「松村さん、誰かとここに来たことあるんですか?」
別に恋人限定の場所ってわけじゃないし、普通に友だちと来ることもあるだろう。
(優雅と来たことあるとか言わないでよ)
「いや、普段あまりここまで来ようってヤツはいないよ。だからこそ『恋人たちの森』なんだろうけど」
確かにこの近辺には校舎もないので来るとしたらわざわざ来るってことになる。裏門を使う学生もいなくはないだろうが、ロータリーのある正門を使う学生がほとんどだ。
「俺はたまに独りで来るけど」
「独りで来るんですか」
なんとなくほっとする。
「なんで僕を」
「そうだな……案内人としては桜葉大のすべてを案内しなければと思って」
そう無表情で言ったのは入学式の時に大学の案内をしてくれたことだろう。
(え……っと。これは松村さん流の冗談かな? そんな無表情で?)
ふふっと笑いが込みあげてくる。
「ありがとうございます。とても素敵なところだと思います」
またその腕に抱きつきたくなったけど、人影が見えないとはいえ敷地内だ。さすがにそれはできないと思った。もしかしたら僕らからは見えない木々の間に、やっぱりこうやって二人で歩いている人たちがいるかもしれない。
(また学校外で会いたいなぁ)
「あの……松村さん、今度デートしませんか?」
本当はかなりどきどきしているけど軽い気持ちで言ってる体を装う。
「デート?」
怪訝そうな顔をする。それはそうだろう。陸郎のほうはまだ『友だち』設定だ。
(でも友だち同士でもデートって言い方しないかな? 女の子たちがそういうふうに言ってるのを聞いたことあるけど)
「いいよ」
「えっ? いいんですかっ?」
意外にあっさり返事が返ってきたことに動揺したけど、それに気づかれないようにした。
(こういうことに慣れてるフリしなきゃ。全然慣れてないけどー)
「ああ。俺デートとかしたことないから、温くん考えてくれる? 決まったらラインして」
「わかりました。じゃあ僕考えますね」
慣れてるフリ慣れてるフリと、心で念じながら余裕のある笑みを浮かべるが果たして上手くいってるのだろうか。
「そろそろ戻る? 腹減ってきたし」
「ですねー」
来たこと時の一.五倍くらいの早さで戻りながら、頭の中で何時にしよう何をしようどこに行こうと考えていた。
* *
「テーマパークとか行ってみたいな」
ネズミのキャラクターが有名な某テーマパークを思い浮かべる。
しかし、最初のデートにしては張り切り過ぎてるかなと思うし、陸郎とテーマパークってなんかしっくりこない。いつかは行ってみたいとは思うけど。
海とか山とか行っても何をするのか想像がつかない。水族館なんかはいいかも、などと散々悩み。
「やっぱり……無難に映画かな」
* *
時刻は午後六時半。
リビングのソファーに座っている。テーブルの上には、帰ってきて作ったアイスココアと駅前で買ったドーナツ。夕飯前だけど小腹が空いていた。それを齧りながらあれこれ考えていた。
家人はまだ誰も帰っていないのをいいことに思ったことを口にする。
『松村さん今日ありがとうございました』
『今度映画観に行きませんか?』
映画を観ると決め、さっそく陸郎にラインする。
(もう家に帰ってるかな)
二、三分して既読がつき『いいよ』と返信がくる。
『いつにしますか?』
『松村さん、観たいものありますか?』
『温くんが決めていいよ』
陸郎はあくまで受け身だ。仕方がない、デートをしたいのは僕のほうだから。
それからしばらくやり取りをして、ゴールデンウィーク中は避け、明けて土曜日に行くことに決めた。
午前十一時に駅前で待ち合わせ。それから昼食を食べて駅近くの映画館へ。何を観るかは行ってから決めることにした。男同士のせいかかなり雑なプランだがこういうのも楽しいかもしれない。
やり取りしている間にかなり気分があがってきた。
『じゃあそういうことで』
『楽しみにしてます!』
『おやすみなさい』
『おやすみ』
僕はもう一度『おやすみ』のスタンプを送りラインを閉じようとした瞬間。
「松村?」
背後から声がした。
「おわっ」
驚いて変な声が飛びだし思わずスマホを落としそうになった。
いつの間にか優雅が帰ってきていてリビングにいたのだ。
「お兄ちゃん帰ってたんだ。ってか勝手に覗かないでよ」
どこから見られていたのかどきどきする。
「『おかえり』くらい言えば」
内容には触れなかったからどうなのかわからなかった。それにしても上から目線な言い方にはちょっとむっとする。
「お帰り。今日も帰って来ないと思った」
ちょっと嫌味を言ってやる。実際ゴールデンウィークに入ってから優雅は家に帰っていない。大学も行っているのかわからなかった。
「ごめんね、帰ってきて」
嫌味に嫌味が返ってくる。
「温、お前陸と連絡取り合ってんの? それに今日陸と一緒にいたろ?」
「え?」
「恋人たちの森」
まるで暗号のような一言。
「一緒に歩いているのを見かけた」
なるほどと思った。やっぱりあの森には他にも人がいて、木々がそれを隠していることもあるのだ。
(誰もいないように見えたからって腕組まなくてよかったよ)
そうほっとした。でも逆に優雅にだったら見せつけてもよかったかな、という悪魔的な考えも浮かんできた。
「へぇお兄ちゃんもいたんだ、矢尾さんと?」
矢尾静留は優雅の今の彼女だ。高校まではずっと陸郎と一緒にいて彼女の気配はまったく感じなかったのに、実は大学に入ってからは静留で三代目だ。何故か学年が変わるごとに変わっている。
「そうだけど。っておれのことはどうでもいいんだよ。お前陸と会ったりしてるの?」
別に恋人限定の場所ってわけじゃないし、普通に友だちと来ることもあるだろう。
(優雅と来たことあるとか言わないでよ)
「いや、普段あまりここまで来ようってヤツはいないよ。だからこそ『恋人たちの森』なんだろうけど」
確かにこの近辺には校舎もないので来るとしたらわざわざ来るってことになる。裏門を使う学生もいなくはないだろうが、ロータリーのある正門を使う学生がほとんどだ。
「俺はたまに独りで来るけど」
「独りで来るんですか」
なんとなくほっとする。
「なんで僕を」
「そうだな……案内人としては桜葉大のすべてを案内しなければと思って」
そう無表情で言ったのは入学式の時に大学の案内をしてくれたことだろう。
(え……っと。これは松村さん流の冗談かな? そんな無表情で?)
