壁から二つ目の席

「復活!!」

 翌朝、元気に飛び起きた颯に、

「ダメだ! 昨日、熱があったんだから寝とけ」

 明生はそう言ってデコピンした。

「西園寺さんには連絡しといたから、店に来るついでに診てもらえ」

 体温計を手渡され、颯はそれを腋に挟みながら、

「そう言えば……西園寺さんって、お医者さんなの?」

 と聞いた。

「そう。ぶっとい注射でも、臀に打ってもらえ」
「えぇっ!」

 明生の言葉に口を尖らせたところで、体温計が『ピピッ』と鳴った。

 明生が手を出すと、颯は体温計の表示を見て、咄嗟に隠そうとする。

「お前はガキか! ほら、貸せ!」

 無理矢理奪うと、そこには37.5℃と表示されていた。

「全然復活してねぇじゃねぇかよ!」

 額を軽く叩き、ベッドへ押し込む。

「今日は大人しく寝とけ」

 クマ男を隣に寝かせると、

「クマ男、連れて行かないの?」

 と言われ、明生は溜め息をついた。

「心配すんなよ。あの席には、予約札立てとくから」

「本当に?」

 颯は疑いの眼差しを向ける。
 そしてベッドから起き上がると、紙とペンを手にサラサラと何かを書き始めた。

「じゃあ、これ貼っといて」

 そう言って、明生に手渡した。

 紙には、

『この席は、颯とクマ男専用です』

 と書かれ、その横には笑顔のクマ男が、

『よろしくクマ~』

 と手を振るイラストが描かれていた。

 明生は咥え煙草のまま苦笑いすると、

「これを椅子に貼っとけば良いんだな」

 そう言って、店へ下りて行った。

 颯はクマ男を抱き締め、

「これで大丈夫かな?」

 と呟いた。

 颯はまだ、その行動が明生に対する独占欲なのだと気付いてはいなかった。