夢見る乙女は狼の守護のもとに 〜守られて愛されて一国を支える姫になる物語〜

「いろいろあった1日だった〜」

 小春は自室のベッドに横たわる。

 心と翼にカフェで会って、2人を見送ってからカフェの外で狼弦と合流した。

 小春と狼弦は今日の夕食何にするか話しながら帰り、一息つく。夕食を食べて、お風呂に入って、今である。

 時計の針は20時45分を指している。

 狼弦は同じ18歳。初めて会った時から大人びていて、不思議な雰囲気を持っていた。

―木花家の子女を守るために育てられた―

 最初に狼弦の意志はなかったかもしれない。後に「任務を全うしたい」という気持ちが出てきたと想像する。

 小春は物心がついたころから夢幻(むげん)の郷(さと)に住み、外に出るときは公安警察に守られていた。もちろん、この状態も普通かどうかと言われたら普通じゃないと思う。

 それでも小春には自分の将来を決める選択肢があったし、これからもある。

 でも、狼弦にはそれがなかったし、きっとこれからも同じだろう。狼弦は今の仕事を誇らしく思っているみたいだ。

 小春は何か引っかかる。

 モヤモヤする・・・

 そう思いながらベッドの上でゴロゴロしてみる。

「もしかして、私、狼弦のことかわいそうって思っていた?」

 小春の中でモヤモヤの原因に気が付いた。

 ゴロゴロをやめて、天井を見つめる。

 ずっと午前中からかみ合わないと思っていた。なんでかみ合わないのか。小春の気持ちと狼弦の気持ち・・・根本的な何かが違った。

 まっすぐな目で狼弦は小春に話してくれた。まだルームシェアを初めて2週間。お互いを十分には知らないにもかかわらず。

 狼弦のあの目とあの声は嘘偽りないものだった。

 何であの時、気が付かなかったのだろう。

「私の中に狼弦はかわいそうってフィルターがあったのかも・・・狼弦に謝らないと」

 小春はベッドから起き上がって、狼弦の部屋の前に行った。

 ルームシェア初日にちらっと見せてもらった狼弦の部屋。狼弦の好みだろうか?黒や濃紺などの色でシックにまとまっていた。

 今の時間はきっと筋トレをしている。筋トレをしてお風呂に入って寝ている。

 何となくルーティーンが分かってきた。

 ルームシェアしている、小春を守ってくれている狼弦とは言え、異性の部屋。

 緊張する。どうしよう、やっぱり明日?いやいや、今日じゃないと。

  トントン

 思い切ってドアをノックする。

 返事がない。

「あれ?狼弦いない?」

 部屋にいるような気配はする。

 念のためリビング、お風呂、トイレなど確認してみる。もちろんお風呂とトイレは扉をノックして、返事はない。

「やっぱり部屋だな」

 小春は狼弦の部屋の前に再び立つ。

「狼弦、起きてる?」

 ノックしながら声をかける。

「もしかして倒れてる?狼弦?」

 やはり返事はない。

 コトンっ

 何かが落ちる音が狼弦の部屋から聞こえた。

「やっぱりいるんじゃん、ドア開けるよ」

 小春は狼弦の部屋のドアを開けた。

「え・・・」

 部屋には狼弦の姿は見えなかった。その変わり、部屋の隅、カーテンの下、ベッドの横には狼がいた。

 小春が小さなころ、図鑑でしか見たことがないシルバーの毛並みに薄い茶色が混ざった毛並み、宝石のようにキラキラした黒い瞳。

 狼と目が合った小春は狼弦の部屋のドアを静かに閉めた。