再会した幼なじみが、怖い不良になっていた

「遅かったのね」

 家に帰るとリビングのドアが開き、母が声をかけてきた。

 思わず肩を震わせた。
 玄関の時計へ目をやると、いつもより1時間近く遅い。

 どうしよう。……何か言わなければ。

 緊張が走る。
 
「ああ、うん。……勉強のことで、ちょっと他の子から相談を受けていたんだ」

 出まかせの嘘だけど、母は怪しんでいない様子だった。
 
「夜食におにぎり作ってあるわよ」
 
「うん、あとで食べるから」
 
 リビングからは父と弟がテレビを見ながら笑っている声が聞こえる。
 俺はリビングへ寄らずに階段を上がった。

 自室のドアを閉め、その場にしゃがみ込む。

 無理だ。やっぱり隠し通せるわけがない。

 ――俺は人間を一人殺してしまったんだ。

 頭を抱え、髪の毛をグシャグシャとかき乱す。

 静かな部屋で思い返すのは、さっきのことだ。

 熊澤はどうして俺に声をかけてきたんだろう。
 今まで学校で会っても、目も合わせてくれなかったのに。

『誰かに様子が変だと気づかれたら、終わりだと思え。いいな?』

 彼の言葉が蘇り、俺は机に座った。

 もちろん勉強なんて手につくわけがない。
 だが、いつもと違うと家族に思われたらまずい。

 0時まで勉強しているふりを続けた。明かりの消えたリビングに行き、おにぎりを手に取る。
 正直、食べたくない。けれど口に入れ、麦茶で流し込んだ。

 そして、いつも通りの時間になってから風呂に入った。

 ベッドへ寝転んで天井を眺める。
 
 あの廃墟の死体はどうなるだろう。

 明日、熊澤は穴を掘って埋めると言っていた。
 本当にやってくれるのだろうか?
 
 仮にうまく埋められたとしても、ずっと隠し通すことは不可能なように思う。
 いずれバレるに決まっている……。
 
 朝になったら、警察に電話しよう。そう思った。

「おはよう」

 リビングに行くと、ダイニングテーブルの俺の席にトーストとカフェオレが用意されていた。

 食べたくない。そう思ったけど、食べないわけにいかない。

 ああ、やっぱり苦しい。

 つけっぱなしのテレビから朝のニュース番組の音声が聞こえてきた。

『――男性の遺体が発見され、警察は事件と事故の両面で……』
 
 思わず飲んでいたカフェオレをむせる。

 昨日のことかと椅子から飛び上がり、画面を凝視した。

 それは遠く離れた町の事件だった。
 
 関係がないとわかり、ゆっくりと席に座る。

『よく夜になると言い争うような声が聞こえてきて、物を投げてガラスが割れる音もしたり』

 取材に答える近隣住民の音声を変えた声。

 周りの人間は想像以上に見ているのかもしれない。
 
 あのときだって、熊澤の他にも見ていた人がいたんじゃないのか。
 もしかしたら監視カメラがあったかもしれない。
 
 ――やっぱりバレる。

 隠し続けることが無謀なように思えてきた。

 肩で呼吸しながら、テレビから目を背けた。
 
 キッチンで弁当を作ってくれている母の後ろ姿を見る。
 全てを打ち明けてしまおうかという気持ちが込み上げてきた。
 
 俺は席を立って、母のそばに寄ろうとした。
 
「かあさ……」
 
「――ねえ、母さん!」

 俺と母の間に弟が割って入った。
 
「今日学校に雑巾二枚持っていく日だった」

 その一言でリビングの空気が凍り付いた。
 
「やだっ! どうしてもっと早く言わないの。もう間に合わないよ」

「お願い、なんとかして! 忘れましたって先生に言うとまた怒られるもん」

 二歳下の明人はいつもこうだ。
 ギリギリの時間まで寝ている彼はまだパジャマのままで、髪には寝癖がついている。

「あんた、少しはお兄ちゃんを見習いなさいよ。こんなこと一度もないわよ」

「比べないでよ、兄ちゃんが優秀過ぎるんだ」

 反省の色も見せずに口を尖らす。

 俺が殺人と死体遺棄をしたなんて、彼らは夢にも思っていない……。
 
 人を殺したなんて家族に言えるはずがなかった。