その日は雨だった──。
いつもなら閑古鳥が鳴く、夕方四時。
今日はゲリラ豪雨のせいか、珍しく満席だった。
『バシャバシャ』と水たまりを蹴る音を立てながら、一人の若者が鞄を頭の上に掲げ、土砂降りの街を駆けていた。
彼は喫茶【Amber】の看板を見上げると、躊躇うことなくドアを開ける。
『カラン……』
「いらっしゃい」
低く落ち着いた声が響く。
店内を見回した若者は、思わず目を瞬かせた。
──満席。
「悪いね。生憎、満席なんだよ」
そう言ったのは、煙草を咥えた店のマスターだった。
悪びれる様子もなく、気怠げに煙を吐き出している。
(この人が──っ)
若者の目が、ぱっと輝いた。
そして彼は、カウンター席、壁から二つ目──大きなテディベアが座る席へと歩き出す。
ヒョイ、と軽々しくテディベアを抱き上げると、壁際のコンソールテーブルへ、テディベアを置いた。
「ごめんね。少しだけ、席を貸して?」
ぽんぽん、と頭を撫でる。
それから何の躊躇いもなく椅子へ腰掛けると、若者はにっこり笑った。
「ほら、席、空いたでしょう?」
その瞬間。
店内の常連客たちが、一斉に息を呑んだ。
「あっ……」
だが、そんな空気にも気付かず、若者は嬉しそうに珈琲の香りを吸い込んだ。
煙草を咥えたまま、マスターは静かに目を細めた。
──これが、舘野明生と杉浦颯の出会いだった。
いつもなら閑古鳥が鳴く、夕方四時。
今日はゲリラ豪雨のせいか、珍しく満席だった。
『バシャバシャ』と水たまりを蹴る音を立てながら、一人の若者が鞄を頭の上に掲げ、土砂降りの街を駆けていた。
彼は喫茶【Amber】の看板を見上げると、躊躇うことなくドアを開ける。
『カラン……』
「いらっしゃい」
低く落ち着いた声が響く。
店内を見回した若者は、思わず目を瞬かせた。
──満席。
「悪いね。生憎、満席なんだよ」
そう言ったのは、煙草を咥えた店のマスターだった。
悪びれる様子もなく、気怠げに煙を吐き出している。
(この人が──っ)
若者の目が、ぱっと輝いた。
そして彼は、カウンター席、壁から二つ目──大きなテディベアが座る席へと歩き出す。
ヒョイ、と軽々しくテディベアを抱き上げると、壁際のコンソールテーブルへ、テディベアを置いた。
「ごめんね。少しだけ、席を貸して?」
ぽんぽん、と頭を撫でる。
それから何の躊躇いもなく椅子へ腰掛けると、若者はにっこり笑った。
「ほら、席、空いたでしょう?」
その瞬間。
店内の常連客たちが、一斉に息を呑んだ。
「あっ……」
だが、そんな空気にも気付かず、若者は嬉しそうに珈琲の香りを吸い込んだ。
煙草を咥えたまま、マスターは静かに目を細めた。
──これが、舘野明生と杉浦颯の出会いだった。
