「そう……、ですか。……ですね。僕はあの人のことが好きです。そういう意味で」
陸郎にはまだ自分の気持ちを伝えられない。でも溢れて返って誰かに話したくなっていたのかもしれない。そこまでバレバレで偏見がないというなら洸に言ってもいいだろうと思った。
陸郎が本当は兄が好きで僕は「代わりにしていいから」と『恋人ごっこ』を持ちかけた、というのは言わないけど。
「あの人おまえの気持ちに気づいてないのか? どういうつもりで一緒にいるんだ?」
これはかなり陸郎への印象が悪くなっているようだ。
「松村さんは僕が好きなのは気づいてないと思いますよ。きっと兄のような気持ちでつきあってくれてるんだと思います」
洸はなんだか納得いかないというような顔をしている。『恋人ごっこ』のことは言えないから、僕らの関係について納得いくような説明ができない。それを言ったところで引かれるだけのような気もするけど。
「それに埋め合わせはちゃんとしてもらえますから。一緒に行きたかったテーマパークに連れて行ってもらえることになったんです」
じゃーんと両手を大きく広げて喜びを表したけれど。
彼はむっとした顔を崩さない。
それから徐ろに、
「オレにしなよ」
と言った。
「へっ?」
(オレにしなよ……オレにしなよ……?)
何度か頭の中で反芻して噛み砕いて、ようやく彼の言わんとすることを理解した。理解した上で冗談かと思ったが、洸はめちゃめちゃ真剣な顔をしていて到底冗談とは思えなかった。
「三瀬さん? それ本気で言ってます?」
「本気です」
何故か急に丁寧な言葉になる。
「オレなら大事にする。おまえのこと待たせない、泣かせない」
突然の告白に頭がパニクるが、それ以前に確認しなければならないことがある。
「ま、待ってください。あのっ三瀬さんてっ僕のこと好きなんですかっ。さっき偏見はないって言ってたけど男とつき合える人なんですかっ?!」
ここは大事なところだ。
「好きだよ。バイトに入ってきた時からいいなって思ってた。好きになるのに男も女も関係ないと思ってるし、今までも男を好きになったことはある。まぁ……つき合えたことはなかったけど」
最後の言葉には少し辛さが滲み出ていて嘘ではないと感じさせた。
(男も女も大丈夫なタイプか……)
彼が真剣に告白してくれたので僕も応えなければと思った。
「三瀬さん、ありがとうございます。でも僕は松村さんのことが好きなので……ごめんなさい」
深々頭を下げる。
「うん。わかってる。わかってるけどぉ」
がしがしっと頭を掻き始めた。整えてあったスタイルが崩れる。
「あの人本当に気づいてないのか? けっこうだだ漏れなのに。だとしたら相当鈍感だし、もし気づいていたとしたら質悪すぎるんじゃないか?」
洸の中では陸郎は相当悪い人間になっているようだ。それは陸郎に申し訳ない気がする。それにこれは自分が勝手に始めたことで陸郎はそれにつき合ってくれてるだけなのだから。
「松村さんは……その兄のことが好きなんです……だから……」
だから、なんと言えばいいのか悩んでいると、
「そう、わかった」
という言葉が返ってきた。
彼はいろいろ納得がいったというような顔をしていた。
「でもオレがいること忘れないで。泣きたい時はオレのとこ来なよ」
「三瀬さん……」
「あ、そろそろ授業始まるな。じゃあ、オレ行くから」
彼はかなり雨脚の強い中を走り去って行った。
(あ……僕も行かなきゃ……)
そう思ったけどなんだか授業を受ける気分にはならずサボることにして、休憩スペースに戻った。
(なんだか思わぬ展開になってしまった……)
洸はやっぱりいい人なんだなと実感した。
(ほんと……つき合ったらすごく大切にしてくれそう……でも……)
陸郎のことを想いながら洸の告白に応えることなどできるわけがなかった。
* *
あれから特に洸から何か行動なり言葉なりがあるわけでもなく、大学での接触が少し多くなった程度だ。彼の気持ちに応えることのできない申し訳なさはあるものの、今まで通りに接するのが一番良いのではないかと思っている。
やがて梅雨も明け前期テストも無事終了し、夏休みに入った。
あの時洸に言ったことはでまかせとかではなく、陸郎とのちゃんとした約束だった。
「この埋め合わせはする。何がいい?」
「じゃあ、ドリーミング・パークに行きたい!」
「いいよ」
「え? いいの?」
ドリーミング・パークは夢と冒険に溢れた大人気のテーマパークだった。一日で周りきるのが大変なほど広い敷地内に様々なアトラクションや、キャラクターたちが楽しいダンスを繰り広げるパレード。
中学最後の卒業遠足で行ったきり訪れていない。僕のデートプランの最終形態。
まだまだ先だと思ってたけど。ダメもとで言ってみた。陸郎はあまり好きじゃないかもなと思いつつ。
だから「いいよ」と即答された時僕のほうが驚いてしまって思わず聞き返してしまった。
たぶんそれだけ今回のことを申し訳なく思っているのだろう。
それでもいい。
陸郎とテーマパークに行くのもこれが最初で最後かもしれないから。理由がなんであっても。
近年の暑すぎる夏のためドリーミング・パークも夏の間は普段よりも空いているらしいという噂だ。中学校以来行っていないので、実際行ってみても真偽のほどはわからなかった。
とりあえず熱中症にならないように水分補給を心がけ、陸郎の足が痛まないように休み休み回った。たくさんのアトラクションに乗れなくても、陸郎とここにいるということだけで僕は大満足だった。
陸郎にはまだ自分の気持ちを伝えられない。でも溢れて返って誰かに話したくなっていたのかもしれない。そこまでバレバレで偏見がないというなら洸に言ってもいいだろうと思った。
陸郎が本当は兄が好きで僕は「代わりにしていいから」と『恋人ごっこ』を持ちかけた、というのは言わないけど。
「あの人おまえの気持ちに気づいてないのか? どういうつもりで一緒にいるんだ?」
これはかなり陸郎への印象が悪くなっているようだ。
「松村さんは僕が好きなのは気づいてないと思いますよ。きっと兄のような気持ちでつきあってくれてるんだと思います」
洸はなんだか納得いかないというような顔をしている。『恋人ごっこ』のことは言えないから、僕らの関係について納得いくような説明ができない。それを言ったところで引かれるだけのような気もするけど。
「それに埋め合わせはちゃんとしてもらえますから。一緒に行きたかったテーマパークに連れて行ってもらえることになったんです」
じゃーんと両手を大きく広げて喜びを表したけれど。
彼はむっとした顔を崩さない。
それから徐ろに、
「オレにしなよ」
と言った。
「へっ?」
(オレにしなよ……オレにしなよ……?)
