恋と焦燥のロードマップ

あんなに甘くて、心臓が持ちそうにないほどの夜を過ごしたというのに、月曜日のオフィスに現れた神谷くんは、またしても完璧な「氷の王子」に逆戻りしていた。
フロアですれ違っても、彼は「お疲れ様です」と短く一礼するだけ。視線が合っても少しも揺らがず、いつもの冷徹なポーカーフェイスで通り過ぎていく。営業二課のデスクでテキパキと電話をこなし、周囲の女子社員から「やっぱり神谷くんって格好いいよね、冷たいけど」と噂されている姿を横目に、私の胸の奥はぐるぐるとかき乱されていた。
(あんなにドキドキして、敬語まで崩されたのって…私だけだったの……?)
まるで自分だけが舞い上がっているようで、恥ずかしさと焦りが波のように押し寄せる。仕事をしていても、気がつけば彼の背中を目で追ってしまい、完全に神谷くんのことで頭がいっぱいになっていた。
そんな生き殺しのような状態のまま迎えた、水曜日の午後。営業事務の古い契約書ファイルを整理するため、私はフロアの奥にある資料室へと向かった。薄暗く、背の高いスチール棚が並ぶ資料室は、普段は誰も来ない静かな場所だ。
重いファイルを抱えて棚に並べていると、背後でカチャリとドアが閉まる音がした。
振り返ると、そこに神谷くんが立っていた。手には営業用のファイルを持っている。彼はドアのノブに手をかけたまま、すっと中に入り、私の逃げ道を塞ぐようにゆっくりと歩み寄ってきた。
「か、神谷くん? 資料探し?」
私が動揺を隠すように声をかけると、神谷くんは何も答えず、ただ真っ直ぐに距離を詰めてくる。私の背中がスチール棚にコツンと当たった瞬間、彼は私の顔のすぐ横、棚の支柱に大きな手を突いた。