「……まぁ、二、三回くらいだけど」
答えるのに少し間があった。その間に彼は何を考えたのか。
(っていうかっ学校外でも会ってたんだっ学食かカフェしか行ってないみたいな言い方だったのにっ)
だから今間があったのかもしれない。ちょっと面白くない気持ちになったけど、もちろん顔には出さない。
「あ、そうなんですね」
そう相槌を打ったものの次の言葉が出てこない。
その時。
「お待たせしました~」
という高いトーンの声が頭上から降ってきた。
「唐揚げと海鮮ピザでございます」
ドンドンとテーブルの上に置かれる。
(天の助け! グッドタイミングだよ、お兄さん!)
僕は心の中で拝んだ。
「あ、すみません。ウーロンハイを。温くんは?」
先に来ていたグレープフルーツサワーはサワグラの四分の一になっていた。気づけば僕もほとんど残っていない。
「じゃあ、オレンジジュースを」
「はいっよろこんで!」のかけ声と共にスタッフは去って行った。
「美味しそうっ食べましょうか」
さっきまでのことはなかったことにした。陸郎も何も言わずに軽く微笑んで手を伸ばした。
「あ~もう僕お腹いっぱいですよ」
陸郎の隣を歩きながらお腹を擦る。
午後十時を回り僕らは居酒屋をあとにした。ちょうどよいバスがなく徒歩で帰ることにした。
ぽつんぽつんと話しかけながら僕は考える。
(手を繋ぐ? 腕を組む? どうやろうかな。ノリで腕を組んだほうが簡単かな? 手を繋ぐほうがハードル高そう)
僕は腕を組む機会を伺っていた。駅近くは明るく人も多いのでさすがに無理かと思う。住宅街になると格段に暗くなり、時間帯もあって歩いている人もまばらだ。
歩いて三十分弱。そろそろ陸郎の自宅近くだろうか。正確な場所はわからないけど、僕の家よりも駅から手前だということだけは知っていた。
「松村さんの家ってどこなんですか? 僕んちより手前にあるんですよね?」
「よく知ってるね」
何故知ってるかって? それは優雅と家の前で別れた陸郎が来た道を戻って行くのを見ていたからだ。
そんなことは言えるはずもなく「ふへへ~」と変な笑いで誤魔化した。
陸郎が百メートルくらい先を指差す。
「あそこの街灯の下を右に曲がるんだ」
そう言われて焦る。
(あともう少ししかないっ)
僕はさっと辺りを見渡した。運よく近くには誰もいない。
「松村さんっ今日楽しかったです。また一緒に行ってくださいねっ」
軽い口調でそう言って、さっきから時々ぶつかり合っている陸郎の右腕を軽く掴み「えいっやーっ」という勢いでその腕に自分の左腕を絡ませた。
腕を組むというよりは縋りついたという形が近いかもしれない。
(あ~お酒で飲んでたら酔った勢いって形でもっと楽にできたかも、なんだけどー)
「温くん」
陸郎が驚いたように僕の名前を呼んだが、気にせず絡めた腕にぶら下がるようにして下から陸郎の顔を覗きこんだ。
「今度はどこがいいかなー」
あざとく微笑んでみせる。
「今度は温くんの行きたいところでいいよ」
最初は驚きを見せたものの特に振り払う素振りもない。
(松村さん、こういうの平気なのかな?)