何度か頭の中で反芻して噛み砕いて、ようやく彼の言わんとすることを理解した。理解した上で冗談かと思ったが、洸はめちゃめちゃ真剣な顔をしていて到底冗談とは思えなかった。
「三瀬さん? それ本気で言ってます?」
「本気です」
何故か急に丁寧な言葉になる。
「オレなら大事にする。おまえのこと待たせない、泣かせない」
突然の告白に頭がパニクるが、それ以前に確認しなければならないことがある。
「ま、待ってください。あのっ三瀬さんてっ僕のこと好きなんですかっ。さっき偏見はないって言ってたけど男とつき合える人なんですかっ?!」
ここは大事なところだ。
「好きだよ。バイトに入ってきた時からいいなって思ってた。好きになるのに男も女も関係ないと思ってるし、今までも男を好きになったことはある。まぁ……つき合えたことはなかったけど」
最後の言葉には少し辛さが滲み出ていて嘘ではないと感じさせた。
(男も女も大丈夫なタイプか……)
彼が真剣に告白してくれたので僕も応えなければと思った。
「三瀬さん、ありがとうございます。でも僕は松村さんのことが好きなので……ごめんなさい」
深々頭を下げる。
「うん。わかってる。わかってるけどぉ」
がしがしっと頭を掻き始めた。整えてあったスタイルが崩れる。
「あの人本当に気づいてないのか? けっこうだだ漏れなのに。だとしたら相当鈍感だし、もし気づいていたとしたら質悪すぎるんじゃないか?」
洸の中では陸郎は相当悪い人間になっているようだ。それは陸郎に申し訳ない気がする。それにこれは自分が勝手に始めたことで陸郎はそれにつき合ってくれてるだけなのだから。
「松村さんは……その兄のことが好きなんです……だから……」
だから、なんと言えばいいのか悩んでいると、
「そう、わかった」
という言葉が返ってきた。
彼はいろいろ納得がいったというような顔をしていた。
「でもオレがいること忘れないで。泣きたい時はオレのとこ来なよ」
「三瀬さん……」
「あ、そろそろ授業始まるな。じゃあ、オレ行くから」
彼はかなり雨脚の強い中を走り去って行った。
(あ……僕も行かなきゃ……)
そう思ったけどなんだか授業を受ける気分にはならずサボることにして、休憩スペースに戻った。
(なんだか思わぬ展開になってしまった……)
洸はやっぱりいい人なんだなと実感した。
(ほんと……つき合ったらすごく大切にしてくれそう……でも……)
陸郎のことを想いながら洸の告白に応えることなどできるわけがなかった。
* *
あれから特に洸から何か行動なり言葉なりがあるわけでもなく、大学での接触が少し多くなった程度だ。彼の気持ちに応えることのできない申し訳なさはあるものの、今まで通りに接するのが一番良いのではないかと思っている。
やがて梅雨も明け前期テストも無事終了し、夏休みに入った。
あの時洸に言ったことはでまかせとかではなく、陸郎とのちゃんとした約束だった。
「この埋め合わせはする。何がいい?」
「じゃあ、ドリーミング・パークに行きたい!」
「いいよ」
「え? いいの?」
ドリーミング・パークは夢と冒険に溢れた大人気のテーマパークだった。一日で周りきるのが大変なほど広い敷地内に様々なアトラクションや、キャラクターたちが楽しいダンスを繰り広げるパレード。
中学最後の卒業遠足で行ったきり訪れていない。僕のデートプランの最終形態。
まだまだ先だと思ってたけど。ダメもとで言ってみた。陸郎はあまり好きじゃないかもなと思いつつ。
だから「いいよ」と即答された時僕のほうが驚いてしまって思わず聞き返してしまった。
たぶんそれだけ今回のことを申し訳なく思っているのだろう。
それでもいい。
陸郎とテーマパークに行くのもこれが最初で最後かもしれないから。理由がなんであっても。
近年の暑すぎる夏のためドリーミング・パークも夏の間は普段よりも空いているらしいという噂だ。中学校以来行っていないので、実際行ってみても真偽のほどはわからなかった。
とりあえず熱中症にならないように水分補給を心がけ、陸郎の足が痛まないように休み休み回った。たくさんのアトラクションに乗れなくても、陸郎とここにいるということだけで僕は大満足だった。


