夢見る乙女は狼の守護のもとに 〜守られて愛されて一国を支える姫になる物語〜

 木花小春(このはなこはる)は高校3年生。

 2月下旬、志望校合格の通知が届き、受験が終わった安心感と新しい学生生活への期待に胸を膨らませていた。

 旧都からは北に車で約2時間。

 海と山に囲まれた自然の要塞の中に生まれてから18年住み続けている。木花家は夢紡(ゆめつむぎ)の姫を出す家系。
 政府からも厳重に警護されている。地図にも載っていない、ある区域にまとまって住むことが基本とされている。

「夢幻(むげん)の郷(さと)」

 住んでいる者たちはそう呼んでいた。夢紡の御力を持った者たちが生まれる、誰にも知られていない、地図にも載っていない幻の地。

 政府は「厳重管理区域」と呼んでいる。何を厳重管理しているかは明言していない。

 生活はいたって自由。学校にも行くし、旅行にも行く。テレビもスマホも今時の生活はしている。

 ただ、生活の中に警護の仕事をしている方々がいるという環境だ。

 夢幻の村に住む女性は能力を悪用したい組織に誘拐される危険性があるため、常に私服の公安警察が24時間体制で警護にあたる。

 小春も常に数名の警備員とともに行動している。生まれてからずっとそういう状態だったので特に気にはならない。
 
 でも、いつかは郷を出たいという野望があった。

「もっと人がいて、にぎやかなところに住みたい!」

 そう言って帝都にある大学を受験した。

 祖母から「大学行くなら私学にしておきな。授業料は私が出すから」と言われ、両親も小春も祖母の言葉に甘えさせてもらった。

 祖母は木花トキ。今年で72歳になる。
 
 諸事情により中学生から夢紡の姫をしており、木花家とそこにかかわる一族をまとめる当主として先代と現代、2代にわたっての帝に仕えている。
 
 そして72歳になっても「姫」なのだ。

「私より力がある子が出たらすぐに交代する!そしたら今まで行けなかったところに旅行に行くんだ!」

 トキはこの言葉を口癖のように言っている。

 小春にとっては優しくて元気なおばあちゃん。そして、夢紡の御力の使い方を教えてくれる師匠でもある。

 今は帝都に住んでいる。年に何回か「夢幻の郷」に来て木花家の少女たちに夢紡の御力の使い方を教えて帰っていく。
 
 夢紡の姫は常に政を裏で支える仕事。

 基本的に表立って活躍するわけではないのでそんなに忙しいわけではないようだ。

 誰にも知られていない、帝とその周りのごく一部、そして警護をしている公安警察の一部。

 トキも常に公安警察と一緒に行動しているが、個人的にシークレットサービスを雇っている。

 特殊な訓練を受けた人たちと聞いているが、小春たちも詳しいことは知らない。

『おばあちゃん、志望校に合格したよ!』

 スマホでトキへメッセージを送る。

『卒業式が終わったら帝都においで。住むところとかはこちらで準備しておくから』
 
 しばらくしてトキから返信が来た。

 3月22日、14時、帝都桜本町のビルに来るようにとマップのURLが添付されている。