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「やっぱり送って貰えばよかったなぁ」
僕は家に帰ってすぐ後悔した。変にもやもやして断ってしまった。
(自分で優雅の代わりでいいって言ったんだし、松村さんが実際何を思っていても、自分が恋人気分になれればそれでいいんだ……)
「どうせ、長くて一年もない」
妙にしんみりした気持ちになったけど。
「次機会合ったら今度は送ってもらお」
ころっと気分を変え箇条書きに『家まで送って貰う』と書き加えた。
* *
ゴールデンウィークとはいえ平日は普通に授業がある。しかし教授都合の休講も多いし、二年生以降は自主休講も多いらしい。
(二、三限休講か~。四限がなかったら帰るのに)
一限を終え、まだ十時台だ。
(お昼には早いけどカフェで時間潰そうかな)
いつもの甘い飲み物しようかと考えてたが、ふと思いついて選んだのはホットカフェラテだ。今日はテラス席ではなく店舗内の一番奥の角に座る。壁は全面ガラス張りで外の景色がよく見える。
テーブルの上に載ったカフェラテを眺める。
コーヒーは高校時代に一回飲んで苦手だと思ってから飲んでいない。
(これならもしかしたらイケるかも。だって好きな人が好きなもの飲めるようになりたいよね。ブラックコーヒーはハードル高いから、まずはこれから……)
一口飲んでほろ苦い味が口に広がる。僕は念のために貰ってきていた二本のスティックシュガーを両方開け、ザラザラーザラザラーとカップに入れてかき混ぜた。
恐る恐るまた一口飲む。
(よし! これならイケる!)
ぐっと握り拳を作ったところで、
「温くん」
と声をかけられた。
「松村さん」
(わ、変なとこ見られてないよね)
「きみも休講?」
「はい、二、三限休講です。松村さんもですか?」
「そう、俺は二限だけ。四限はあるんだ? 空き時間長いね。ここいい?」
彼はいつものようにホットコーヒーを手にしていた。
「もちろんです!」
今日も昼食に会う約束は取りつけていたけど、陸郎のほうからそう言ってくれるなんて嬉しすぎる。
「じゃ、おじゃまします」
クスッと笑って向かいの席に腰を下ろした。あまり表情を変えない中で、ほろっと零れるような笑い顔が好きだった。胸がきゅっとなる。
「珍しいね、カフェラテ。コーヒー苦手じゃなかった?」
一口飲んで涼しい顔で訊ねる。
(松村さんの好きなもの飲めるようになりたいなんて、言えな……いや、ここは『恋人』感を出すために言うべきか?)
「松村さんがいつも飲んでるから、たまには飲んでみようかなーとか思って」
結局中途半端な言い訳になってしまう。
「別に無理しなくてもいいんじゃないか? 砂糖二本も入れてたし」
「え?」
(わー見られてたのかー)
「ははは」わざとらしく乾いた笑いを漏らす。
「ほんとに甘いのが好きなんだね」
「甘いのが好きといいますか、苦いのが苦手といいますか」
陸郎はふうんと鼻を鳴らしてまた一口コーヒーを飲む。
居酒屋に行ってから初めて会う。もしこの間腕を組んだことで引かれてたらどうしょうかと少しの心配はあったけど、どうやら大丈夫らしい。
しかも。
(なんか……ちょっと雰囲気よくない? 陸郎のほうからけっこう話しかけてくれるなんて)
態度が軟化しているように思えた。
「ここでずっと暇つぶしするのか?」
また話しかけてくれた。ずっと黙っていることも多いのに。
「あ、そうですね。お昼は食堂のほうにいきますか?」
昼食は約束していたのでそう訊ねたみる。
「ああ、昼は温くんの好きなほうでいいよ。それ飲んだらちょっと散歩でもする?」
「散歩ですか?」
「いや?」
まさか陸郎のほうから誘われるなんて思わなかった。
(嫌なわけないじゃないですかーっ)
叫びたくなるのを抑えて。
「いいですよ」
つき合ってあげますよ的に、にっと笑う。でも急いでカフェラテを飲んでしまったから嬉しいのがわかってしまったかもしれない。
(甘っ)
さすがに甘く感じたけどそれは今の気持ちそのままだった。
桜葉大は山へと行く途中にある。そのため大学の敷地内自体にもかなりの傾斜がある。正門から裏門へと登って行く感じだ。裏門の横に広がるのは敷地外との境がわからなくなるような森だ。
「こんなところあるんですね。桜葉大広すぎですよ、まだ全部回りきれてません」
初夏といってよいくらいの陽射しがところどころ射しこんできて、きらきらと緑が綺麗な木々のなか、陸郎と並んで歩く。
陸郎は街中よりこういうところが似合っているような気がする。
「ここ、恋人たちの森っていうんだって」
「恋人たちの森? なんか、だ……っ」
思わず「ださい」と言いそうになり口を噤む。
「あー、ロマンチックですね」
慌てて言い直したけど陸郎にはバレてしまったのか、くすっと笑われる。
「大学の敷地になる前からある森だからけっこう昔の人がつけたんじゃないかな? ここ、あまり人来ないから恋人たちの穴場らしい。外の人も入りこんでることもあるみたいだよ」
「え、そうなんですか?」
高校までと違って大学内に学生以外が入りこんても判断しづらいかもしれない。
「ちなみにカフェや食堂にもいる」
「ええーっっ」
二人で笑いながら考えていたことは、なんで僕をここに連れて来たのかということ。
『恋人たちの森』――もしかして少しは僕のことを意識してと、どきっとしたけど。
(いや、違うかなー。優雅と歩きたかったとか?)
自分の考えにちょっと落ちこんだ。


