キスして入れ替わったら、美形部長の秘密の本音は俺への「好き」でいっぱいでした

 期末テストが終わっても、俺たちは元に戻れず、あっという間に夏休みに突入した。

 吹奏楽部は7月末に行われる地区大会に備えて、夏休みに入ってすぐ合宿を行うことになっている。

 学校の合宿所に三泊四日。四日目は外部講師を招き、市民ホールで本格的な練習をする予定だ。

「なあ、大丈夫…?」
「大丈夫…!」

虚勢を張ってみたが、俺はめちゃくちゃ緊張していた。

 朝集合したあと部長がみんなに合宿のスケジュールを説明して練習を開始する。説明自体は難しくない。けど、部員60人と顧問が見ている中で話すというのは普段目立ったことをしない俺にとって、ハードルが高いのだ。

 部員達の前に立った俺は、朝倉に心配されるくらいガチガチだった。

でも見た目は朝倉なんだ!話す内容も朝倉が用意してくれたものを読むだけ…!落ち着け、俺…!

 咳払いして、手元の紙に視線を落とす。

「えー。今日から三日間のスケジュールを説明します」

 緊張していて、出だしの声が裏返った。それがバレないように、早口で予定を読み上げる。

「午前中は一回通したあと、パート練習をします。昼食を挟んで、午後は全体練習。夕食後には個人練習の時間を取ります。これは自由参加です。それと、最終日は午前中から、外部講師を招いてホール練習の予定です」

 顔を上げて部員の様子を伺うと、みんな黙ってメモをとっている。特に疑われる様子はないので、ホッとした。

 もう一度、紙に視線を落として朝倉が用意した挨拶文の続きを読む。

「今回の合宿はコンクールに向けての総仕上げになります。本番は50人編成ですけど、出る人も、出ない人も、全員の力が必要です。みんなで合宿を乗り越えて、全員で、金賞とりましょう…!」

 これって、朝倉は去年の俺に向けて言ってくれたんだろうか…?

 俺が言葉に詰まると、俺の姿の朝倉が隣に来てフォローしてくれた。

「えーと、そう言うわけで、三日間……がんばりましょう!よろしくお願いします!」

 二人で一緒に頭を下げると、みんなが拍手してくれた。

 ついに高校最後のコンクールに向けて、夏合宿が始まった…!


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 俺も、音楽の素養はある。それに体は朝倉のものだ。練習を重ねるうちにコツを掴み、それなりにサックスを吹けるようになっていった。

 しかし、あくまで『それなりに』だ。

 体は脳の指令で動く。その司令官が、俺なのだから…。

「ねえ、いま音合ってた?」
「あ、やっぱり変だったよね…?」
「やっぱり…!」

木管楽器の部員たちが顔を見合わせて疑問を口にする。俺はそれを聞いて固まった。

 音が合わない。それは分かる。でも、どう改善したらいいのか、俺には分からない。木管楽器のリーダーの朝倉なら、こんな時どうするのだろうか?

「えっと……」

 全員の視線が俺に集まる。まずい…!こんな時どうするのか、聞いておくんだった…!

 俺は部長でサックス奏者の朝倉玲央じゃない。マリンバ担当の黒瀬奏なんだ。

 サックスの音が合ってるかなんて、細かく判断できるわけがない。

「じゃ、もう一回、吹いてみよう…!」

 とりあえずもう一度、同じところを演奏することにした。そして、気がついてしまった。

 ……これ、俺が原因だ!!やっぱり俺、馬脚を表しちゃったぁー!!

 動揺していると、いつのまにか隣に来ていた俺の姿の朝倉が口を開く。

「たぶん、立ち上がりじゃない?」
「え?」
「音程じゃなくて、最初の音の立ち上がりが遅い。だから合奏した時に違和感が出てるんだと思う」

 さすが、木管楽器のリーダー兼部長だ。朝倉は簡単だけど的確にアドバイスをくれる。朝倉は今、パーカッションの練習をしていたはずだが。聞いていたのか……?

「もう一回、ポイント絞って最初の一小節だけ、合わせてみよう」

 困っていたら朝倉はやんわりと提案してくれた。俺と部員たちは顔を見合わせ、もう一度演奏する。

 朝倉のアドバイスに従い、立ち上がりを意識する。すると、今度はさっきよりも音が揃った。俺は安堵して、小さく息を吐く。

 あ、あぶねぇ……!

 部長って、自分の演奏だけしてればいい、ってわけじゃないんだ。みんなの演奏を聴いて課題を見つけて、それでどうするか、決めなきゃいけない。

 だから朝倉は動画を撮ったり、パーカッションの俺のことも見ていたんだ。

 それに比べて俺は…。俺も一応、パーカッションのリーダーだけど、自分のことばかりだった気がする。朝倉がパーカッションを下に見てるって不満ばかりいって、吹奏楽部全体のことなんて考えていなかった。

「黒瀬っ!先生は感動したぞ…!」

今まで別のパート練習を見ていたはずの顧問がやってきて、俺の姿の朝倉の肩をばんっと叩いた。

「不調の朝倉を支えて、偉いぞ!黒瀬…っ!」

うわ、この人…。俺のこと不調って言い切ったよ。いや、確かにその通りなんだけど。フツーみんなの前で教師が言うか?!

 先日の朝倉の話といい…。悪気はないんだろうけど口軽いな、この人…。

「黒瀬、次はパーカッションを合わせてみろ!」
「はい!」

俺の姿の朝倉は短く返事をするとマリンバの前に立った。そして他の担当と視線を交わし、演奏を始める。

 朝倉も元々音楽のセンスはある。一緒に練習したこともあって、今はそつなく演奏をこなしている。

 まあ、俺の方が上手いけど…っ!

 朝倉の演奏は問題なかったはずだが、パーカッションパートの練習を聞いた顧問は少し難しい顔をした。

「シンバルが遅れてるな…」

 ほんの少しだが、入りのタイミングがズレている。これは俺も以前から気付いていて、修正しようと思っていたポイントだった。

 何回目かの練習のあと、顧問が口を開く。

「黒瀬…、ちょっと!」

少し離れたところに俺の姿の朝倉を呼びつけ、顧問は何か話している。話の最後に、朝倉は首を横に振った。

 話を終えると朝倉はパーカッションパートの練習に戻り、笑顔で練習を再開した。

「おい、朝倉~」

その場を離れた朝倉の代わりに、顧問は俺を呼んだ。

「はい…!」
「課題曲のことなんだけど。パーカッションはシンバルを黒瀬に兼任させたらどうかな?」
「え……?!」

 コンクールでは課題曲と自由曲、二曲演奏する。自由曲はマリンバも兼任してるティンパニも忙しい曲だからシンバルを追加するのは難しいが、課題曲は確かに、できなくもない。

「今年は金賞を狙えるメンバーだから、攻めたいんだ。黒瀬には断られたけど、朝倉はどう思う…?」

朝倉は、断ったのか。

 俺は……。

「黒瀬くんが断ったなら、その判断を尊重します。確かにタイミングは遅れてるけどリズムは悪くないから、重点的に練習すれば…」
「そうか…」

 顧問は部長の『朝倉』が言ったことで納得したようだ。

 朝倉は俺の体だからか、優しそうな顔でシンバルの後輩を励ましている。

 シンバル担当の後輩も顧問の指摘に泣きそうになりながら、朝倉に励まされて一生懸命練習している。

 先輩に優しく励まされて頑張る後輩って…。なんかこれ、恋が始まっちゃいそうじゃないか…?

 朝倉が女子に人気だったのって、ひょっとして、こういうところ……?