壁から二つ目の席

「……どうして来たの?」

 常連客たちに追い出されるように、颯と秀一は店を出た。
 二人は黙ったまま歩き、先に颯が口を開いた。

 すると秀一は、颯に視線も向けず、

「……どうしてここにいるの?」

 怒りを孕んだ声を発した。

「あの店は……明生は……僕の大切な場所だって言ったよね!」

 初めて聞く、秀一の声だった。
 颯を見る秀一の目は、嫉妬の色に染まっている。

「……秀叔父さんには、なっちゃんや朋君、それに……真実さんっていう奥さんが居るじゃないか」

 ポツリと呟いた颯に、

「……だからって。だからって、僕の宝物に手を出さなくても良いじゃないか!」

 秀一の叫びに、颯は息を飲んだ。
 そして俯くと、

「……ごめん。別に、取るつもりなんかじゃなかったんだ。本当はただ、秀叔父さんの思い出の場所を……見たかっただけなんだ」

 そう答えた。

「でも、明生と寝たんだろう?」

 秀一の言葉に、颯が首を傾げた。

「クマ男も一緒だよ?」
「え?」
「そりゃあ、一緒に寝てるけどさ。ベッドが一個しかないし。おっさん、いつも端っこで小さくなって寝てるけど、僕が寝た後にベッドに入って、僕が起きる前にはベッドに居ないよ?」

 颯の言葉に、秀一が瞬きをする。

「え? 颯は、明生と……その……してないの?」

 戸惑う秀一に、

「してない? ……何を?」

 ますます首を傾げる颯に、秀一は真っ赤な顔になり、

「ごめん! 今のは忘れて!」

 と叫んだ。

「僕……てっきり明生と颯が恋人なんだと勘違いしちゃって……」

 そう言われて、颯の目が点になった。

「えぇっ! ナイナイ! おっさん、僕をガキ扱いだよ」
「え? そうなの?」

 驚く秀一に、

「じゃなきゃ、あんな画像を母さんが見るSNSにアップしないよ」

 苦笑いを浮かべる颯に、秀一も苦笑いを返した。

「確かに……そうだね」
「でしょう?」

 顔を見合わせた颯と秀一は、思わず吹き出した。

「……でも、ごめん。明生には、僕の甥っ子だってことを黙っていたんだろう?」
「あ~、まあ? でも、大丈夫だよ。きっと……」

 笑いながらそう答える颯に、今度は秀一が首を傾げた。

「おっさん、ああ見えて優しいじゃん?」

 そう言って笑う颯に、秀一は小さく笑うと、

「颯は凄いね」

 と呟いた。

「え?」
「僕は……明生の懐に入るまで、結構大変だったんだよ」

 そう言って微笑んだ。
 そして颯の腕に自分の腕を絡めると、

「取り敢えず、今日は僕と一緒に泊まろう! 積もる話もしたいし、聞きたいし」

 秀一はそう言うと、予約していたホテルへと歩き出した。