闇から出た光

エレベーターの階数表示が3,4,5と変化し、上昇していく。
狭い「箱」の中でボクと彼の2人だけ。
あんな出来事があったばかりでボクはまだ不安だった。
その不安を少しでも和らげようと彼の服の裾を握りしめていた。
心臓もバクバクと鳴っている。
決して病気が再発したわけではない。
ボクの心臓が力強く動いていることが嬉しくもあり、
また、緊張でドキドキとしているのを少しでも落ち着かせたくもあり、頭の中が大混乱だった。
彼と一緒ならどんな困難も乗り切れる自信はあるが、やっぱり怖いものは怖い。
ヤツらと面と向かって対峙してしまったとき、どうしたらいいのか答えはでない。
そんな風に考えに耽っていると、

【チーーーーーン】

と、屋上までボクたちを運んできたエレベーターが鳴り、ドアがゆっくりと開く。
そこには屋根付きの庭園が広がっていた。
人の気配はない。
恐る恐る、エレベーターの箱から外に出てみる。
こんな状況でもなければ、この庭園で彼とデート!なんて嬉しい展開が待っていただろう。
景観もいいし、そよ風も気持ちいいのでのんびり座るだけでもきっと楽しかったことだろう。
だが、今はこんな状況だ。
純粋に景観を楽しめるわけがない。
彼に手を引かれながら庭園を後にすると遠くの方に非常用エレベーターが目に入る。
簡易的なもので人が1人入るのがやっとな狭さだ。
他に脱出できそうなツールは…見当たらない。
すると彼が言う。

「とりあえずあのエレベーターで1人ずつ地下駐車場に降りて行こう。」
「屋上から下を見てみたらやっぱりヤツらがいっぱいいるみたいだから…」
「地下から地上に出ずに進める道がないか探ってみよう」
『うん。優くんについていくよ』

そう言った矢先。
ボクたちが乗ってきたエレベーター横の階段からおびただしい数の「ヤツら」が登ってきたのだ。

「急ごう!」
『うんっ』

幸いヤツらは走ることはしない。
今のところは…。
だから、焦らず目的地まで走る。
今まで心臓のことを無意識に庇っていて全力を出せないでいたが、今、ボクは全力疾走している。
『(なんだ、走れるじゃん、ボク。)』
そう心の中でつぶやき、優くんを追い越す勢いで庭園を走り抜けていた。
いきなりの全力疾走。
さすがに息が切れてきた頃、目的の場所まで到着する。
やはり、1人しか乗れない狭さだった。
どうしよう?
そう考えるより先に、優くんがボクの手を引いて抱き寄せてきた。

『えっ』

ボクは思考が追い付かなかった。
そして、彼はこう言った。

「沙羅、大好きだよ」
ちゅっ

優くんにキスをお見舞いされた。
柔らかくて暖かい、そしてどうしようもなく切ないキス。
ボクの唇に優くんの唇が触れたのだ。
ボクはそれだけで思考が停止し、頭が真っ白になった。
それを狙ってか、その瞬間、気が緩んだのをいいことにボクは非常用エレベーターに押し込まれた。

「これで地下まで連れて行ってくれるから」
『えっ…えっ…?』
「沙羅は生き延びるんだ」

そう告げられ、頭を撫でられるとドアが強制的に締められる。

『やだ!!出る!出るから!!優くんと一緒じゃなきゃやだ!!』

ボクはドアを開けようとするがドアはロックされており、中からは一切開けられない状態だった。
ガシャンガシャンと空しい抵抗をしてみても意味はなかった。


【ビーーーーーー】

警告音と共に非常用エレベーターは容赦なく下に向かう。

『やだぁぁぁ!出して!出してよ!!』
『嘘でしょ!嘘って言って…よぉ!』


上の方で優くんの声が小さく聞こえた。



「ごめんね」