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週が明けて月曜日は陸郎は休みだ。そして今日は心待ちにしていた火曜日。
どぎまぎしていた先週に比べて今日は少しわくわくしている。
土曜日にあのか条書きを書き始めて、あの後追加したことがある。
『毎日ラインする』だ。
恋人同士っぽくない? って自分では思ってる。陸郎にはうざがられるかもしれないけど。でも僕は『恋人ごっこのつもりでいる』って言ってあるから。いろいろ経験豊富なフリをしてぐいぐい押していくつもり。でも僕が陸郎のことを好きなことは知られないように気をつけないと。
陸郎は基本あまりしゃべらない。
入学式の日のことはどうやら特別だったらしい。陸郎自身ずっと胸に溜めこんでいたものを僕にいろいろ突っつかれたせいで吐きだしてしまったのか。
その後の二日間は今みたいに黙々と食事をし、コーヒーを飲んでいる。僕が話しかけたことに対しては答えてくれる。家で見ていた優雅との関係と同じだ。
今日の僕はカフェのランチにオレンジジュース。相変わらず女子か子どもみたいだ。コーヒーは苦くて飲めない。でもコーヒーを飲んでいる陸郎が格好良くて一緒に飲めるようにしたいなと思う。
「松村さん、お誕生日いつですか?」
食事を終えジュースを一口飲むと『陸郎を知ろう』プロジェクトを開始した。
(これくらいは恋人としては基本たよね。というか、友だちでも聞いたりするよね)
「六月二十八日」
「血液型は何型ですか?」
「AB型」
(六月二十八日、AB型かぁ。あとで何座かとか相性とか調べてみよ)
ほくほくしていると、
「温くんは十月三十日だよね」
と意外なことを言ってきた。
「え? 僕の誕生日知ってるんですか?」
(なにそれ、めちゃめちゃ嬉しい)
そう思ったけど。その出どころは当然……。
「毎年優が騒いでたからさ」
クスッと笑う。
「今年はプレゼント何にするかーとか、部活早く終わんねぇかなーとか」
その時のことを思いだしているのか、すごく優しい表情をする。
「あれで意外と弟思いなんだな」
自分を振った男の話をそんな顔をしてするのかと思うと、ちりちり胸が痛んだ。
「そうですねー」
と気のない返事を返す。確かにそういうところもある。全部が全部嫌な部分じゃないし、基本的には嫌いとかでもない。
だけど。
(優雅の話はもういいよっ)
僕は急いで次の質問をした。
「松村さんは兄弟いるんですか?」
「高二の妹がいるよ」
「妹さんいるんですか」
心の中で『なんかそれっぽい』と微笑ましくなった。陸郎はぶっきらぼうに見えるけど面倒見がよさそうだし、きっといいお兄ちゃんなんだろうなと思った。
「きっといいお兄さんなんでしょうね」
と言うとちょっと照れたような顔をする。
「さあ、どうだろうな。顔合わせる度につんつんしてるみたいだけど」
そう言いながらもすごく優しそうな顔をするのはやっぱりいい兄なんだろうと思うし、たぶん本当はつんつんしている妹も陸郎のことが好きなんだろうとほっこりする。僕だったらこんなイケメンで無口だけど優しく見守ってくれそうな兄は自慢だ。
「ふ~ん」
僕の声も自然と嬉しさが滲む。
(さて、他に聞くことは)
スマホのメモ機能のページを開く。
「えーと、身長と体重は?」
「今日はずいぶんと質問攻めだね」
不思議そうに見つめてくる。
「だって『恋人』のことはいろいろ知りたいですよね。松村さんは『友だち』からだっていうけど僕は『恋人』のつもりでいますから」
そう言ってからはっとして。
「あ、『ごっこ』ですけどね」
あくまで『ごっこ』のスタンスを崩さない。陸郎の顔が複雑そうに変わった。
それでも質問には答えてくれた。
「身長百八十二、体重は六十九。陸上やってた頃よりちょっと落ちたかな」
「そういえば、そうですね。前よりちょっとひょろっとして見えるかも」
「よく覚えてるね」
「え、なんとなくなんとなくね」
慌てて手を振って軽く否定する。
(いけないいけない、松村さんのこと昔からめっちゃ気にしているように思われちゃう)
「松村さんもう内定取ったんですよね、すごいなぁ」
唐突に話題を変えたけど、いろいろ知りたいって言ったから不自然じゃないはず。
「別にすごくないだろ? これくらいみんなやってるーー優だって大手の企業コンサルタント会社の内定取ってるじゃないか」
「え、そうなの?」
全然知らなかったけど、それよりもちょっとした話題で兄の名が出てくるのにもやる。
「さすがに優秀だよな」
「松村さんだって優秀じゃないですか、あの中高一貫校に通ってたんだから」
自分の代でも何人か受けていたけど一人二人しか合格していなかった。
「ああいうとこって頭の問題だけじゃないよ、実は。学校が欲しいと思う『何か』がなきゃ。俺の場合たぶん陸上だろ。あそこスポーツの盛んなところだったし。優はどっちもいけてたよ」
(もうっなんで優雅のことばっか褒めるのさ)
僕はイラッとしてずずーっと一気にジュースを飲みきった。
「でもお兄ちゃん、大学は両親が望んでいるようなとこじゃなかったし、大学生になったら別人みたいに遊び歩いてるから両親ももう諦めてますよ」
つい嫌味を言ってしまったけど。そんな大学に自分――はともかく、陸郎も通っているというのに。少し気不味い気持ちになった。
「あ、ごめんなさい」
「いや……」
その短い返しにはどんな心情が隠れているのか。やっぱり優雅のことを考えているのだろうか。


