夢見る乙女は狼の守護のもとに 〜守られて愛されて一国を支える姫になる物語〜

 小春は急いで自分の部屋に戻った。

 ドアを閉める。鼓動がうるさい。

 耳元でずっとドキドキと音がする。

「なんか・・・いた・・・」

 先ほど見た光景を落ち着いてもう一度思い出してみる。

 やっぱり狼がいた。

 もう一度、思い出してみる。

 ヤマトオオカミだった。

「いやいやいや、ここ帝都だし。ヤマトオオカミは絶滅したって・・・」

 小春が生まれる何十年も前に絶滅したヤマトオオカミ。今は博物館にはく製があるくらい。
 
 小学生の頃に旧都の博物館で見たことがあった。

 もちろんはく製なので毛並みはきっと生きている時より悪いだろうし、目の光も違ったと思う。

 でもどうして、今、部屋の中に?窓から?

「あ、もしかして・・・狼弦、ヤマトオオカミに食べられた?」

 部屋に狼弦の姿は見えなかった。その代わりヤマトオオカミがいたのだ。記憶が間違ってなければ。

 緊急事態だ。

 でもどうしたら良いか分からない。

 小春は急いでトキへ電話した。

「もしもし、おばあちゃん!大変なの!狼弦がヤマトオオカミに食べられたかも!」

 小春はトキへ勢いよく事情を伝えた。

「ヤマトオオカミ?あぁ。
 小春、狼弦の屍(しかばね)は見たかい?」

 トキはこんな時になんてことを言うのだろう。小春は先ほど見た狼弦の部屋を思い出してみる。

「屍?死体のこと?見てないけど、部屋には狼弦の姿が無くて、ヤマトオオカミがいたの」

 何度思い出しても、部屋に狼弦の姿はなかった。ヤマトオオカミだけがいた。

「小春、落ち着いて聞きな。そのヤマトオオカミは狼弦だよ」

「え!?何言ってるのおばあちゃん、狼弦は人間だよ」

「知ってる」

「じゃあ、あのヤマトオオカミが狼弦を食べちゃったんじゃ・・・」

 トキの説明を小春は理解できなかった。

 ヤマトオオカミは狼弦?

 狼弦は人間でヤマトオオカミではない。

「小春、明日は新月だね。夢紡(ゆめつむぎ)の御力(みちから)が弱まるときと言う話は覚えているかい?」

「あ・・・」

 小春は旧都にトキが力の使い方を教えに来た時の話を思い出した。

 新月は夢紡(ゆめつむぎ)の御力(みちから)が弱まるとき。悪い夢を視たり、寝つきが悪くなったり・・・人によって現れ方は違う。

 小春はもともと力が弱いこともあって、そこまで影響を受けたことが無かった。

「小春と狼弦は契約の指輪をつけているね。小春の力が弱まるタイミングで狼弦は何かしらの影響を受けてヤマトオオカミになった可能性がある」

「私の力が弱まって・・・?」

「あくまで可能性の話だよ」

「うーん、そこは分かったけど・・・何でヤマトオオカミ?」

 小春はだんだんこの理解できない状況が呑み込めてきた。でも、狼弦がなぜヤマトオオカミになっているのかだけは分からない。

「淡雪様を守っていた一族が月影家という話はしたね」

「うん」

「月影家はもともとヤマトオオカミから生まれた一族と言われている。

 時々、月影家の者が一時的な先祖返りでヤマトオオカミになることがあるらしい。狼弦の前に先祖返りしたのはもう百年くらい前だったみたいだけどね」

 トキが淡々と話す。

 つまり、今、狼弦は先祖返り中ということになる。