キスして入れ替わったら、美形部長の秘密の本音は俺への「好き」でいっぱいでした

 今日は合宿3日目。

 明日は合宿の総仕上げ。市民ホールで外部講師を招いた本格的な練習をする。

 なんとか明日までに戻りたい俺たちは、『おはよう♡』のキスをした。

 キスすると一瞬意識は戻るのだが、唇が離れると、また入れ替わってしまう。完全に元に戻るためには、あの日の『雷』のようなトリガーが必要なのだ。

 それで、いろんなシチュエーションを試そうということになり、『おはよう♡』のキスをした、というわけ。

 ……そういう理屈のはず……!だよな…?!

 そして『おはよう♡』もだめだった俺たちは、別の刺激(トリガー)を求めて朝みんなが起きる前にランニングに出かけた。

「朝、グラウンドでのキスも失敗かぁ…」

 朝倉は失敗した割に嬉しそうだ。失敗を楽しんでる節さえある。

 俺はというと。この状況に不安を覚えていた。

「でも、グラウンドなんかでキスして…、見られたらどうするんだよ」
「運動部はまだ来ない時間だし、他の部員でランニングするやつもいないから大丈夫…。でも心配なら…、こっち来て…!」

 朝倉は俺を引っ張って校庭を出ると、校舎の裏へ向かって行った。そして校舎の壁の前に俺を立たせると、顔の横に手を置く。

「壁ドン♡」
「え……」

 めちゃくちゃ楽しそうに朝倉は背伸びをして、俺にチュッとキスする。

 やっぱり、、楽しんでない…?

 あとこれ、控えめに言って、めちゃくちゃ甘…い。甘すぎて胃もたれしそうなくらい、激甘。空気が、とろけてる…!

「……♡」
「……」

 キスしてる間、元に戻ったかを確認するため薄目を開けたら、朝倉と目が合った。

 朝倉もさっきの空気以上に溶けそうな顔で俺を見ている。

 俺が表情筋を鍛えすぎたのか、朝倉の体にいすぎたのか、朝倉の顔が『好き』って言ってるのが分かった。

 ……ていうか、こんな状態で告白してこないって…、どういうつもり…?!

「ん……っ!(長すぎる…っ)」
「ん……♡(さっきより長くしよ…♡♡)」

 キスが長すぎて朝倉の腕の中でじたばたすると、ぎゅっと抱きしめられて動けなくなる。

 いやだから、どういうつもり…?!

「んんん…!(今日、食事当番だから行かないと!)」

 朝食と昼食は弁当なのだが、インスタント味噌汁のお湯を沸かす係がある。今朝の当番は俺たちだ。早く行かないと…!

「ん……♡(じゃ、最後に…♡)」

 朝倉は最後に軽くちゅっとキスして体を離した。するとあっけなく、体は元に戻ってしまう。

またダメだった…。

 落ち込む俺とは裏腹に、合宿所の食堂に戻る朝倉の足取りは軽やかだ。

 やっぱり、この状況楽しんでるな…?



 合宿所に戻った俺たちは、仕出し屋さんから朝の弁当を受け取り、テーブルに並べた。そして全員分のお湯を沸かし、部員たちが食堂にきてカップみそ汁をセットし終えたら、順番にお湯を注いで回る。結構、重労働……。

 しかも朝倉とのキスで、昨日はろくに眠れなかった。ちょっとふらっとして、俺はお湯を自分の手にかけてしまった。

「あつ……っ!」
「部長…!手、大丈夫ですか…?!」

 周りの部員が心配して声をかけてくれる。朝倉も俺のところへ飛んできて、すぐ台所に連れて行った。

「手、冷やして…!」
「ご、ごめん…!」

朝倉の身体を傷つけてしまった。しかも、楽器を弾く指を…!

 朝倉が用意してくれた氷水に手を入れて、すぐに冷やす。

 応急処置が素早かったのがよかったようで、氷水から手を上げてみると患部は腫れずにすんでいた。

「朝倉の手なのに…。本当ごめん…!」
「そんなこといいよ。もう痛くない?」
「うん、もう痛くない。ありがとう」
「よかった…!腫れたりしてない?」
「うん、ほら…」