そう考えていたら不意にとある光景が脳裏に浮かできた。
(そうだー、優雅もたまに腕組んで帰って来てたわー)
だからこそ二人の関係が怪しいと思っていたんだけど。
笑みが消えじっと彼の顔を見つめる。
(まさか、優雅のこと思いだしてるんじゃ……ってか、優雅の代わりにしろって言ったの僕だしっ)
「どうしたの? 温くん」
「いえ、何でも! えっと、じゃあ次行くとこ考えておきますね」
複雑な気持ちを押し隠してわざとらしいくらいに明るく答えた。
自分の中のもやもやが消えずについぎゅっと陸郎の右腕を抱きしめて自分の額を擦りつけると、ふわぁんと陸郎の香りが鼻を擽った。
酒と煙草と彼自身の体臭の混ざり合った、けして不快ではない匂い。
(煙草……そういえば何度か席を立っていたっけ。トイレにしては回数多いと思っていたけど)
居酒屋では向かい合って座っていたし、いろいろな匂いが立ちこめていて気づかなかった。
「松村さん、煙草吸うんですね」
上目遣いに訊ねる。
「あ、ごめん。煙草の臭い苦手だった?」
「苦手……というか、嗅ぎ慣れてないから」
「……ああ、優は吸わないもんな……」
独り言のようにぽつんと零す。
(また優雅かよ)
それは聞かなかったことにする。
「家では誰も吸わないから。あ、でも松村さん学校では全然臭わないですよね」
入学式の日にカフェで話した時もかなり密着していたけど煙草の臭いはしなかったはず。
「自室以外では吸わないから。でも飲んでる時はやっぱり吸いたくなるな」
「ふーん。でも……嫌ではないです」
「そう? なら良かった」
そう、嫌ではない。
陸郎が煙草を吸っているのは意外だったけど、何だかぐっと大人の男性感が増したような気がした。
そう意識して急に心拍数が上がる。
(なんかめちゃめちゃドキドキしてきた)
歩く度に擦れて香ってくる陸郎の匂いにくらくらするような気がした。
「あ、ここですね」
ゆっくり歩いたけど分かれ道に到着した。僕は名残り惜しげに腕を離した。
「ああ」と陸郎は頷いたがそのまま立ち止まっている。
「……送って行こうか?」
「え」
思わぬ申し出に嬉しさがこみ上げてくる。
でも。陸郎に送られ帰ってくる優雅が思い浮かんできて。
(松村さんのなかでは誰が横を歩いてるんだろう……)
「あ、大丈夫です。僕男なんで全然。走って帰りますから」
早口で行って「じゃ」と手を上げる。
陸郎もあっさりと「そう」と言って背を向けた。
答えるのに少し間があった。その間に彼は何を考えたのか。
(っていうかっ学校外でも会ってたんだっ学食かカフェしか行ってないみたいな言い方だったのにっ)
だから今間があったのかもしれない。ちょっと面白くない気持ちになったけど、もちろん顔には出さない。
「あ、そうなんですね」
そう相槌を打ったものの次の言葉が出てこない。
その時。
「お待たせしました~」
という高いトーンの声が頭上から降ってきた。
「唐揚げと海鮮ピザでございます」
ドンドンとテーブルの上に置かれる。
(天の助け! グッドタイミングだよ、お兄さん!)
僕は心の中で拝んだ。
「あ、すみません。ウーロンハイを。温くんは?」
先に来ていたグレープフルーツサワーはサワグラの四分の一になっていた。気づけば僕もほとんど残っていない。
「じゃあ、オレンジジュースを」
「はいっよろこんで!」のかけ声と共にスタッフは去って行った。
「美味しそうっ食べましょうか」
さっきまでのことはなかったことにした。陸郎も何も言わずに軽く微笑んで手を伸ばした。
「あ~もう僕お腹いっぱいですよ」
陸郎の隣を歩きながらお腹を擦る。
午後十時を回り僕らは居酒屋をあとにした。ちょうどよいバスがなく徒歩で帰ることにした。
ぽつんぽつんと話しかけながら僕は考える。
(手を繋ぐ? 腕を組む? どうやろうかな。ノリで腕を組んだほうが簡単かな? 手を繋ぐほうがハードル高そう)
