夢見る乙女は狼の守護のもとに 〜守られて愛されて一国を支える姫になる物語〜

 小春と狼弦は薬草園に着いた。

「小春はどの植物がどういう効果があるか分かるの?」

「これから勉強する。漢方薬の授業は2年生からだから、その時かな?」

 敬語を使わなくなったらぎこちない感じもする。それなりに会話ができているような気もする。

「ご飯に危ない植物、入れないでね」

「そんなことしないもん!」

 小春は狼弦にからかわれているような感じが・・・

 敬語で話していた時はそっけなくて、とっつきにくかった。

 そう思ったら今のほうが話しやすいかもしれない。

「私、薬学部だけど変な薬とか作らないから」

「まぁ、信じてるよ」

 狼弦は口角を少しだけ上げている。

 今までより自然な感じがした。こっちのほうが素なのかもしれない。

「敬語じゃなくなったら、なんかこう失礼な気がする」

「じゃあさっきまでの敬語にしましょうか?」

 狼弦はからかうように小春に提案する。

 あの堅苦しい空気を考えたら、今のほうがマシかもしれない。

「遠い親戚するなら、ある程度は軽くいかないと不自然だよ、小春」

 また、口角が上がっている。イタズラっぽい顔になった。

 演技?それとも素でやってる?

 小春は分からなくなってきた。

「とりあえず、今まで通りタメ口で…」

「了解~」

 返事が軽すぎる・・・。



 大学まで行った日の夜、夕食をすませてリビングでくつろいでいると杏(あんず)から連絡が来た。

『やほー
私たちも引っ越し終わったよ!
2人で両親に別々に暮らしたいって交渉したけど、結局、2LDKに2人暮らしになった(涙)』

 卒業式の日に杏(あんず)と棗(なつめ)が別々で暮らしたいと言っていたのを小春は思い出した。

「小春、私、お腹の中の期間も入れたら19年も棗と一緒なのよ。この後、6年も一緒にいたら四半世紀一緒とか・・・さすがに辛い」

 杏が小春に訴える。

「こっちのセリフだし。小姑みたいな杏が一緒にいたら、俺、彼女できない・・・」

 棗も負けてなかった。

「私だって棗が一緒にいたら彼氏できないじゃない」

 2人の嘆きを聞いて、なぜ同じ大学受けたのか小春は謎だった。


『杏、引っ越しお疲れ〜
やっぱり2人暮らしになったんだ。
部屋は別々だからプライベートは守られるね。
無料の用心棒がいると思って・・・ね。』

 小春は杏を励ます。

 帝都は家賃も物価も高い。

 杏と棗のご両親は2人を私立の大学に6年通わせるには同居という選択肢になったのだろう。

『働いたら別々に暮らせるからそれまで勉強、頑張る!
ところで4月1日の健康診断の日、午後、お茶でもしない?
棗も小春に会いたがってる!』

『良いね!行こう!』

 帝都に来てまだ2日。

 これからの生活に期待もあれば、不安もある。杏と会えるのは心強い。

「何、スマホ見てニヤニヤしてるの?」

 杏とのやりとりをしていると小春の顔に狼弦がツッコミを入れてきた。

「高校の同級生と連絡取ってるの。健康診断の日の午後、会おうって」

「小春、健康診断は木花家御用達の病院で明日、受けることになるよ。健康診断の結果を提出すれば、大学側は良いらしい」

「え?」

「健康診断の日、教科書販売もあるよね?小春と俺の用事はそっちだけ」

「はぁ…」

 健康診断は新入生最初のイベントと思っていたが、出鼻をくじかれた気がした。

 露骨に残念なため息が出てしまった。

「トキ様からの連絡だから、俺には何ともできない」

「そっか」

 小春はしょんぼりする。

 杏と棗に会える時間が少しでも早く欲しかった。

 健康診断は良いタイミングだと思っていたのに・・・

「午前はゆっくり過ごして、午後、思い切り楽しんで来たら良いんじゃない?ま、俺は護衛で近くにいるけどね」

 前半は気持ちを切り替える言葉だったが、後半は現実的な話だった。

「杏と棗との話、こそこそ聞かないでよ」

「興味ないから、大丈夫」

 小春の言葉に狼弦は飄々と言い返す。

 ルームシェア二日目にして、二人の距離は昨日までと違うベクトルで進み始めた。