夢見る乙女は狼の守護のもとに 〜守られて愛されて一国を支える姫になる物語〜

 マンションを出て徒歩で大学に向かう。

 3月末、晴れていても風が吹くと少し肌寒い。

 小春は白のハーフ丈のジャケットに桜色のストール、黒の狼弦は黒のトレンチコートにサックスブルーのストール。

 知らない人が見たら若いカップルにも見える。

 大学までは歩いて10分だった。

「えっと、薬学部は・・・」

 小春はキャンパス内の地図を確認しようとする。

「こちらです」

 狼弦(ろうげん)はすぐに反応した。

「もう、確認済ですか?」

「はい、小春様が進学する薬学部の建物の作りなどはすべて頭に入れてあります」

 下調べがしっかりしていすぎて小春はただただ感心してしまう。

 小春はこの春、私立常磐大学の薬学部へ進学する。侍の時代が終わるころにできた伝統ある大学だ。

 夢紡(ゆめつむぎ)の御力(みちから)があまりない小春にとって、勉強をして資格を取得することにより、将来食べていく道を選ぶことは不思議なことではなかった。

 むしろ、両親からも勉強はしっかりして自分の力で生きていけるようにと言われ続けていた。

 特にお母さんからは「女の子は手に職持ってた方が良いから」と常に言われてきた。

 薬学は高校で勉強していて好きになった化学をより詳しく勉強できるらしい。しかも人間の体と絡めて。

 そんな薬学について教えてくれたのは小学校から高校まで、そして大学も一緒の朝比奈杏(あんず)と朝比奈棗(なつめ)だった。

 双子の杏と棗のご両親は薬剤師。薬局を経営している。

 時々、二人の家に遊びに行くと薬局を見学させてもらい、薬局の仕事、薬剤師の仕事を教えてもらえた。

 薬局や病院以外にもたくさん選択肢がある…それは小春にとってとても心強いことだった。

 薬学部の棟はキャンパスの奥から2番目にあった。

 一番奥は医学部、手前は経済学部だ。

 狼弦の案内で薬学部棟の入り口を確認する。

「近くに薬学部の管理してる薬草園がありますが、見ていきますか?」

 オープンキャンパスの時に見学した薬草園だ。あの時は一見草に見えるものも薬になるんだなと思って見ていた。

 これからは薬草園にある植物について学ばなくてはならない。

「見れるの?」

「外で育ててあるものであれば。屋内の方は管理の関係上、見れません」

「ぜひ、散歩しながら見ていきましょう」

 二人は薬草園へ向かって歩き出す。

 案内する狼弦は半歩だけ前を歩く。

「狼弦さんは私が大学にいる間はどうするんですか?」

「自分もここの学生なので、講義受けてたりします」

「え?」

 歩いていた小春が止まる。小春の頭の中がフリーズする。

「トキ様からお話ありませんでした?」

 狼弦は表情が少ないながらも、困ったような戸惑っているような…そんな感じになっている。

「全く聞いてないです」

「誤解があってはいけないので…私事ではありますが、この春、小春様と同じ常盤大学の経済学部に入学します。
なのでキャンパス内については先週、マップを確認しながら全ての棟を回りました」

「大学が一緒!!来月入学!?」

「はい、昨年末にトキ様より常盤大学を受験するようにとご指示ありましたので」

 狼弦はさらっと言っているが、小春は常盤大学に合格するために猛勉強してきた。

 それを高校3年の12月に、しかもおばあちゃんからの指示で受験して合格するとか…意味が分からなさすぎる。

「もしかして、狼弦さん、同じ18歳ですか?」

「はい、同じ年齢です」