ふふっと笑いが込みあげてくる。
「ありがとうございます。とても素敵なところだと思います」
またその腕に抱きつきたくなったけど、人影が見えないとはいえ敷地内だ。さすがにそれはできないと思った。もしかしたら僕らからは見えない木々の間に、やっぱりこうやって二人で歩いている人たちがいるかもしれない。
(また学校外で会いたいなぁ)
「あの……松村さん、今度デートしませんか?」
本当はかなりどきどきしているけど軽い気持ちで言ってる体を装う。
「デート?」
怪訝そうな顔をする。それはそうだろう。陸郎のほうはまだ『友だち』設定だ。
(でも友だち同士でもデートって言い方しないかな? 女の子たちがそういうふうに言ってるのを聞いたことあるけど)
「いいよ」
「えっ? いいんですかっ?」
意外にあっさり返事が返ってきたことに動揺したけど、それに気づかれないようにした。
(こういうことに慣れてるフリしなきゃ。全然慣れてないけどー)
「ああ。俺デートとかしたことないから、温くん考えてくれる? 決まったらラインして」
「わかりました。じゃあ僕考えますね」
慣れてるフリ慣れてるフリと、心で念じながら余裕のある笑みを浮かべるが果たして上手くいってるのだろうか。
「そろそろ戻る? 腹減ってきたし」
「ですねー」
来たこと時の一.五倍くらいの早さで戻りながら、頭の中で何時にしよう何をしようどこに行こうと考えていた。
* *
「テーマパークとか行ってみたいな」
ネズミのキャラクターが有名な某テーマパークを思い浮かべる。
しかし、最初のデートにしては張り切り過ぎてるかなと思うし、陸郎とテーマパークってなんかしっくりこない。いつかは行ってみたいとは思うけど。
海とか山とか行っても何をするのか想像がつかない。水族館なんかはいいかも、などと散々悩み。
「やっぱり……無難に映画かな」
* *
時刻は午後六時半。
リビングのソファーに座っている。テーブルの上には、帰ってきて作ったアイスココアと駅前で買ったドーナツ。夕飯前だけど小腹が空いていた。それを齧りながらあれこれ考えていた。
家人はまだ誰も帰っていないのをいいことに思ったことを口にする。
『松村さん今日ありがとうございました』
『今度映画観に行きませんか?』
映画を観ると決め、さっそく陸郎にラインする。
(もう家に帰ってるかな)
二、三分して既読がつき『いいよ』と返信がくる。
『いつにしますか?』
『松村さん、観たいものありますか?』
『温くんが決めていいよ』
陸郎はあくまで受け身だ。仕方がない、デートをしたいのは僕のほうだから。
それからしばらくやり取りをして、ゴールデンウィーク中は避け、明けて土曜日に行くことに決めた。
午前十一時に駅前で待ち合わせ。それから昼食を食べて駅近くの映画館へ。何を観るかは行ってから決めることにした。男同士のせいかかなり雑なプランだがこういうのも楽しいかもしれない。
やり取りしている間にかなり気分があがってきた。
『じゃあそういうことで』
『楽しみにしてます!』
『おやすみなさい』
『おやすみ』
僕はもう一度『おやすみ』のスタンプを送りラインを閉じようとした瞬間。
「松村?」
背後から声がした。
「おわっ」
驚いて変な声が飛びだし思わずスマホを落としそうになった。
いつの間にか優雅が帰ってきていてリビングにいたのだ。
「お兄ちゃん帰ってたんだ。ってか勝手に覗かないでよ」
どこから見られていたのかどきどきする。
「『おかえり』くらい言えば」
内容には触れなかったからどうなのかわからなかった。それにしても上から目線な言い方にはちょっとむっとする。
「お帰り。今日も帰って来ないと思った」
ちょっと嫌味を言ってやる。実際ゴールデンウィークに入ってから優雅は家に帰っていない。大学も行っているのかわからなかった。
「ごめんね、帰ってきて」
嫌味に嫌味が返ってくる。
「温、お前陸と連絡取り合ってんの? それに今日陸と一緒にいたろ?」
「え?」
「恋人たちの森」
まるで暗号のような一言。
「一緒に歩いているのを見かけた」
なるほどと思った。やっぱりあの森には他にも人がいて、木々がそれを隠していることもあるのだ。
(誰もいないように見えたからって腕組まなくてよかったよ)
そうほっとした。でも逆に優雅にだったら見せつけてもよかったかな、という悪魔的な考えも浮かんできた。
「へぇお兄ちゃんもいたんだ、矢尾さんと?」
矢尾静留は優雅の今の彼女だ。高校まではずっと陸郎と一緒にいて彼女の気配はまったく感じなかったのに、実は大学に入ってからは静留で三代目だ。何故か学年が変わるごとに変わっている。
「そうだけど。っておれのことはどうでもいいんだよ。お前陸と会ったりしてるの?」


