自分のベッドにリュックを載せるとそのままベッドに腰をかける。カーテンが開いたままの夜景の見える窓に顔を向け、ほうと小さく息を吐いた。
なんだかもう胸がいっぱいだった。
「温くん」
突然声をかけられ「ひゃい」っと変な返事をしてしまった。恥ずかしげに陸郎のほうに顔を向けると、またくすっと笑われた。
「腹減らない? 下にコンビニあったね、何か買いに行く?」
そういえばドリーミング・パークでは時々軽く食べていたが、がっつり夕食はまだだったし飲み物も何か欲しい。
「ですね、行きましょうか」
エレベーターで一階まで降りフロント前を通ると、ぞくぞくと宿泊客が入ってくる。皆ドリーミング・パークを楽しんで来たのだろう。それを何となしに眺める。
家族連れ。友だち同士のグループ。恋人同士。
パークにいる時も思ったが、やはり男同士二人連れというのはあまりいないものだ。
僕らはいったい何に見える?
恋人同士――のはずはない。兄弟か友だちだろう。
(まぁ……仕方ないよね。それに……恋人同士に見えたら、それはそれで……ね)
同性同士のカップルはまだまだ万人には理解されない世の中だ。
(それでもね……僕は陸郎さんの本当の恋人になりたいよ)
きゅっと切なく胸が締めつけられた。
部屋に戻りそれぞれ買ってきたもので夕食を取る。それから入浴タイム。先に僕が入り、その後陸郎が入る。
一緒に泊まることの本当の破壊力を感じたのはその後だった。
外で食事をするくらいはこれまで何度かあった。でも風呂上がりの陸郎を見る日が来ようとは、これまで想像すらしなかったのだ。
タンクトップにクロップ丈のスウェット。髪をタオルで拭きながら部屋に戻って来る。シャワー後の熱気がまだあるのか、髪から滴る雫とともに汗が露出した肌を流れていく。
「どうした?」
固まったまま、まじっと見つめる僕に不思議そうに声をかけてくる。
(なんか……色っぽい。鼻血でそうですっ)
頭がくらっとする。ひっくり返りそうなところをなんとか踏ん張って。
「あ、ううん。知り合って長いですが、お風呂上がりの陸郎さん見るの初めてで、なんか新鮮ですね」
何でもありませんという顔でさらっと言った。
陸郎はコンビニで買ってローチェストの上に置いたままだった水を手に取って、自分のベッドに腰かけた。
蓋を開け、ごくごくと飲む。喉仏が動く様を見るだけでも何故か心臓が煩くなる。
「俺だって温くんの風呂上がり見るの初めてだ……確かに新鮮だな」
どこか意味ありげな視線に顔が熱くなってしまいそうだ。
(いやいや、意味なんか全然あるわけないよっ)
まずは心を落ち着かせよう。
僕をあわあわさせた張本人はしれっとして備えつけポットに水を入れに行った。確か備品にコーヒーのセットがあったはず。さてはコーヒーを飲むんだなと思った。
戻ってきてセットすると、またベッドの端に腰かけて水を飲み始めた。
「良かったんですか、お酒とか買ってこなかったけど。せっかくお泊りだから酔っぱらっちゃってもいいんですよ~」
軽い気持ちでそう言ったら返り討ちにあった。
「毎晩晩酌してるってわけでもないし、一人で飲んだってつまらないだろ。温くんが飲めるようになったら一緒に飲めばいいさ」
「え……」
とくんと胸が鳴る。
(……っと。今のいったいどういう意味でしょうか)
あまり深くは考えてはいけない。
「それってー飲めるようになったら、また一緒に来てくれるってことですかー?」
冗談っぽい口調で言う。
「だって俺たち……恋人同士なんだろ?」
僕らはそれぞれのベッドに座って向かい合っていた。陸郎は少し腰を浮かせて手を伸ばすと僕の顎をくいっと上げた。
「!!」
これは完全に負けだ。心臓が爆発しそうになった。
でもそれだけですぐに陸郎は手を引っこめて、再びベッドに腰を下ろす。
(か……揶揄われたのか……な……)
いつもの陸郎らしくないのはやっぱり、夢の世界の魔法にまだかかったままだからだろうか。
「ご……『ごっこ』ですけどね~」
僕はべっと舌を出す。
動揺を悟られてはいけない。こんなのなんでもない、慣れてるという感を出そうと軽い口調で言った。
陸郎は微かに笑んでいる。その顔からは何を思っているのかわからなかった。
「お湯沸いたみたいだな」
ちょうどその時湯の沸く音がして彼は立ち上がった。
彼の眼差しがないところでほ……っと自然と息が漏れ、自分が半端なく緊張していたのを実感した。
たぶんさっきのは本当に揶揄われたのだろう。彼は僕のことを『恋人』だとは思っていないし、もちろんそうなりたいとも思っていないはず。
切ない気持ちは置いておいて、僕は陸郎に仕返ししてやろうと思った。
明日のチェックアウトは十一時。
パークに行くのは今日だけで明日は帰るだけなので、朝はゆっくりめで大丈夫だ。明日の支度は明日すれば良いだろうとのんびり過ごす。
しばらく備えつけの大画面テレビを見ながらコンビニで買ってきたスナック菓子などを摘んだり、ベッドでごろごろしたりしていた。
「そろそろ寝ようか」
陸郎が少し眠そうに言った。
時刻は二十三時で普段ならまだ起きている。この時間にラインすることもあり、陸郎からも返信がくるので彼もまた普段は起きている時間なのだろう。
なんだかもう胸がいっぱいだった。
「温くん」
突然声をかけられ「ひゃい」っと変な返事をしてしまった。恥ずかしげに陸郎のほうに顔を向けると、またくすっと笑われた。
「腹減らない? 下にコンビニあったね、何か買いに行く?」
そういえばドリーミング・パークでは時々軽く食べていたが、がっつり夕食はまだだったし飲み物も何か欲しい。
「ですね、行きましょうか」
エレベーターで一階まで降りフロント前を通ると、ぞくぞくと宿泊客が入ってくる。皆ドリーミング・パークを楽しんで来たのだろう。それを何となしに眺める。
家族連れ。友だち同士のグループ。恋人同士。
パークにいる時も思ったが、やはり男同士二人連れというのはあまりいないものだ。
僕らはいったい何に見える?
