夢見る乙女は狼の守護のもとに 〜守られて愛されて一国を支える姫になる物語〜

 時間を少しさかのぼって・・・4月1日、夜。

 狼弦はいつも通り筋トレをしたり、お風呂に入ったりして過ごしていた。異変はその時からあったかもしれない。

 筋トレをしていた時、いつもより体の中が熱くなっていた。春になって暖かくなっているから熱も発生しやすいと思っていつも通り筋トレをした。

 シャワーの温度はいつもより1度下げて、体の熱を冷ました。

 それでも体の中の熱は落ち着かない。さっきよりも熱さを増しているような・・・そんな気がする。

 風邪とは違う、寒気はない。大量の汗が出るわけでもない。ただ体の中から熱い。

 とりあえず、自室へ戻る。

 体の中からわき上がる熱が、だんだんと内臓を燃やしているような感覚になってくる。その熱は狼弦の四肢にも拡がっていく。

「・・・っ」

 苦しい・・・体が熱い・・・

 そう思いながらベッドに横たわる。

 ・・・はぁ・・・はぁ

 呼吸が苦しい。

 狼弦は今まで辛い訓練に耐えてきた。すべては小春を守るため、そして自分も守るために。

 そんな狼弦が苦しいと思うくらいだからよっぽどなのだろう。

「・・・うぅ」

 苦しさにどれくらいの時間耐えたのだろう。狼弦の体感では10分くらいだろうか。

 視界が変わった。

 直立二足歩行ができない。四肢を地面に着けている方が歩きやすいし、動きやすい。

 183センチの長身から日常を見ていたはずなのに、今は子供の目線くらいだろうか。ものすごく低い。

 それに一部の感覚がすごく過敏になっている気がする。匂いとか音とか。隣にいる小春の様子が同室にいるんじゃないかというくらい分かる。

 何かがおかしい。

 狼弦は姿見の前に行く。

「・・・」

 言葉は出なかった。いや、出せなかった。

 一匹のヤマトオオカミがそこにいた。

 一時的な先祖返りの話は父親の月影狼峰(ろうほう)から聞いていた。新月の付近でヤマトオオカミになる先祖がいたということも、狼弦がその可能性があることも。

 でも、今まで一度も先祖返りは無かった。

 狼弦の中で「これからも先祖返りはないだろう」という油断があった。

 環境は変わっていた。小春の警護に着くことになった。小春と契約を交わした。そして、明日が初めての新月だった。

『油断した・・・明日の朝には小春にバレてしまう』

 狼弦は何とかこの状況を乗り切ることを考えた。考えたが、何も浮かばなかった。

 朝、狼弦が起きてこなければ小春は心配して狼弦の部屋に来る。隠れることはできるが、姿が見えなければ余計に心配される。

 そうこうしているうちに隣の部屋からの足音が自分の部屋の前で止まる。

 小春だ。

 トントン

 ドアがノックされる。返事はできない。このまま小春が部屋に戻ることを狼弦は祈るしかなかった。