夢見る乙女は狼の守護のもとに 〜守られて愛されて一国を支える姫になる物語〜

「小春、先祖返りしている狼弦は指輪を着けているはずだからよく見てごらん。あの指輪はあんたと狼弦をつなげている。ヤマトオオカミになっても狼弦とは気持ちが通じるから大丈夫」

 指輪・・・ヤマトオオカミが着けていたか思い出せない。でも、小春が部屋のドアを開けた瞬間に威嚇はされなかったのは確かだった。

「小春、今、自分の部屋にいるのかい?隣の部屋へ行ってごらん。ヤマトオオカミになっても狼弦はちゃんと理性を保っているから、大丈夫」

「え・・・でも・・・」

「ということで、私は今から友達とカラオケだから!」

 プツっ

 トキとの電話が切れた。というか、切られた。

「え、言うことだけ言って、切ったし・・・」

 小春はスマホを持ったまま固まる。

 孫の一大事より友達とのカラオケって・・・トキの軽さに呆然とする。

 ベッドに上半身を横たわって考える。

「月影家はヤマトオオカミから生まれた一族?私の力が弱まったことで・・・?
 もうよく分からない・・・」

 小春は天井を見つめてしばらく考える。

 考えても同じことがぐるぐると頭の中を回る。

 スマホで5分のタイマーをセットし、瞑想を始める。

 何か考えが浮かんでもそれを横に置く。頭の中を空っぽに。思考がクリアになっていく。

 ピピピっ

 5分経過した。

「よしっ」

 小春は気合を入れて立ち上がる。ヤマトオオカミになった狼弦と会うために。

 再び狼弦の部屋の前に行く。

「狼弦、小春だよ。部屋、入るね」

 声をかけて、ゆっくりとドアを開く。

「きゃーっ」

 ドアを開けたすぐのところにヤマトオオカミがいたのだ。それも、とても良い姿勢で座っていた。

 小春は腰を抜かしてその場に座り込む。思ったより大きい。動けない。

 座り込んだ小春の顔よりも、座っているヤマトオオカミの顔の方が高い位置にある。

 少し見下ろされている。

 狼弦だとトキに言われていてもやっぱり怖い。肉食動物独特の骨格を目の前にして冷静にいる方が難しい。

 ヤマトオオカミは一歩、座り込んだ小春に近づいてくる。
 
 小春は指先すら動けない。怖くて固まっている。

 ヤマトオオカミは鼻で小春のおでこをチョンとした。

 小春は間近でヤマトオオカミを見る。

 左耳に契約の指輪がピアスのように光っている。

「狼弦・・・?」
 
 ヤマトオオカミはもう一回、小春のおでこを鼻でチョンとした。

『そうだよ』

 と言っているようだった。

「狼弦なんだね」

 小春は右手をヤマトオオカミの左頬あたりをなでる。

 モフモフしている。毛もツヤツヤだ。

「キレイ・・・」

 そしてモフモフを繰り返す。

 ヤマトオオカミが冷たい視線を小春に向ける。

「あ、ごめん。つい、モフモフが気持ちよくて」

 急いで謝る。

 いや~噛みつかれなくて良かった。

 小春は心の中でほっとする。

 そして、ゆっくり深呼吸して気持ちを落ち着ける。