再会した幼なじみが、怖い不良になっていた

 休み時間。
 席から立ち上がり、何気なく窓の外を眺めた。

 校庭に出ていくジャージ姿の生徒たちの中に、熊澤を見つけた。

 昨日言った通り、彼は学校へ来たのだ。
 
 クラスメイトの一団とは少し離れたところを一人で歩いている。

 廊下で見かけるときもいつも一人だ。
 
 けれど孤独や暗さを感じないのは、その容姿のせいだろう。
 熊澤はとにかくデカくて目立つ。クラスメイトより頭一つ以上大きい。
 それにがっちりとした筋肉質な体格は、男の俺でも見惚れてしまうほどいい身体だ。

 熊澤は昼休みに、俺に何を話すつもりなのだろう……。

「新堂、何見てるんだ?」

 佐野が俺に声をかけてきた。

「いや、別に何ってわけじゃないよ。天気がいいなと思って」

「なあ、さっきの授業のノート貸してくれないか。書き終わる前に黒板消されちゃって」

「ああ、いいよ」
 
 自分の机からノートを出して貸してやる。
 
「サンキュー」
 
 佐野は斜め前の自分の席に戻って書き写し始めた。
 
 熊澤のことを佐野に相談しようかなと思った。
 1年の頃から互いに特進科のA組で、塾も同じ佐野とは一緒にいる時間が一番長い。

 学校の前を自転車がベルを鳴らしながら通っていくのが見えた。

「ありがと、助かった!」

 佐野はすぐにノートを返しに来た。

「なあ、もしもだよ。俺が自転車に乗ってて、突然飛び出してきた歩行者とぶつかったとする。すぐそばにいたお前はどうする?」

「え、なに? お前、事故起こしたの?」

 佐野は目を丸くした。
 
「いや、だからもしもの話だって」

 なんだ、と笑って考え始めた。
 
「うーん、歩行者がケガしてたら救急車呼ぶかな?」
 
「もし歩行者がもう息をしてなかったら?」

 俺は唾液をのみ込んだ。
 佐野の答えを聞くのが怖かった。

「やば。それでも一応救急車は呼ぶかな? でも、そんなことになったら、すごい賠償額取られそうだよな」

 なんだか話が逸れてしまった。
 俺が聞きたいのは、遺体を隠すかどうかだ。
 
「金の話はどうでもいい。それで、その後どうする?」

「どうするって? 俺にできることなんてないだろ」

「よく考えてくれよ」
 
 佐野はうーんと唸りながら、首を捻る。
 そして、しばらく考えてから答えを述べた。
 
「歩行者が急に出てきたってことの証人にはなってやれるけど……。ってか、これ何の話?」

「別に何でもないって」
 
 授業開始のチャイムが鳴って、俺たちは席へ戻った。

 佐野は遺体を隠そうなんて思いつきもしない。
 それが普通だ。俺が逆の立場でもそうだろう。

 なぜ熊澤は俺に協力してくれたのだろう。

 血で汚れた彼の横顔が、まぶたに蘇る。
 
 死体を切断して土に埋めてくれたんだ。
 人間の腕や足を切るなんて、俺にはできない。

 遺体を埋めてくれた熊澤に理由を尋ねたときのことを思い出す。
 
『どうしてだろうな』
 
 彼はそう言って目を逸らした。
 
 熊澤はヤバい奴だ。
 幼なじみの”豪くん”かも、なんていうのは俺の勝手な幻想にすぎない。
 
 もしかして、熊澤は死体処理の見返りを要求してくるんじゃ……。
 
 人気のない体育館の裏を指定したのも、俺をこれから脅すつもりだからなんじゃないのか!?
 
 胸倉を掴まれたり、殴られたりしたらどうしよう……。
 急に怖くなってきた。