!」

 俺たち2人だけを音楽準備室に呼び出して、それを言うってことは…。

 完全にバレてる~~!

 だから止めようって俺は言ったのに…。

「すみません、俺が朝倉くんを誘いました」
「どちらがというのは問題じゃない。あの日合宿を抜け出したことも反省してなかったってことが問題なんだ!」
「でも先生、本当に朝倉くんは悪くないんです!俺が無理やり中に連れて行きました!」

 朝倉は必死に俺を庇った。しかしこの場合、俺を庇ったようで自分を庇っているよな…?

 とにかく必死な朝倉を、俺も援護射撃する。

「先生、俺、今スランプで。上手く演奏できなくて、悩んでいました。それで黒瀬くんが気晴らしに連れ出してくれたんです。だから、黒瀬くんは悪くありません!」
「朝倉、でもな…」
「抜け出したことも、プールのことも反省してます。でも、あの時はああするしかなくて…」

 あの時は雷を追いかけるしかなかった。プールはやり過ぎたかもしれないが、結果、元に戻るヒントを得た。後から考えたら、どちらも俺たちには必要なことだったのだ。

 俺はすみません、といって頭を下げた。顧問は俺を見てため息をつく。

「……お前達の気持ちはわかった。でも、やっぱり昨日の今日で練習には参加させられない。今日2人は練習はなし。その間、合宿所の掃除をしておくこと!」
「は、はい…!」

 最悪、コンクールに出場させないと言われるかも知れないと思った。だから掃除だけで済んで、ホッとした。

 よかった……。

 顧問にまた掃除という名の謹慎を言い渡され、俺たちは合宿所へ戻った。

 朝倉は校舎から合宿所に戻るまでずっと、がっくりと項垂れていた。

「黒瀬、ごめん…」
「うん…?でもさ、俺も途中から楽しくなっちゃったし。それで元に戻るきっかけがわかった訳だし」

 そう言うと朝倉は、また少し切なそうな顔をする。まだ朝倉は好きな人問題を引きずっているらしい…。

 なんとかしないと…。

 でもその前に、掃除をしなければ…!

「とりあえず、掃除しよう。ピカピカにして、反省してるアピールして午後の練習は出ようぜ!」
「おう…!」

 俺たちは腕まくりして、早速掃除に取り掛かった。
 
「きったね~!」
「結構ほこり凄いな…!」

 うちの学校の合宿所は古くて汚い。前に使った部が掃除をしたはずだが、廊下や床は埃が溜まっている…。

「こんなに汚れてたら雑巾もバケツの水もすぐ汚くなるな…」
「だなー。バケツと雑巾、あと何個か持ってくる!」

 朝倉は俺の体とは思えないほどさっさと動いて、バケツやモップなど掃除道具を用意してくれる。

 朝倉の体で背が高い俺が窓拭き、朝倉が床のモップがけと担当を決め、手分けして掃除に取り掛かることにした。

 俺はまず、はたきで窓枠の埃をたたいていく。

「は…っ、くしゅっ!」
「黒瀬、大丈夫?代わろうか?」
「いや、大丈夫…」

 今朝までの朝倉なら、飛んできてイチャイチャをしかけそうだが。今は優しいけど、どこか距離がある。

 やはり、俺が好きな人とじゃないとできないと言ったことを、朝倉とは出来ないと誤解しているようだ。

「くしゅっ!」

 くしゃみをしながらはたきをかけ終えると、次に雑巾で窓を拭いて行く。朝倉の体は本当に快適だった。窓がすごく拭きやすい。

 何度か雑巾を変えながら、窓をピカピカにした…!

「朝倉、床手伝うよ」
「ありがとう。じゃあ、モップをもう一個持ってくる!」

 朝倉は俺のために掃除用具入れの方へ走って行った。

 それを待つ間、一瞬、手持ち無沙汰になる。

 見ると、使ったはたきが埃でかなり汚れていた。俺は朝倉が戻ってくる間に、バケツの水ではたきを洗うことにした。

 バケツの水で揉み洗いして水を絞る時に、棒の部分がバケツにコツンと当たって音が鳴った。

「ド……?」

 はたきの棒が当たり、鳴った音は低音で「ド」のように聞こえた。

 バケツは3つ用意されていて、そのバケツはたっぷり水が入れてあったので比較的低い音が出たのだ。

 朝倉と入れ替わって以降、マリンバを叩いていなかったから、久しぶりの打楽器の「ド」の音に、心が踊る…。

 俺は隣の二つのバケツを入れ替えて、水を大、中、小の順に並べた。順番に叩くと、「ド、レ、ミ…」のような音が鳴る。

「ドレミ、ドレミ、ソ、ミレドレミド~♪」

 ドレミだけだと、簡単な曲しか演奏できないから『チューリップ』を叩いてみた。ソが無い分は口で歌って補う。

 チューリップを演奏していると、小さい頃、木琴を買ってもらって夢中になったことを思い出した。その後中学で吹奏楽部にはいってから、俺はマリンバを叩くようになった。自分のマレットを買って…。

 思い出したら、目頭が熱くなる。

 俺、やっぱり、マリンバを演奏したい…。

 だってずっと、高校の三年間、マリンバを練習して来たんだから。

「ドレミ、ドレミ、ソミレドレミド~♪」

 チューリップの口笛が聞こえて振り向くと、さっきとは違って楽しそうな顔の朝倉が立っていた。

 その顔を見たら嬉しくなって、俺ももう一度チューリップを叩く。

 一つ音が重なるだけで、胸がワクワクする。

 朝倉の口笛も、楽しげだ。久しぶりにサックスを思い出したのかもしれない。

「朝倉ぁ……!」

 多分、朝倉も俺と同じ気持ちだと思う。きっと、朝倉もサックスが吹きたいと思ってる…!

 そう思った瞬間、俺は朝倉に駆け寄っていた。

 肩に手を置いて、正面から向かい合う。

「朝倉、俺とえっちしよ…!」
「は、はあ…?!くくくく、黒瀬っ!お前、何言ってんだよ!?」
「だから、体液の交換だよ!元に戻るためにはそれが確実だろ!」
「だ、だけど……」
「俺、やっぱりマリンバが叩きたい。どうしても…!」
「黒瀬……」

 朝倉はやんわりと俺の手を外した。

 すごく悲しそうな顔の朝倉と目が合って、さっきの発言を、後悔した。

「ごめん、朝倉…。俺、最低なこと言った」
「いや、俺も悪い。仕方なかったこととは言え、恋人でもないのにキスしたりして…。今まで本当にごめん」
「そ!それは同意だから!朝倉は悪くない!」
「そうだったとしても、黒瀬の言う通り、ああいうことは好きな人としなきゃ、ダメだよな…」

 別に俺、朝倉が好きだし、朝倉も俺が好きだから良いんだよ…?

 でも、SNSを勝手に見ていた前提の内容を、言うわけにはいかない。さっきまではSNSを見てるって、知ってるって言ってやろうと思ってたけど、嫌われると思うと、怖気付いてしまう。

 だって俺、朝倉のこと、好きだから。

 ………。

 ……え、ていうかさ。俺、朝倉のこと……。

 好き……?