兄の親友と恋人ごっこしています



* * 



 恋人としたい◯か条。
『キスをする』
 これはしたい……して欲しいと思った、陸郎に抱きしめられた時。
 そして。
 ノートに書いてぐちゃぐちゃと黒く塗りつぶした。
『セックスをする』
(あの時は『ごっこ』だし、ないないって思ったんだよね。でも今は……?)
 僕は改めてノートに綴った。

『セックスをする』



* *



 少しの間イルミネーションで彩られた並木道を手を繋いで歩いた。
 慰めか、同情か。それとも……。
 陸郎の真意はわからない。
 カフェラテと一緒。
 甘く、そしてほろ苦い時間だった。

 

* *



「今日はこんなとこにいた」

『あの時間』から休みが明けて月曜日。今日は陸郎は休みだ。
 今度会ったらどんな顔をすればいいんだろうか。
 もう好きじゃない振りなんてできないんじゃないだろうか。『ごっこ』じゃなくて、本当の『恋人』になりたいと思っていることを隠し通せるだろうか。
 そう思うと今日陸郎が休みということにほっとしてしまう。
 なので今声をかけてきたのは当然陸郎ではない。

「こんにちは、三瀬さん」
 棒読みのような調子で挨拶をする。
「相変わらずひどいなぁ。あの人と一緒の時とは大違い」
 別に洸のことが嫌いなわけではない。どちらかといえば好きなほう。気安く話せるからこそこういう態度を取ることもできる。
 洸はきょろきょろと周りを見渡した。
「今日はあの人いないんだな」
 そう言いながらベンチの僕の隣に座る。手には白いレジ袋。小さいながらも中身はぱんぱんな様子。
「今日はお休みですよ……ってか、よくこんなとこで遭遇しますね! 偶然ですか?」
 がさごそと袋からおにぎりを出しながら。
「偶然だよ~、ここって一番売店に近い休憩スペースだからね」
 今日は独りなのでカフェでも学食でもなく、売店で買って休憩スペースで食べていた。陸郎のいない時はだいたいそんな感じ。
「そうですか、まぁどっちでもいいですけど」
 僕もおにぎりを買っていたが洸が来る前に食べていて、デザートがわりの甘い系のパンを齧り始めた。
「ところでさ、どうだった? 土曜日」
 聞かれたくないことを聞いてきたなと思ったが、顔には出さない。
「とても素敵なお店でした。お洒落だし、料理も美味しかったし。三瀬さん、さすがですよ~」
 あまり突っこんでほしくないので軽く流すように答えた。
「そう? それは良かった」
 褒められて満更でもなさそうな笑顔を見せる。
(頼むからそれ以上は聞かないでよ)
「で、あの人はどうだった? 喜んでくれた?」
「あ~~」とだだ下がった声を思わず出しそうになったがどうにか食い止めた。
「え? どうしたの?」
 でもだだ下がった気持ちは顔に出てしまっていたようだ。
 「あ……りくろ……松村さんも、美味しいって喜んでました!」
 自然に言ったつもりなのに。
「本当に? 嘘だよね? 気に入らなかった?」
(何故かバレましたー)
 バイト先でも人のことをよく見ている洸にはわかってしまった。僕がどんな気持ちで言ったのか。『気に入らなかった』と思わせるには紹介した彼に申し訳なくて、僕は本当のことを言うことにした。
「はい。嘘です~ごめんなさーい。実は……」
 土曜日の出来事を掻い摘んで説明した。なるべく陸郎が悪く取られないように。

『そう、残念だったね!』とか軽く返してくれると思ったのに、洸は「それは酷いな」と呟いてから黙りこくった。顔を見れば真剣で、買った品物を物凄い勢いで食べ始めた。
(ええーっどうしたのっ?!)
 それはもう鬼気迫るような勢いだったので思わず凝視してしまった。彼は全部食べきり、仕上げにペットボトルの水を飲むとペットボトル以外のゴミをゴミ箱へ捨てに行った。
(なんか急に用事思いだしたとか? まあ、さっきの話があれで終わってくれてよかったけど)
 と呑気に洸の行動を眺めているとまたすごい勢いで戻って来て、
「おまえもう食べ終わったよなっ?!」
 確かに僕ももう食べ終わっていた。
「え、はい」
 そう答えるや否やがしっと僕の腕を掴んで立ち上がらせて、引き摺るような勢いで引っ張っていく。少し先に外側に出られるドアがあり、そこを開けると僕諸共外に出た。

 周りに窓のない軒下。
 洸は注意深く辺りを見回した。見える範囲には人はいなかった。それでも念には念を入れるようにぴったりと寄り添い、僕にしか聞こえないような声で、
「おまえの恋人酷くないか?」
 まずそんな一言を投下した。
(えっ?)
「おまえが誕生日を祝わってくれるってわかってて他に行くって。あとから来たからって全然間に合ってねぇだろ、それ」 
 静かだけどめちゃめちゃ怒りが伝わってくる。
(なんで、そんなに。ってかその前に)
「おまえ、他にも酷いことされてるんじゃないのか」
 顔がくっつきそうに間近に迫る。僕は一歩下がる。そしておずおずと「はい……」っと手を上げた。授業中に挙手する学生のように。洸はピッと僕を指差した。喋ってもいいらしい。
「あの……りく……松村さんは恋人じゃないです……なんでそう思うんですか……ってか、三瀬さん『そういう』の平気なんですか? 普通に浮かんでくるなんて」
「ん?」と洸が怪訝そうに片眉を上げた。
「え? 恋人じゃないのか? そんなはずないだろ、あんな距離感近くて。仮に違うとしても、温くんはあの人のこと好きなんじゃないのか? あとオレはそういうのには偏見はないよ」
 口を挟む間もなく一気に言い放った。