恋人同士――のはずはない。兄弟か友だちだろう。
(まぁ……仕方ないよね。それに……恋人同士に見えたら、それはそれで……ね)
同性同士のカップルはまだまだ万人には理解されない世の中だ。
(それでもね……僕は陸郎さんの本当の恋人になりたいよ)
きゅっと切なく胸が締めつけられた。
部屋に戻りそれぞれ買ってきたもので夕食を取る。それから入浴タイム。先に僕が入り、その後陸郎が入る。
一緒に泊まることの本当の破壊力を感じたのはその後だった。
外で食事をするくらいはこれまで何度かあった。でも風呂上がりの陸郎を見る日が来ようとは、これまで想像すらしなかったのだ。
タンクトップにクロップ丈のスウェット。髪をタオルで拭きながら部屋に戻って来る。シャワー後の熱気がまだあるのか、髪から滴る雫とともに汗が露出した肌を流れていく。
「どうした?」
固まったまま、まじっと見つめる僕に不思議そうに声をかけてくる。
(なんか……色っぽい。鼻血でそうですっ)
頭がくらっとする。ひっくり返りそうなところをなんとか踏ん張って。
「あ、ううん。知り合って長いですが、お風呂上がりの陸郎さん見るの初めてで、なんか新鮮ですね」
何でもありませんという顔でさらっと言った。
陸郎はコンビニで買ってローチェストの上に置いたままだった水を手に取って、自分のベッドに腰かけた。
蓋を開け、ごくごくと飲む。喉仏が動く様を見るだけでも何故か心臓が煩くなる。
「俺だって温くんの風呂上がり見るの初めてだ……確かに新鮮だな」
どこか意味ありげな視線に顔が熱くなってしまいそうだ。
(いやいや、意味なんか全然あるわけないよっ)
まずは心を落ち着かせよう。
僕をあわあわさせた張本人はしれっとして備えつけポットに水を入れに行った。確か備品にコーヒーのセットがあったはず。さてはコーヒーを飲むんだなと思った。
戻ってきてセットすると、またベッドの端に腰かけて水を飲み始めた。
「良かったんですか、お酒とか買ってこなかったけど。せっかくお泊りだから酔っぱらっちゃってもいいんですよ~」
軽い気持ちでそう言ったら返り討ちにあった。
「毎晩晩酌してるってわけでもないし、一人で飲んだってつまらないだろ。温くんが飲めるようになったら一緒に飲めばいいさ」
「え……」
とくんと胸が鳴る。
(……っと。今のいったいどういう意味でしょうか)
あまり深くは考えてはいけない。
「それってー飲めるようになったら、また一緒に来てくれるってことですかー?」
冗談っぽい口調で言う。
「だって俺たち……恋人同士なんだろ?」
僕らはそれぞれのベッドに座って向かい合っていた。陸郎は少し腰を浮かせて手を伸ばすと僕の顎をくいっと上げた。
「!!」
これは完全に負けだ。心臓が爆発しそうになった。
でもそれだけですぐに陸郎は手を引っこめて、再びベッドに腰を下ろす。
(か……揶揄われたのか……な……)
いつもの陸郎らしくないのはやっぱり、夢の世界の魔法にまだかかったままだからだろうか。
「ご……『ごっこ』ですけどね~」
僕はべっと舌を出す。
動揺を悟られてはいけない。こんなのなんでもない、慣れてるという感を出そうと軽い口調で言った。
陸郎は微かに笑んでいる。その顔からは何を思っているのかわからなかった。
「お湯沸いたみたいだな」
ちょうどその時湯の沸く音がして彼は立ち上がった。
彼の眼差しがないところでほ……っと自然と息が漏れ、自分が半端なく緊張していたのを実感した。
たぶんさっきのは本当に揶揄われたのだろう。彼は僕のことを『恋人』だとは思っていないし、もちろんそうなりたいとも思っていないはず。
切ない気持ちは置いておいて、僕は陸郎に仕返ししてやろうと思った。
明日のチェックアウトは十一時。
パークに行くのは今日だけで明日は帰るだけなので、朝はゆっくりめで大丈夫だ。明日の支度は明日すれば良いだろうとのんびり過ごす。
しばらく備えつけの大画面テレビを見ながらコンビニで買ってきたスナック菓子などを摘んだり、ベッドでごろごろしたりしていた。
「そろそろ寝ようか」
陸郎が少し眠そうに言った。
時刻は二十三時で普段ならまだ起きている。この時間にラインすることもあり、陸郎からも返信がくるので彼もまた普段は起きている時間なのだろう。


