「母さん、どう思う!!」
その日の夜、颯は明生がお風呂に入っている間に母親へ電話をした。
「……どうって」
戸惑う母親の声を無視して、
「おっさん、僕と秀一叔父さんを間違えてキスしたんだよ!! 僕だと思ってならまだしも!!」
クマ男を抱き締めながら文句を言う颯に、母親は複雑な心境で、
「……で、颯はマスターが好きなの?」
と尋ねた。
その瞬間、颯は息を飲んだ。
「……ごめん、好きになったみたいなんだ」
ぽつりと呟いた颯の言葉に、母親が深い溜め息を吐く。
「分かってる! 秀一叔父さんの元恋人を好きになるなんて、ダメなのは分かってるんだ……」
段々と声が萎れていく息子に、
(それ以前に、相手が男性っていうのは問題じゃないのね……)
と母親は心の中で呟いていた。
三人兄妹の真ん中で、天真爛漫。
明るくて人当たりが良く、三人兄妹で一番要領の良い次男坊。
しかし、一度言い出したら聞かず、頑固なのは誰に似たのだろうか?
母親は小さな苦笑いを浮かべた。
そもそも、家を出た時は、
「ちょっと気晴らしに、秀一叔父ちゃんの思い出の喫茶店に行って来る!」
と言って出たはずだ。
しかし、蓋を開けてみたら、
「居心地いいから、お店で働くことにした! マスターの家にお世話になるから!」
と、一方的に連絡をして来た。
その時、初めて弟の元恋人と会話した。
落ち着いた低い声が、やけに耳に心地よい人だというのが最初の印象だった。
『すみません。どうしても、住み込みで働きたいと言うので……』
颯が強引に押し切ったのだろう。
相手も、少し困ったような口調だった。
「息子がお世話になります」
と答えると、
『ご子息様は、責任を持ってお預かりしますので』
そう答える人物に、秀一が惚れた理由を垣間見た気がした。
その言葉通り、定期的に連絡を入れてくれている。
先日は、人様のベッドでクマのぬいぐるみと一緒に大の字になって寝ている画像を送ってくれた。
颯の兄と妹も店のSNSを見ていると話したことを覚えていてくれたらしく、その画像をアップしてくれたのだ。
とても誠実な対応をしてくれていると微笑ましく思っていたが、まさか恋愛対象になるなんて思ってもみなかった。
今まで颯が恋人として連れ歩いていたのは、女の子だった。
颯本人は、
「告白されたから、付き合っただけ~」
と言っていた。
掴みどころがないと言われ、どの子とも長続きしなかった。
そんな颯にとって、恐らく初恋なのだろう。
母親としては、反対するべきなんだろうけど……。
秀一があの人を失って、どれだけ苦しんでいたかを知っている。
それが故に、残されたあの人もまた……苦しんだのだろう。
秀一の時は、何もしてやれなかったことを悔やんだ。
それならせめて、息子の時は──。
颯が好きになった相手が、あの人だったというのなら──。
小さく息を吐くと、母親は静かに口を開いた。
「じゃあ、あんたは外堀埋めちゃいなさいよ!」
「外堀?」
「そう。母さんは応援するわよ」
予想外の返事に、颯は目を丸くした。
「えっ!? いいの?」
「ただし、マスターが嫌だって言ったら諦めなさい」
「それは……無理かも」
即答する息子に、母親は思わず吹き出した。
「じゃあ頑張りなさい」
「うん!」
元気よく返事をする颯に、母親は苦笑いを浮かべた。
やっぱり、一度言い出したら聞かないところは昔から変わらない。
けれど、その声は久しぶりに聞くほど弾んでいて──。
それが少しだけ、嬉しかった。
その日の夜、颯は明生がお風呂に入っている間に母親へ電話をした。
「……どうって」
戸惑う母親の声を無視して、
「おっさん、僕と秀一叔父さんを間違えてキスしたんだよ!! 僕だと思ってならまだしも!!」
クマ男を抱き締めながら文句を言う颯に、母親は複雑な心境で、
「……で、颯はマスターが好きなの?」
と尋ねた。
その瞬間、颯は息を飲んだ。
「……ごめん、好きになったみたいなんだ」
ぽつりと呟いた颯の言葉に、母親が深い溜め息を吐く。
「分かってる! 秀一叔父さんの元恋人を好きになるなんて、ダメなのは分かってるんだ……」
段々と声が萎れていく息子に、
(それ以前に、相手が男性っていうのは問題じゃないのね……)
と母親は心の中で呟いていた。
三人兄妹の真ん中で、天真爛漫。
明るくて人当たりが良く、三人兄妹で一番要領の良い次男坊。
しかし、一度言い出したら聞かず、頑固なのは誰に似たのだろうか?
母親は小さな苦笑いを浮かべた。
そもそも、家を出た時は、
「ちょっと気晴らしに、秀一叔父ちゃんの思い出の喫茶店に行って来る!」
と言って出たはずだ。
しかし、蓋を開けてみたら、
「居心地いいから、お店で働くことにした! マスターの家にお世話になるから!」
と、一方的に連絡をして来た。
その時、初めて弟の元恋人と会話した。
落ち着いた低い声が、やけに耳に心地よい人だというのが最初の印象だった。
『すみません。どうしても、住み込みで働きたいと言うので……』
颯が強引に押し切ったのだろう。
相手も、少し困ったような口調だった。
「息子がお世話になります」
と答えると、
『ご子息様は、責任を持ってお預かりしますので』
そう答える人物に、秀一が惚れた理由を垣間見た気がした。
その言葉通り、定期的に連絡を入れてくれている。
先日は、人様のベッドでクマのぬいぐるみと一緒に大の字になって寝ている画像を送ってくれた。
颯の兄と妹も店のSNSを見ていると話したことを覚えていてくれたらしく、その画像をアップしてくれたのだ。
とても誠実な対応をしてくれていると微笑ましく思っていたが、まさか恋愛対象になるなんて思ってもみなかった。
今まで颯が恋人として連れ歩いていたのは、女の子だった。
颯本人は、
「告白されたから、付き合っただけ~」
と言っていた。
掴みどころがないと言われ、どの子とも長続きしなかった。
そんな颯にとって、恐らく初恋なのだろう。
母親としては、反対するべきなんだろうけど……。
秀一があの人を失って、どれだけ苦しんでいたかを知っている。
それが故に、残されたあの人もまた……苦しんだのだろう。
秀一の時は、何もしてやれなかったことを悔やんだ。
それならせめて、息子の時は──。
颯が好きになった相手が、あの人だったというのなら──。
小さく息を吐くと、母親は静かに口を開いた。
「じゃあ、あんたは外堀埋めちゃいなさいよ!」
「外堀?」
「そう。母さんは応援するわよ」
予想外の返事に、颯は目を丸くした。
「えっ!? いいの?」
「ただし、マスターが嫌だって言ったら諦めなさい」
「それは……無理かも」
即答する息子に、母親は思わず吹き出した。
「じゃあ頑張りなさい」
「うん!」
元気よく返事をする颯に、母親は苦笑いを浮かべた。
やっぱり、一度言い出したら聞かないところは昔から変わらない。
けれど、その声は久しぶりに聞くほど弾んでいて──。
それが少しだけ、嬉しかった。

