試合が始まるとさらに観客は増えた。
試合は接戦で洸は何回もシュートを決めていた。バスケは中高の体育でやったがルールもうろ覚えだ。洸のポジションもチームでどんな存在かはわからないが、とにかく上手い。そして、華がある。
『部』のほうに注目があるのかと思えば、それだけでもなく、洸がシュートする度に後方で「きゃー」という声が上がる。
(やっぱ、三瀬さんモテるんだな)
本人の前では約束通り『洸くん』と呼ぶが、脳内はまだ『三瀬さん』のままだった。
それにしても……と思う。
(シュートを決める度に僕に手を振るのやめてくれないかな)
変に目立ってしまっているようで恥ずかしい。僕の後方の女子の中には『自分に?』と勘違いしている人もいて、そう思ってくれたほうが気が楽だった。
「三瀬の友だち?」
ふいに女性の声がした。驚いて声の方向に顔を向けると、男女五、六人の集団が席二つ空けて座っていた。
「見ない顔だな」
全員が無遠慮にじろじろ眺めてくる。
洸の友人だろうか?
美人・イケメン揃いで、彼の周りにいそうな部類の人間だ。
「同じ学部?」
僕が答えに詰まっていると新たな質問をしてくる。
(三瀬さん、確か理工学部だったな)
ああ見えて頭が良いらしい。
「いえ、違います」
「二年……じゃないのかしら?」
「一年です。あの、三瀬さんとはバイト先が同じで。今日バスケの試合に出るからって誘われて」
たぶんこの後にくるのは「どういう関係?」だろう。それを見越して自分から言ってしまった。余計なことも言い過ぎたような気もするけど。
「なんだ、彼女じゃないのか」
妙にがっかりした声だった。
僕が「え?」と反応したら、
「今日めちゃめちゃ張り切ってたから」
がははと豪快な笑いと共に教えてくれた。
(そ、そんなに張り切って? 僕が見に行くって言ったから?)
「彼奴、モテるけど彼女いなかったから」
「そうそう」
「今日の試合も最初は、バスケ部が二軍出してくる、舐めてんのかってぼやいていたのに」
訊いてもいないのにどんどん話が飛びだしてきて、本人のいないところで聞いていいものか、と内心あわてる。
「ねぇ~。それに最近妙に浮かれてたから、絶対彼女できて今日見に来るんだと思ったのよ」
(三瀬さん、そんなに浮かれてるんだ。僕のことそんなに……)
僕は赤面しそうになった。
彼らは、その相手が実は目の前にいる僕だとはまったくの予想外だろう。そう思うと居た堪れない気持ちにもなる。
「彼女じゃなくてざんねーん」
軽い口調で締めくくった。
(試合見に来たんじゃないんかーい。彼女でも、彼氏でもなくってすみませーんっ)
試合が終わって僕は観客席を立った。
結果から言うと洸たちのチームは負けた。中盤まで優勢だったが、たかがサークルと舐めてかかっていたのか、途中からバスケ部二軍チームの動きががらっと変わったのだ。
(でも三瀬さん、かっこよかったなぁ)
客観的に見てそう思う。チャラそうに見えるけど、イケメンだし、たぶん頭もいいし、運動神経も良さそう。それに見た目に反して真面目で優しい。
(なんで、好きな人のいる僕なんか……望みないかもしれないのに……三瀬さんなら、可愛い彼女でも、彼氏でもいくらでもできそうなのに)
そんなことを考えながら、一階へと階段を下りていく。途中に踊り場があり、そこを折り返す。
ぞろぞろと下りていく人の波の中に見覚えのある長身の後ろ姿を見つけた。
(あれ……陸郎さん……?)
その後ろ姿は、大きく開け放たれた両開きの扉を出て右へと曲がって行こうとする。
横顔が見えた。
(やっぱり! 陸郎さん!)
反射的に後を追おうとするが、つるっとした床に足がついた途端動きが止まる。
(なにやってるんだろ、会えっこないのに。まだ顔を合わせるのが怖いのに)
その後はのろのろと歩いて外に出る。陸郎の行った方向に顔を向けるが、たくさんの人に紛れてもう姿は見えなかった。
(陸郎さん、学祭来てたんだ)
陸郎も特にサークルにも入っておらず、学祭といっても活動することもない。
(来ないと思ってたのに。試合に誰か知り合いでも出てたのかなぁ。この後優雅と約束なんかしてたらいやなんだけど)
確信もないことにちくっと胸が痛む。
(あの時告白なんかしなかったら。まだ『恋人ごっこ』のままでいたら、今頃は二人で模擬店を回ったりライヴを見てたりしてたのかも。もちろん僕が無理矢理に誘って)
くすっと自嘲気味な笑いが漏れる。
洸と待ち合わせしていたその中央出入り口で、僕はぼんやり立っていた。
「温くーん」
トーンの高い声がした。
振り返ると洸が手を振りながら走って来る。どうやら別の出入り口から出て来たようだ。
「ねぇ、どうだった? オレ」
息を切らして僕の前に立つなりそう言った。
笑顔が眩しい。
「かっこよかった!」
「やった!」
ぐっとガッツポーズ。彼が楽しそうなので僕にもそれが移って、思わず笑顔になる。
「負けちゃって、悔しいっ」
そう言いながらもめちゃめちゃいい笑顔だ。
「あー、腹減った! なんか食べよ」
「いいですね!」
並んで歩き始め、あそこに何があったとか、あそこは美味しいらしいとか、話に花を咲かせた。
洸も僕と同じ立場なのだ。好きな相手に告白して玉砕している。その相手が僕だということに申し訳なさを感じている。
でも僕は彼の明るさに救われる。
(ずるいな、僕。陸郎さん以上だ)


