壁から二つ目の席

「おっさん、今日は一緒に飯食ってよ!」

 その日の朝、颯は意を決して明生に言った。
 すると明生は呆れた顔をして、

「毎日、朝飯一緒に食ってるだろうが?」

 と言う。

「……そうだけど、違う! 賄いじゃなくて、ご飯だよ!」

 地団駄を踏む颯に、明生はからかうように、

「なんだ、坊主。一人で夕ご飯は寂しいのか?」

 そう言うと、颯の頭をわしゃわしゃと撫でた。

 いつからだろう?

 煙草の匂いのする大きな手に、心臓がバクバクと大きく鳴り出すようになったのは……。

「うるさい! 頭触んな! 子供扱いするな!」

 文句を言いながらも、明生の手を払わない。
 そんな颯を優しく見つめる明生の目は……完全に保護者だった。

「じゃあ、今日は久しぶりに坊主と飯食うか」

 そう言われて、颯はパァッと笑顔を浮かべた。

「マジでぇ! じゃあ、昼休みに買い物行ってくるよ。冷蔵庫、何もないからさ」

 嬉しそうに話す颯に、明生は眉間へ皺を寄せた。

「おい、坊主。お前、俺が居ない間、夕飯はどうしてた?」
「え?」
「まさか……食ってないのか?」

 明生に睨まれ、颯は頬をポリポリ掻きながら、

「一人だと……作る気になれなくて」

 と笑って答えた。

 すると明生は颯をヘッドロックして、

「三食、飯はきちんと食えと言っただろうが!」

 と怒り出した。

 頭にゲンコツをグリグリされ、

「痛い、痛い!」

 と暴れながら、颯は明生のこの優しさに鼻の奥がツンと痛くなった。

「ったく、飯も一人で食えねぇのか、お前は」

 呆れたように言われ、颯は、

(あんたのせいで、飯が喉を通らないんだよ!)

 と、心の中で文句を言っていた。

 人を好きになると、こんなに胸が苦しいのだと……颯は初めて知った。

 過去に付き合った人も居た。
 けれど、この恋を知ってしまった今、これまでの恋は可愛いものだったのだと思い知らされた。

 そして秀一もまた、同じ想いを抱えているのだと思うと、颯は複雑な気持ちだった。