夢見る乙女は狼の守護のもとに 〜守られて愛されて一国を支える姫になる物語〜

「狼弦、とりあえず、座ろっか」

 小春はソファに座る。

 狼弦がゆっくりと、気乗りしない感じで三人掛けのソファの反対側の隅に腰をおろす。

 物理的な距離が心の距離を表現しているように感じる。

 部屋の中は緊張した雰囲気に満たされている。

「狼弦、ごめんなさい!」

 小春は勢いよく狼弦に頭を下げる。

「小春様、頭を上げてください」

 狼弦は「小春様」と小春を呼んだ。

 小春と狼弦の関係が振り出しに戻っているような感じがした。

 切ない。

「私の力のコントロールがうまくでいないことで迷惑かけて、本当にごめんなさい。力が弱いことは日常生活には影響しないからラッキーって思ってた。でも、こんなことが起きるなんて・・・」

 小春は下を向いたまま狼弦に謝り、今までのことを悔やんだ。悔やんでもどうしようもないところではあるが、やっぱり悔やんでしまう。

 トキから自力で夢紡(ゆめつむぎ)の御力(みちから)を強くすることは難しいと聞いたことがある。持って生まれた素質らしい。

 人為的にどうこうできる力ではないということだ。

 今回、自分の夢に干渉するという指導は何かしらのコントロールの話と思われる。

「小春様・・・」

 狼弦は小春の両肩を両手で包み込み、小春の姿勢を戻した。

 まっすぐな目で小春を見る。

 近くで見る狼弦の虹彩は黒よりの茶色だった。そして、その虹彩には銀色がちりばめられていた。

 前に近くで見たときには気が付かなかった。

「自分も謝らないといけないんです。今だけ、小春様とお呼びすることをお許しください」

 真面目な狼弦の言葉に、小春はただ黙ってうなずいた。

「すべてを今、お話しすることはできませんが・・・」

 そう、前置きして狼弦は話し始めた。

 月影の一族からは昔から今回の狼弦のように新月の付近で一時的な先祖返りをする者がいた。それは虹彩に銀色がちりばめられている者だけが起きると言われていた。

 狼弦はそこに当てはまっていたが、小さい頃から一時的な先祖返りが起きなかった。

 理由は不明だが、それはそれでと両親を含め周囲の月影家の大人たちは狼弦を見守っていた。今回、小春と契約をしたことで一時的な先祖返りが起きた。

 なぜそうなったのかは狼弦も分からないとのことだ。

 契約が影響しているのか、いないのか・・・狼弦にも分からないらしい。

 何か重要なことが抜けているような気がするが、「すべてを話すことはできない」と言われているので小春は突っ込めない。

「トキ様の言う通り、小春様の力の影響なのか・・・別の理由があるのか・・・」

 狼弦は話をしている今は小春をまっすぐ見ていた。

「こういう状況になりうる可能性を持っていたにも関わらず、小春様にお伝えしていなかったことは自分の落ち度です。申し訳ございません」

 狼弦はソファから立ち上がり、小春に90度のお辞儀をした。

「いや、狼弦、頭上げ・・・て・・・」

 どこかで聞いたセリフだった。さっき、小春が狼弦に言われたものだ。

「私も狼弦と同じこと言ってる」

 小春は小さな笑いが出てきてしまった。元の姿勢に戻った狼弦も弱々しいが笑っている。

 二人の笑い声はリビングの中を春らしい暖かい空気に変えていく。