 朝倉の前に手を出すと、朝倉は手を握ってちゅ…、とキスした。

 その瞬間…。

 俺は朝倉にキスしていた。

 ーー自分の体に戻ったのだ。

 驚いて手を離すと、今度はもう朝倉の体に戻っていて俺の体の朝倉の手を振り払っていた。

「……今、分かった?」

 俺は信じられなかったけど、朝倉の問いに頷く。

「手にキスしても、元に戻ったよな…?」
「ああ…!もどってた…!」
「必ず『口と口』ってわけじゃないんだ……」

 朝倉はそう言うと、朝倉の体の俺の頬にキスした。しかし、今度は何も起こらない。

「手はよくて、ほっぺたはだめ…。なんでだろ…?」
「あっ、ひょっとして……!」

 朝倉は俺が入っている自分の手を指差した。

「これだよこれ!」
「これ、ささくれ…?」
「そう。ちょっと血が滲んでるだろ!きっと、この体液が接触したからだ…!」
「体液が接触ぅ……?!」

 『体液』なんて聞いただけで、めちゃくちゃ嫌な予感がする…。俺はその先を聞きたくなかったのだが、朝倉は頬を染めながら話す。

「唇はさ、唾液が出てくるところだろ…?けど、ほっぺたは何もない。だから何も起こらないんだ…!」
「へー、そうなんだ」
「だから、もっと体液が体の中で触れ合えば…」

 『体液』と聞いた時からなんだか嫌な予感がしていたのだが……。朝倉の話はどんどんきな臭くなってきた。

「体液が触れ合って、それと同時に、雷みたいな刺激を実現する方法…、あるんだけど…」
「ヘー、ソウナンダ…」
「なあ、黒瀬…、聞きたい…?」
「聞きたくないっ!」
「そんなに嫌がるなんて、何想像してんの?」
「何って…」

 ナニだろ…?!

「朝倉、俺たちはまだ高3だから。そういうことは18歳の、大人になってからだろ…!」
「黒瀬はもう18だろ」
「だけどだめ!ていうかなんで誕生日来たって知ってんだ?!そう言えば謎に住所とかも知ってたよな…?!とにかくだめっ!」

 俺が拒絶すると、朝倉は口の端を持ち上げてにやっと笑った。

「え、黒瀬。そんな嫌がって…。どんなこと想像してんの…?」
「お前が考えてることだよ!ていうか、体液交換すると魔力も交換されるとか、異世界の魔力がなじむとか…、webのエロ小説読みすぎっ!あれは現実では起こらないことなんだっ!」
「黒瀬、お前…。普段何読んでんの?URL送ってくれよ?」
「とにかくだめ!!そういうことは、付き合ってる好き同士じゃないとやっちゃだめなことだから!」

 だからちゃんと、告白して付き合ってからじゃないと、ダメなんだ…!

「付き合ってる、好き同士…」

 朝倉は俺が言った単語を復唱すると、あからさまにテンションを下げた。

 え?なんで?そんなに変なこと言ってないけど…。

「黒瀬…。なんか誤解してるみたいだけど…。そんな、黒瀬が心配するようなことはしないから。じゃあ、怪我もないみたいだし、そろそろ戻ろうぜ」

 さっきまで悪ふざけしていたのに、朝倉は急に食堂に戻ろうと言い出した。
 
 ……何なんだよ、その態度!別に、好きっていえばいいだけじゃね…?なんであんな激甘な雰囲気なのに、頑なに告白しないかな…!

「ちょっと俺、トイレ行ってくる」
「そ、そう…」

 しかも朝倉は朝食も食べずに、食堂を出て行ってしまった。

 そしてすぐ、俺の持っているスマートフォンにいつものSNSのログイン通知がきた。
 
 朝倉のやつ、トイレなんて嘘ついて、何を投稿してるんだ…?!


『好きな人とじゃないと出来ないって、拒否された。そりゃそうだよな…』

 さっきのこと…?

 ていうか、体液交換なんて好きかつお付き合いしてなかったらしちゃだめだろーが!それに俺達は男同士で、どうするのかわからないし怖いだろ!

 落ち込むポイント間違ってるんだけど…!?

『でも、もし。もし、俺が黒瀬に……。そんなことしたら雷どころじゃない。隕石衝突級のインパクトで俺は確実に死ぬ』

 勝手に死ぬな……!

 あと「俺が黒瀬に…」って何…?

『ただ、今俺は黒瀬だ。だから俺が、俺に黒瀬が慣れてもらう、準備をすることも出来る。その過程で俺も一皮剥けて、隕石に耐えられる体になる可能性もある』

 だから朝倉、お前何するつもり…!?めちゃくちゃ怖いんですけど…!!!!

『でもやっぱり、そんなことできない。黒瀬は好きな人としかできないんだから』

 いろいろ言っていたが結局、朝倉は諦めたらしい。

 あんなに俺を怖がらせて、諦めるって、どういうこと…?

「……しょうがねえなぁ…、もう…!」

こうなったら、もう俺から言うしかない……!

 俺は勢いよく、食堂を飛び出した。