夢見る乙女は狼の守護のもとに 〜守られて愛されて一国を支える姫になる物語〜

 狼弦の祈りは通じなかった。

 小春はリビングやお風呂場などを探し回って、狼弦の部屋の前に来た。そして、ついに部屋の扉は開けられてしまう。

 何で今なんだよ・・・

 狼弦は心の中でつぶやく。逃げても隠れてもきっと状況は悪化する。それなら・・・と思って良い姿勢で小春を出迎えた。

 小春の反応は案の定というか・・・もう絵にかいた通り驚いて自室に戻った。そしてトキ様に連絡している。

 隣の部屋にいる小春の会話、物音がヤマトオオカミになったことで聞こえる。聞く気はないが聞こえる。何とも申し訳ない気持ちになる。

 そして、より、小春の気持ちが壁を通して伝わってくる。

 焦り、とまどい、不安、心配・・・

 小春自身へ、そして狼弦へ。

 しばらくして小春は狼弦の部屋に来た。瞑想をしたからか落ち着いていた。たぶん大丈夫だろうと思ってドアの前で小春を出迎えたら腰を抜かしてしまった。

 小春、ごめん・・・そんなに驚かなくても・・・

「狼弦・・・?」

 小春に尋ねられた。小春の言葉が分かる。

 狼弦は挨拶をした。良くわかないけど、鼻で小春のおでこをツンとする。これが今の挨拶。

「狼弦なんだね」

 小春に左頬あたりをなでられる。安心する。

 小春を何が何でも守りたくなる感情が湧いてくる。今までにない不思議な気持ちだ。

「キレイ・・・」

 小春はモフモフを繰り返す。

 それにしてもちょっと撫ですぎではないか?

 狼弦は小春に冷たい視線を向ける。顔を左右にブルブルと振りたくなる。

「あ、ごめん。つい、モフモフが気持ちよくて」

 狼弦の視線に気が付いて小春は急いで謝る。

『噛みついた方が良かったか?まあ、噛みついたら後が大変か』

 狼弦は心の中でぼやく。

「狼弦、私の言葉が分かるの?」

 狼弦は小春にたずねられる。

 ヤマトオオカミになった狼弦は小さくうなずく。指輪はトキの言った通り機能しているようだ。小春の言葉も気持ちも伝わる。

「あのね、狼弦もこの状況、理解できないと思うんだ。さっき、おばあちゃんから話は聞いて理解しているけど、飲みこめているかと言われたら自信ない」

 小春はぽつぽつと狼弦に話し始める。

 夢紡(ゆめつむぎ)の御力(みちから)は新月の時に弱まること、小春はもともと力が弱いこと。小春と狼弦は契約によってこのような状況になった可能性があること。

 小春はうつむいている。泣いているようだ。

 悲しい、悔しい・・・小春の感情が狼弦に流れてくる。

 狼弦は小春の頭を前足でポンポンした。

『気にするな』

 と。

「狼弦・・・」

 小春の目に涙が浮かぶ。

「ありがとう!」

 狼弦に小春が抱き着いた。

 驚いた。

「あったかい~、モフモフだ」

 小春は毛皮に顔をうずめた。

「少しだけ・・・」

 小春は狼弦のモフモフに癒されながら泣いた。
 
 小春が泣くと、悲しい。何としてあげたい気持ちになる。

 これが月影の血なのか。

 同時にヤマトオオカミになっていなければ小春を抱きしめてしまったかもしれない。今はこの状況で良かったのかもしれない。