僕は腕を組む機会を伺っていた。駅近くは明るく人も多いのでさすがに無理かと思う。住宅街になると格段に暗くなり、時間帯もあって歩いている人もまばらだ。
歩いて三十分弱。そろそろ陸郎の自宅近くだろうか。正確な場所はわからないけど、僕の家よりも駅から手前だということだけは知っていた。
「松村さんの家ってどこなんですか? 僕んちより手前にあるんですよね?」
「よく知ってるね」
何故知ってるかって? それは優雅と家の前で別れた陸郎が来た道を戻って行くのを見ていたからだ。
そんなことは言えるはずもなく「ふへへ~」と変な笑いで誤魔化した。
陸郎が百メートルくらい先を指差す。
「あそこの街灯の下を右に曲がるんだ」
そう言われて焦る。
(あともう少ししかないっ)
僕はさっと辺りを見渡した。運よく近くには誰もいない。
「松村さんっ今日楽しかったです。また一緒に行ってくださいねっ」
軽い口調でそう言って、さっきから時々ぶつかり合っている陸郎の右腕を軽く掴み「えいっやーっ」という勢いでその腕に自分の左腕を絡ませた。
腕を組むというよりは縋りついたという形が近いかもしれない。
(あ~お酒で飲んでたら酔った勢いって形でもっと楽にできたかも、なんだけどー)
「温くん」
陸郎が驚いたように僕の名前を呼んだが、気にせず絡めた腕にぶら下がるようにして下から陸郎の顔を覗きこんだ。
「今度はどこがいいかなー」
あざとく微笑んでみせる。
「今度は温くんの行きたいところでいいよ」
最初は驚きを見せたものの特に振り払う素振りもない。
(松村さん、こういうの平気なのかな?)
そう考えていたら不意にとある光景が脳裏に浮かできた。
(そうだー、優雅もたまに腕組んで帰って来てたわー)
だからこそ二人の関係が怪しいと思っていたんだけど。
笑みが消えじっと彼の顔を見つめる。
(まさか、優雅のこと思いだしてるんじゃ……ってか、優雅の代わりにしろって言ったの僕だしっ)
「どうしたの? 温くん」
「いえ、何でも! えっと、じゃあ次行くとこ考えておきますね」
複雑な気持ちを押し隠してわざとらしいくらいに明るく答えた。
自分の中のもやもやが消えずについぎゅっと陸郎の右腕を抱きしめて自分の額を擦りつけると、ふわぁんと陸郎の香りが鼻を擽った。
酒と煙草と彼自身の体臭の混ざり合った、けして不快ではない匂い。
(煙草……そういえば何度か席を立っていたっけ。トイレにしては回数多いと思っていたけど)
居酒屋では向かい合って座っていたし、いろいろな匂いが立ちこめていて気づかなかった。
「松村さん、煙草吸うんですね」
上目遣いに訊ねる。
「あ、ごめん。煙草の臭い苦手だった?」
「苦手……というか、嗅ぎ慣れてないから」
「……ああ、優は吸わないもんな……」
独り言のようにぽつんと零す。
(また優雅かよ)
それは聞かなかったことにする。
「家では誰も吸わないから。あ、でも松村さん学校では全然臭わないですよね」
入学式の日にカフェで話した時もかなり密着していたけど煙草の臭いはしなかったはず。
「自室以外では吸わないから。でも飲んでる時はやっぱり吸いたくなるな」
「ふーん。でも……嫌ではないです」
「そう? なら良かった」
そう、嫌ではない。
陸郎が煙草を吸っているのは意外だったけど、何だかぐっと大人の男性感が増したような気がした。
そう意識して急に心拍数が上がる。
(なんかめちゃめちゃドキドキしてきた)
歩く度に擦れて香ってくる陸郎の匂いにくらくらするような気がした。
「あ、ここですね」
ゆっくり歩いたけど分かれ道に到着した。僕は名残り惜しげに腕を離した。
「ああ」と陸郎は頷いたがそのまま立ち止まっている。
「……送って行こうか?」
「え」
思わぬ申し出に嬉しさがこみ上げてくる。
でも。陸郎に送られ帰ってくる優雅が思い浮かんできて。
(松村さんのなかでは誰が横を歩いてるんだろう……)
「あ、大丈夫です。僕男なんで全然。走って帰りますから」
早口で行って「じゃ」と手を上げる。
陸郎もあっさりと「そう」と言って背を向けた。


