壁から二つ目の席

「明生、落ち着きなよ」

「あぁ? 落ち着いてるだろうが!」

「何処が? それ、何本目?」

 葉月が、灰皿に積み上がった煙草の山を指差した。
 火をつけては消し、また新しい煙草へ火をつける。それを何度も繰り返した跡だった。

「風邪だよ、絶対」

「でもな、俺がふらついてた間、颯は夕飯食ってなかったんだよ」

「夕飯だけでしょう? 朝と昼、ガッツリ食べてたら大丈夫よ」

 呆れ顔の葉月をよそに、明生は再び煙草を口に咥えた。

 その時だった。

「お待たせ。風邪だったよ」

 ニコニコしながら現れた西園寺さんに、明生がホッと胸を撫で下ろした。

「なんだ、明生。そんなに心配だったんなら、傍に居ても良かったんだよ」

 そう言われ、

「別に……心配してねぇよ。ただ……そう! アイツの母親から『息子をよろしく頼む』って言われてたから、責任感でだな……」

 そう言って、煙草を反対に咥え、

「うわっ!」

 と声を上げた。

「ねぇ、葉月ちゃん。あれ、どう思う?」

「どうもこうも……やってられないわよ」

 溜め息をつく葉月に、西園寺さんは優しく笑った。

「とか言って、颯君なら任せられるとか思ってたんじゃないの?」

 そう呟くと、葉月は、

「さぁね。でも、秀一よりは百万倍もマシってだけよ」

 と答え、ゆっくり立ち上がった。

「明生、アタシ帰るわね」

 そう言い残して、店を出て行く。

「全く……あの子も素直じゃないね」

 西園寺さんはそう呟いた。
 葉月もまた、颯を心配して、自分が下りて来るのを待っていたのだろう。

 そう察し、小さく笑った。

「あの子が来てから、この店は温かくなった……」

 ぽつりと呟いた西園寺さんの言葉は、朝日が差し込む店内へ静かに溶けていった。