壁から二つ目の席

「今度こそ、間違いなく復活!!」

 二日間店を休んだ颯が、ベッドから飛び起きて叫んだ。
 筋肉もさほど付いていない腕で、ボディービルダーの真似をしてポーズを決める姿を、明生は呆れ顔で眺めていた。

 病で辛そうにしている姿を見るのも心配だったが、寝込んでいた分、体力が有り余っているのだろう。
 いつも以上にハイテンションで騒がしい颯に、明生は苦笑いを浮かべた。

 鼻歌を歌いながら着替えている颯を横目に、明生は朝食の準備を始めた。

 すると、着替え終えた颯が隣に並び、

「今日の朝ご飯、なに?」

 と、明生の顔を見上げた。

『トンッ』

 明生の腕に触れた颯の肩へ何気なく視線を向けると、甘えるように見上げるその顔に、秀一の面影が重なった。

『明生、今日のご飯はなぁに?』

 トンッと肩を軽く預け、甘えるような視線で見上げていた昔の恋人(秀一)。
 明生が料理の手を止めて秀一の唇へキスを落とすと、いつも幸せそうに微笑んでいた。

 それは、秀一と過ごしていた頃の当たり前の日常だった。

「え?」
「ん?」

 颯の驚く声にハッと意識を戻すと、気付けば颯の唇にキスをしていた。

「あ……悪ぃ、間違えた……」

 明生がそう呟いた瞬間、颯の顔が『ボンッ』と音を立てるように真っ赤になった。

「な、な、な、何すんだよ!」

 慌てて握った拳の甲で唇を押さえる颯に、明生はポリポリと頭を掻いた。

「だから、謝っただろう? 秀と同じ甘え方するお前が悪い」

 悪気なくそう言って颯の額にデコピンすると、颯は見る見るうちにしょげた顔になり、

「秀一叔父さんと間違えたの?」

 と呟いた。

「間違えたというより、反射的だったな……」

 思わず答えた明生に、颯はムゥっと唇を尖らせた。
 そして突然、明生の頭を両手で掴み、勢いよく頭突きした。

「~~~!」

 あまりの痛みに明生がその場へ座り込むと、

「次、秀一叔父さんと間違えたら、グーでぶん殴るからね!」

 そう言い放った。

「クマ男をお店に出してくる!」

 ベッドで寝ていたクマ男を抱き上げると、颯はプンプン怒りながら店へと下りて行った。

「なんだよ……ガキだな。キスの一つや二つで、あんなにキレることか?」

 頭突きされて痛む額を撫でながら立ち上がり、明生は途中だった朝食の準備を再開した。

***

 一方、颯は店へ下りるなり、クマ男を抱き締めたままその場へしゃがみ込んだ。

「クマ男、秀一叔父さんと間違えてキスされちゃったよ。キスされて……一瞬喜んだ僕が、バカみたいじゃんね」

 そう呟くと、じわりと込み上げた涙をクマ男の胸へ埋めた。