夢見る乙女は狼の守護のもとに 〜守られて愛されて一国を支える姫になる物語〜

 狼弦は一口、お茶を飲んで喉を潤す。

 コトッ

 湯呑をテーブルに置く音がリビングに響く。

 帝都の中心部にあるマンションは防音がしっかりしている。外の喧騒からは隔離されている。

 静かな時が部屋に広がる。

「まずね、自分は今の仕事をしていることについて迷いはないんだ。その気持ちだけは、小春、分かってほしい」

 狼弦は小春の方を体ごと向けて話を始めた。

 狼弦の声は今まで聞いたことがないトーン。低くもなく、高くもない。

 小春の耳にすんなりと入る音。

 これが狼弦の「本当の声」なんだろう。
 
「俺の給料はさっき小春も言ってた通り、雇い主のトキ様から出ている。常盤大学の学費もトキ様から出ている。小春と同じ大学に進学することがトキ様からの学費援助の条件だったんだ」

「・・・驚いたけど、あのおばあちゃんなら言いそう」

「それぞれ違う大学だと俺はろくに仕事ができない。これからの生活は仕事ができて、学問にも専念できる。ありがたい環境なんだ」

 仕事をしながら、大学で勉強をする。普通なら大変と思う環境をありがたい環境と言ってしまえる狼弦がすごい。

 税理士の科目をいくつか取得している。英語の実用試験も大学の授業が免除になるくらい良い点数というと、帰国子女レベルだ。

 海外の大学に進学だって選択肢に入るくらいだろう。

 狼弦の話を聞いた小春は考え込んでしまう。

 自分の存在が狼弦の人生を縛ってしまうような気がしてならない。

「小春」

 気が付いたら狼弦はソファの隣に来ていた。

「自分の存在について疑問に思っていない?」

 小春の心臓はドキッとした。考えていることを狼弦に見透かされているようだった。

「なんで分かったの?」

「顔に書いてある」

 まだルームシェアして2週間弱。それなのに狼弦は小春の考えていることがバレている。

 小春は狼弦が考えていることが分からないのに・・・

「木花家の女性を守れるのは月影家だってトキ様からお話があったのは覚えてるよね?他の人にはできないことなんだ。俺はこの環境を光栄に思っているんだ」

 光栄?なぜ?狼弦の言っている意味が全く解らない。

 小春は首をかしげて狼弦を見る。

 狼弦はまっすぐな目で小春を見ている。

「夢紡(ゆめつむぎ)の御力(みちから)はこの国を何度も救ってきている。でも、多くの国民はその存在を知らない。
 それを知ることができて、守ることができる・・・つまりそれってこの大和国を守っているみたいな・・・カッコいいじゃん」

 狼弦は最後は少年のような人懐っこい笑顔を見せた。

 狼弦の声は話し始めたときと変わらない。まっすぐな声だった。

 確かに夢紡の姫たちは多くの国難を救ってきた。

 大和国は建国から2000年以上になる。

 その半分以上の時間、夢紡の姫たちが連綿とつないできた帝との契約。

 そんなふうに言われたら小春は理解するしかない。そして、そこまで考えている狼弦に感謝しかなかった。

「今の狼弦の気持ちは理解した。もし、今後、狼弦のやりたいことができたら教えて。私、協力するから!」

 今度は小春がまっすぐな目で狼弦に言った。

 狼弦と目が合う。少し驚いてる?

 あれ?なんか勢いで言ったら顔が近いような・・・30センチもないような・・・

「あ、ごめ・・・昼ごはん作る」

 小春は急いでキッチンに向かった。

 小春は慌てて立ち上がり、キッチンへ向かった。

 心臓がドキドキしている。小春はこのドキドキを、今は緑茶のカフェインのせいにした。